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教師とは身近に居ながらふとした時に大人を感じさせる。



 国語の先生みたいな返事をしたユイカさんはとりあえず置いておいて、まずはこの場をどうにかすることにした。

 まずは馬車に追随するように走らせて近くで待機させていたグレイウルフたちに命令して周囲に隠れている盗賊を倒すように仕向ける。


「フラフィー、とりあえず奴を殺せ」


 その後フラフィーに命令を出した。


 倒れている銀の騎士がアマンと同じく黒いモヤに守られるのならばフラフィー以外だと咬岩竜のバイタードラゴンしかダメージを与えられないだろう。


 うん、フラフィーを連れてきてよかった。

 テテやツツも来たがっていたけどフラフィーにしたんだよな。


「わかった。まかせて」


 シロが抱き着いている間、シロを剥がそうとするフラフィーを落ち着けるために頭を撫でていた俺の手から抜け出したフラフィーが、喜々として誇らしげに後ろ腰に差したカトラスを抜いて倒れている銀の騎士へと走り出した。


「ちょっ」


 一番驚いた顔をしたのは助けてほしいと言ってきた本人であるユイカさんだ。


 しかしそんなことでフラフィーが止まることはなく、薄っすら光ったかと錯覚するほどの速さで曲刃の剣を振り下ろした。


 黒いモヤに剣の勢いが防がれたが、それでも意識のない銀の騎士の首を落とすだけなら問題ない。


「こ、子供になにをさせてるかな!」


 ガシっと俺の肩を掴んできたのは金属特有の冷たさを備えたユイカさんの右手。


「……一応言っておくと、フラフィーの見た目は子供だけど、あれは俺の使い魔だから」


「つ、使い魔?」


 未だに肩を離さないユイカさんが、切り落とした首から噴き出した血に濡れるフラフィーを再度見た。


「どうみても女の子だよ」


 それでも彼女の中には譲れない何かがあるのか、意思の籠った瞳がこちらを向く。


「それは見た目だけで元々は魔物なんだよ。ラピッドラビットっていう。あの揺れる兎耳が良い証拠だろ。俺のスキルなんだ」


「でも今は女の子でしょ」


 最初は怒気を含んでいた困惑の声が、年下の子を諭すような声音になる。


「そりゃぁ……そうかもしれないが」


 年上の女性に縁のなかった俺は聞き慣れない彼女の言葉にたじろぐ。

 ていうか、彼女の握力強い! 義手だからなのかもしれないけど、これは女性の握力ではない!


「でもこの場であいつを倒せるのはフラフィーだけなんだよ」


「君の後ろにいる執事は?」


「倒せる?」


 彼女の問いかけを俺はそのままクロに流した。


「無理でございます、ご主人様」


 クロはあくまでも俺に返答をする。


「な?」


「うっ……」


 彼女はまだ納得しきっていない顔をしていたが、それでも肩から手を放してくれた。


「強く握って申し訳なかったかな」


「良いよ別に。俺もあのビジュアルだけは好きになれないし」


 そういってこちらへ歩いてくるフラフィーを指さす。


「マスター、ほめて―」


 頑張ったよ。と、言わんばかりに満開にはじけた笑顔を向けてくるフラフィーの顔は返り血で軽いホラー映画みたいになってる。


 恐怖! 血まみれロリバニー! みたいな。少し見てみたい気もする。


「あれを好きになれたら徹底的に教育しなおしかな……」


 さすがにアレには引きつった笑顔になるユイカさんを見ていると、フラフィーが抱きついて来ようとするのを右手で抑える。


「むぅ……」


 不満そうな声をだすフラフィーだが頭を撫でてあげるとすぐに頬を擦り付けてくる。

 ここで無理やり抱きつかれてシロが泣きだしたらかなわん。


 フラフィーがちょろい子で助かった。


「よし。周りにいた敵も片付いたみたいだし帰るか」


「ちょ、ちょっとまって。もしかしてまだ仲間がいたりする?」


 俺が来た道を帰ろうとするとユイカさんに止められる。


「ああ。人型ではないけど、グレイウルフって狼がフォーマンセルの3組で計12匹ほど」


 彼女は俺の言葉を聞いて少し考えてから口を開く。


「……その子たちにあの森を西に進んだ方角にある村を調べて貰うことってできる?」


「理由は?」


「ウチらはその村からきたの。もし仲間が生きているのなら助けるのが君との取引条件かな」


 そうきたか。


「分かった。グレイウルフとウィスパーレイヴン、あとクロを向かわせるから生き残りがいたら言葉も通じるはずだ」


 俺は振り向いてクロに視線を向けるとクロは無言で一礼して森へと向かった。


「……ありがとう」


 それを見てユイカさんが頭を下げる。

 深々と、ほとんど90度で。


「……別に。取引条件だから」


「ふふっ。そういう素直じゃないところは子供っぽいかな」


 顔を上げたユイカさんは疲れた顔をしながらも笑っていた。

 それは子供を愛する慈愛に近いナニカなのだろう。



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