光も闇も大差はない。
アルゼッドの街を支配していたアマンを倒した際、大量のゴールドとポイントが手に入った。
大抵は予想通りだったのだが時たま予想していなかった事も混じるのが世の常だ。
今回で言えばポイントだ。
あの夜に倒したの人間だけだった。
銀の騎士であるアマンも全身鎧で固めていた騎士も下っ端まで全員人間だ。
だから、獲得できるポイントは白ポイントなはずなんだが、今まで見たことのないポイントまで混じっていた。
色は黒。
ポイント数は52。
ただ誰を倒して手に入れたのか分からなかった。
そんなよく分からないものなので手を出していなかったのだが、昨日もう一人の銀の騎士を倒した際に黒のポイントがさらに増えたのだ。
というわけで、黒ポイントは銀の騎士から獲得できることが分かった。
合計で107ポイント。
ただ見当がつかないのだ。
これを使用したら銀の騎士みたいに黒いモヤに守られるかと言われれば、答えはノーだろう。
別に特別な根拠があるわけではないのだが俺はそんな気がしている。
黒の真逆が白だ。
獣を人化させる白ポイントの正反対の位置にある黒ポイントが自分を守るモヤを出させるとは思えない。
あれはおそらく敵の勇者のスキルの一部なのではないだろうか。
それを黒ポイントを割り振って強化した。
それが一番しっくりくる。
では、ここで問題に上がってくるのが、黒ポイントの特性だ。
全く予想がつかない。
あの黒いモヤだってなんなのかわかっていないのだから。
影なのか霧なのか、それとも霊的な感じだったりもするのだろうか。
というわけでだ、実験してみることにした。
合計で100ポイントほどもあるわけだし使わないのはもったいない。
「液体召喚」
どんなことになるか分からないから一番どうなっても問題がなさそうな使い魔を使うことにした。
「ねぇ、これって……」
外から人の視線が入り込めない作りになっている裏庭で俺が呼び出した使い魔を見てユイカさんが物珍し気な目をする。
「俺の最初の駒だった、スライムだ」
今回の領主の屋敷奪還戦では見えないところで戦果は挙げていたものの、目立った行動は一切していない使い魔である。
もともとが隠れてからの不意打ちで餌を捕まえる生き物なのだからあたりまえなんだろうけど。
「おー、ぷよぷよじゃぞ、ぷよぷよ」
そばにいたシロが嬉しそうにスライムを抱き上げる。
「俺の能力は魔石を使って使い魔を召喚すること。ポイントは使ってさらに召喚した使い魔を強くすることもできる」
俺ははしゃぐシロを無視して召喚したばかりのスライムに黒のポイントを40まで振った。
「ぬわっ!」
突然に光ったのがびっくりしたのかシロがスライムを放り投げてしまう。
「おい!」
俺の声を聞いて意をくみ取ったフラフィーが空中をくるくると回っていくスライムを危なげなく受け止める。
「投げるなよ……」
「吾輩は悪くないのじゃ。奴が光るのがいけない」
俺が軽く叱るもあまり効果があるとは思えない。
「こら! 生き物を投げちゃダメ!」
そんな時、そばにいたユイカさんが声を張り上げた。
「し、しかしじゃな……」
「言い訳もダメ! 命は大切にしないといけないの!」
優しい口調なのに有無を言わせるスキを与えない叱り方にシロの言葉が詰まる。
うーん、俺にはできないやり方だ。
「じゃ、じゃが……う、うぐっ」
「ああ泣くな泣くな!」
だが俺が危惧していたことが起きてしまった。
叱られたシロの目元に涙が浮かんでいく。
「主様あああああ!」
必死に涙をこらえているシロが駆け寄ってしがみ付いてきたのでしょうがなく頭を撫でてやる。
フラフィーが不満そうな顔をしたが我慢してくれ!
「まったく。そうやって甘やかすからすぐに泣くかな」
「でも、泣いたら大変なことになるのは知ってるだろ」
「……あれは確かに……怖いけど……」
ユイカさんが言い淀む。
銀の騎士が一撃でやられていたのを見ていたのは彼女なのだから、その破壊力を忘れているわけではないのだろう。
「けど……そのままじゃダメかな」
それでもなんとかしようと言葉を紡ぐ彼女は子供のことを放っておけない性格なのだろう。
「それは俺も思うけど……」
「ましゅたー」
「まずは泣いたら言うことを聞いてくれるって思っているのを直さないとかな」
「確かにそうだな」
「みゃすたー」
「その為には彼女が泣いても耐えられるようにしないと……」
「いや、あれに耐えられる自信はないぞ……」
先日見たばかりの、耳から血を噴き出して痙攣しながら倒れていた銀の騎士のことを思い出す。
黒いモヤが音までも防ぐのかは分からないが、守らなかったとしても常日頃から体を鍛えていたであろう彼が一撃で倒れるほどの音なのだ。
一般人以下の俺が耐えられるはずがない。
「ますたー」
「フラフィー、ちょっと待ってくれ」
拙い舌使いにずっと呼ばれていたが俺は目を向けることもせずにユイカさんと会話を続けようロする。
「フラフィー、何も言ってない」
そんなところにフラフィーが変なことを言う。
「いや、お前が俺を呼んだんだろ……」
思わずフラフィーのいる場所を向くと、再度下っ足らずな声に呼ばれる。
「ますたー」
喋ったのはフラフィーの腕の中に抱かれた黒いスライムだった。