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涙も引っ込む悲痛な叫び。



 この世界では珍しい、ガラスを使い作られた大窓から差し込んできた光に背中を照らされるトモの顔は陰になり、こちらを見下ろしていた。


「……センパイ?」


「……はい」


 石材の床に土下座している俺は何とも言えない気まずさを覚えながら返事をする。


「センパイは確か、逃げたシロちゃんを迎えに行ったはずですよね?」


「……はい」


 俺の中にある本能が嘘をつけば大変なことになると暴れていた。


「だからシロちゃんに抱きつかれてべったりなのは別にいいです。こうなるんじゃないかと思ってましたし」


「……はい」


 いろいろ訂正するための言葉を飲み込んで彼女の言葉を遮らないようにする。


「彼女はなんですか?」


「……はい」


「はいじゃないですよ! なんでセンパイは行動する度に女性を増やしていくんですか!」


 心の中のナニカが限界だったのか、トモが叫ぶように両手を暴れさせた。


「ほ、ほら。人間って男と女しかいないしさ、それを仲間にするとしたら必然的に半分は女になるわけで……」


「なら今の男性の割合を言ってみてください!」


 トモの言葉で俺は一番近くにいる男性に視線を向ける。


 まずはクロだ。

 

 次に……。次に……。


「クロだけじゃないですか!」


「いやいやいや! リアの執事もいるし、牢屋には捕らえたテッドもいるじゃん! それにズズやゼゼも男だぞ!」


「それは近くにいる男性で仲間じゃありません! それにズズちゃん達は人化してないからノーカンです!」


「うぐっ」


 苦しい言い訳は案の定トモに言い破られ、俺の言葉が詰まる。


「それで誰なんですか、あれ」


「ユイカさんは俺達と同じ転生者だ」


 俺がそう口にした瞬間、ピクリとトモが震えた。


 気のせいかと思ったけど肌に感じる空気が張り詰めているような気もする。


「ユイカさん……ですか?」


「あ、ああ」


 ゆっくりと彼女の名前を繰り返したトモを肯定すると、そばに座って書類作業をしていたリアが顔を覆ってため息を吐いた。


「ずいぶんと仲良くなったんですね、センパイ」


 笑顔はとても明るくて素敵なはずなのに、影に隠れた笑みは体の芯が凍りつくかのような迫力がある。


「名前で呼んでるのは彼女がそうして欲しいって言ったからだ!」


「そうなんですか。ユイカさんに名前で呼んでほしいって頼まれたんですか」


「そうだけどなんか違う!」


 トモが言うような甘酸っぱい感じはないから!

 あれは単純に苗字を嫌っているせいだから!


「主様ぁ~、吾輩はお腹がすいたのじゃ」


 災難が重なるように面倒事も積み重なっていく。

 トモに睨まれる中、お腹に埋まる様に抱き着いてきているシロが俺の体を揺らした。


「分かった、分かったからちょっとまってくれ」


 俺がシロをなだめるために頭を撫でていると、トモの機嫌がさらに悪くなった気がする。


「そもそもなんでシロにはシャツしか着せてないんですか!」


「シロが嫌がるんだよ!」


 無理やり履かせようとしても暴れるのだ。

 しかもテテやツツ、クロにも手伝わせようとしたけど、泣かれるのが怖いのかやんわりと断られる。

 俺、マスターなはずなのに。


「無理やり履かせればいいんです!」


 うん、できるならそうしたいよ。


「無理なんだって! そんなことして泣いたらどうするんだ!」


「泣かせればいいんです! 泣いたらどうにかなると思っているから泣くんですよ!」


「た、確かにその通りなんだが……」


 だけど泣いたらそばにいる俺は死んでしまう。

 絶対に泣かせてはって――。


「な、なんじゃおまえ! 吾輩に気安く触るでない!」


「おいおいおい! シロを無理やり引っ張るな!」


 我慢ができなくなったのか、トモが俺にくっついていたシロを無理やり剥がそうとする。


「なんで止めるんですかセンパイ!」

 

「そりゃ止めるよ!」


「そんなんだから使い魔になめられるんです!」


「俺もそう思うけどそうじゃないんだって!」


 シロの腰を掴んで引っ張るトモの手首を握り必死に宥めるが、彼女が手を放す気配はない。


「センパイは甘すぎるんです!」


「いや、泣かせたら死んじゃうんだって!」


「死にません!」


 言い切った……。

 トモは目の前で彼女が起こした惨状を見ていないからそんなことを言えるんだ……。


「手を離せ人間! 主様は吾輩のなんじゃ!」


 ただ、このままでは本当に死んでしまう。

 俺だけでも嫌なのに、トモを巻き込んでしまう形で死ぬなんて絶対にダメだ。


「まずは手を放してくれないかトモ!」


「離しません! 離すのは彼女のほうです! 優先順位というものを教え込みます!」


「う、ぐぅ……。痛くなんか……ないのじゃ……」


 俺とトモの攻防が長引くごとにだんだんとシロの目に涙がたまっていく。


「泣いちゃうから! ほんと泣いたら死ぬんだって!」


「そうやって甘やかすからダメなんです!」


「う、うっ……」


 シロの腕がさらに強く俺の腰を締め上げた。


 これはやばい。


 そう思った瞬間、館の書斎であるこの部屋に机を叩く音が響いた。


「あんたたちさっきからうるさいのよ! 人が書類を書かなきゃならないのにさっきからそばで騒いで! 痴話喧嘩なら外でやってちょうだい! 見せつけないでよ!」


 それは人を殺せそうなほどに怒気をはらんだリアの叫びだった。


「ひっく」


 驚いた顔をしたシロの泣き声が喉元で止まる。



400ブックマーク達成です!評価ブクマしてくれて方に最大の感謝を!

3話連続投稿します!と言いたいのですがリアル都合でいろいろあり、3話連続投稿は明日か明後日にさせてもらいます。

楽しみにお待ちください。

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