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魔巧機師は優しい目つきをしているんです。



 この世界、というか俺たちのいるアルゼッドの街を含むこのワイアード帝国では獣人はあまり見ない。

 俺がこの街を支配していたカゲフミの手先を倒してから一日。街は本来の活気を取り戻し始めていたが、街中を歩くのは人間ばかり。


 リア曰く、過去の戦争において獣人は高い戦闘力を持ってたくさんの悲劇を生んだとかなんとか。


 というわけで、通常の獣人よりも獣に近い半獣人がいる光景はこの街の人たちにとっては珍しいのかもしれない。


 領主の屋敷には朝から街の人々がいろいろと集まってきたが、揃って庭にいる半獣人と俺の使い魔を見て警戒の色を強めた。

 街では領主の娘が悪魔と契約したとまで言われているらしい。


 その悪魔ってつまり俺のことだよね。

 

「この感覚はあまり好きじゃないかな」


 ナイトハンティングから帰ってきて休息を取っているグレイウルフたちを玩具にして遊んでいる半獣人の子供たちを眺めていたユイカさんがポツリと呟いた。


 獣同士がじゃれあっている姿に癒されているところを警戒されている目で見られたら誰だっていやだろう。


「俺もジロジロ見られるのは嫌だなぁ」


 屋敷から庭に出てきたばかりなのに、すぐ話しかけられるとは思っていなかった。

 俺は彼女に話しかけられたのをきっかけに隣に座る。べったりと俺の横をついてきていたフラフィーは座り終わった俺の上に乗った。


「それにしても凄い数。これでも一部なんでしょ?」


「すでに150体を超えているからね」


 ウィスパーレイヴンを召喚した後にグレイウルフとラピッドラビットを何体か増やしている。

 トモは今そいつらに絆刻印を授けるために頑張っているはずだ。


「種類は狼と鴉とこの兎以外にもいるたりするの?」


 ユイカさんは抱えたラピッドラビットを両手で抱えながら聞いてきた。


「残りはバイタードラゴンって恐竜みたいのがいますね」


「うわっ。小学生が好きそうなやつだ」


「確かにそうですけど……」


 なんだか俺が小学生並みに感性だといわれたみたいだ。


「私たちを助けてくれた時にもたくさん仲間がいると思ったけど、九牛の一毛だったわけだ」


「九牛?」


「たくさんの牛の中に生えた一本の毛のように、全体からしたらたった一部だけという意味かな」


 俺にことわざを説明しているときの彼女の横顔は楽しげだった。


「やっぱり前世は先生とかだったの?」


「小学校の教員だったかな」


 まだひと月も経っていないのに、どこか遠くを見つめる瞳はとても懐かしいそうな色をしていた。


「君はどうだったの?」


 感傷だけに浸るタイプではないのか、今度は彼女がこちらに聞いてくる。


「ただの学生ですよ。高校生。不登校気味でしたけど」


「ここに来る直前の記憶とかある?」


「とくには。死んだなんてことも覚えてないし、ぼんやりしてるかな。気づけばここにいたってのがそれらしいかも」


「ウチもそんなかんじ。どうしても転生する直前の記憶が思い出せないの」


 俺も気になってはいるけど正直なんだっていい。

 死んでから転生していようが死ぬ前に転生していようが戻れるかなんてわからないし、戻りたいともあまり思わない。


「戻りたいんですか?」


「どうなんだろうね。君はそうでもない感じ?」


「自分はとりあえずやることがありますから。まだまだ強くならないと」


 手のひらを握りしめると、からかう声が投げられる。


「さすがランキング1位は違う」


「……知ってたのか」


「そりゃぁ、いちばん上にいたら目につくもん」


 大人びていながらもどこか子供っぽさを残す笑み。


「だから俺に助けを求めたりする?」


「いや、あの時はそこまで知らなかったかな」


「じゃあなんで助けなんか求めてきたのさ」


 俺が聞くとユイカさんは特に考えることもなく答えた。


「フラフィーちゃんとシロちゃんが君に懐いていたからかな」


「……それだけ?」


「それだけ」


 さっぱりわからん。


「ふふっ。よくわかんないって顔してるよ」


「そんなに顔にでてるの、俺」


「うーん、ほかの子よりはわかりずらいかも。でも分かるよ」


「さすが先生ってところなんですかね」


 つい敬語で答えてしまった。


「子供に懐かれるのって大変なんだよ?」


「そうですかね。自分は最初から懐かれていた気がするけど」


「君の使い魔だからっていうのもあるだろうけど、それだけじゃないと思うよ」


「だといいけど……」


 俺が空を飛びまわってはしゃいでいるシロを見上げると服の裾をひっぱられる。


「また鳥ばっかり見てる」


「……お前、そんなに焼きもちなタイプだったか?」


 最近一段と甘えるようになったフラフィーに呆れているとユイカさんが我が物顔で答えた。


「我がままじゃない子供なんていないかな」


「確かに……」


 俺はその言葉になぜか納得してしまった。

 

 屋敷の庭に優し気な春風が流れ込んでくる。

 最近は夏が近いせいか熱めな気温だっただけに、気持ちが落ち着いていく。


「それで、これから君は何をするつもりなのかな?」


 そして魔巧機師が本題を切り出してきた。



検討の末、3話連続投稿は明日にさせてもらいます。

もうしばらく待ってください!

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