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子供に泣きつかれた時ほど気まずいものはない。



 カオスな世界を最初に動かしたのは泣きじゃくっていたシロだ。


「主さまああぁぁぁぁ!」


 転んだ子供のように真っすぐとこちらへと走ってくる。


 走ってくる……のはいいんだが……。


 やばくね?


 シロは現在泣きじゃくっている。

 彼女の周りの空気がうねる様に動いている気がするのは錯覚だろうか?


「ご主人様、ご臨終なされたくないのでしたら分かっていますね?」


「は?」


 突然振り返って目を見つめてきた忠臣に俺は訳も分からず言葉を漏らす。


「もし泣き声に巻き込まれたら、小泣きだとしても良くてあんな感じでございます」


 そういって指し示すのは耳から血を流し、痙攣するかのようにビクンビクンと震えている青年だ。


 サァーっと血の気が引いていく感覚を俺は生まれて初めて味わった。

 本当に体から血の流れが引いていくのが分かるのだ。こんなの小説なんかの比喩表現だとばかり思っていたのに。


「ご武運を」


 気づけばクロは空へ逃げていた。


「嘘だろ!?」


 俺は後ろを振り向くと、俺の服の袖を掴んでついてきていたはずのフラフィーまでいなくなってる。

 そういえばラピッドラビットって危機察知能力だけはずば抜けてるんだっけ。


 なんて思考が現実逃避なのはわかっている。


 再度前を向くと10メートル付近までシロが両手を前にだして向かってきていた。


 このままでは死の大好きハグをされてしまう!

 

「ふっざけるな!!」


 俺は走った。


 ただっ広い林の中を超絶可愛い天使のような女の子に追いかけまわれながら。


 わりかし本気で逃げ回った。


「なんでにげるのじゃああああ! うわあああああああああん!」


 俺が逃げるせいで泣き止むのが遅くなったのかしらないが、彼女が落ち着くのはもっとずっとあとだ。




 カオスすぎる。




     ***



 

 「うぐっ……。腕は痛い……。主様には逃げられる……。もうさんざんなのじゃ……」


 俺のお腹に顔をうずめるようにして両腕を腰に回すシロ。

 普通なら褐色美少女かっこ裸かっことじに抱き着かれるなんてラノベみたいな状況に嬉しくもなるのだが、さすがにこれは心穏やかではいられない。


 だって再び泣きだされたら死ぬかもしれないんだもん。


 クロだって警戒して3メートルは離れてるし。

 これってそれだけヤバい状況ってことだよね!?


「むぅ……。マスターに抱きつき、ダメ」


 この状況で果敢にも化け物に挑もうとしているのはフラフィーだけだ。

 

「てか止めろフラフィー! シロを無理やり剥がそうとするな!」

 

 せっかくハグしてもいいのを条件に泣き止んでくれたんだから、厄災を再び呼ぼうとするんじゃあない!


「大丈夫。フラフィー、早いから。あの声からなら、逃げれる」


 ドヤ顔である。


「それ俺は大丈夫じゃないよね!?」


 音よりも早く走れる的なことを口にする驚愕よりも、今までフラフィーに好かれていると思っていたのが錯覚だったのではとパニックになりそうになる。


 俺は一体何を信じればいいんだっ!

 この世で信じられるものはないのかっ!


「き、君、もしかして転生者かな?」


 俺がこの世の真理について頭を悩ましていると、少し離れたところから声をかけられた。


 声のしたほうに顔を向けると立っていたのは黒髪の女性。

 右腕と両足がロボットの人だ。

 黒髪をショートへアで動きやすそうな感じにしていて、小柄で細めのメガネをしているせいかインドアな印象を受けるも、どこか強気な感じもする。


 歳は20代前半だろうか。


 自分の中で彼女に一番近い存在をあげるとしたら、教育実習を終えて新任としてやってきた新米教師。それも小学校の。


「ウチの名前はユイカ。鬼怒川結華。君も転生者だよね?」


 金属の腕と足を持つ彼女の背後にはたくさんの獣人が控えていた。


「君もってことは、えーっと、きぬがわさん……も転生者なんですか?」


 名前で呼ぶべきか苗字で呼ぶべきで悩んでから、漢字でどう書くのか分からない苗字のほうで呼ぶことにする。


「そうかな。それと苗字はあまり好きじゃないからユイカでいい」


 彼女が返事をするまでもなく彼女が転生者なのはわかっていた。

 だから俺は名前を聞いた時点で質問をしながらスマホを取り出して、すでにフレンド一覧から彼女を検索している。


「ふーん、戦闘力は低くもなく高くもないか……。魔巧機師は人の体を魔法的な何かで動く機械にするスキルなんですかね?」


 この時俺の心はざわめいていた。

 トモを見つけた時と同じくらいテンションが上がっている。


 一番のきっかえは彼女の腕ではなく、彼女の後ろに控える獣人の手足だった。


「正確には生き物の体を魔巧機化する力かな。魔巧機化した後はこんな風に武器にすることもできるよ」


 俺の問いかけに分かりやすく答えてくれたのはうれしいが、誰ともしらない、下手したら敵なのかもしれない相手に自分の能力を喋るのはどうかとおもう。

 最初に名前を名乗ったのもそうだし。


 ただそんなことはどうでもよかった。


「生き物って……人間以外も?」


 彼女のスキルの説明にどうしても聞きたいことができたしまったから。


 俺が彼女のスキルに興味を示したのがバレたのか、彼女が一歩近づいてきた。


「取引しないかな? ウチはこのスキルであなたの力になる。だから、そのかわりに助けてほしい」


 まるで降って落ちてきたかのような旨い話に普段ならば警戒をするところだけど、ここまでくるとだいたい予想はついている。


 アマンとは別のシロに倒されたらしい白い騎士。

 疲弊した顔つきのユイカさんと50人以上いる獣人。


 そしてそんな獣人達を囲うようにして隠れている盗賊。


「俺は安くねーぞ?」


 俺の最高に歪んでいるであろう笑みに彼女はこう返した。


「寄らば大樹の陰……かな」



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