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穢れなき厄災は濡羽の空からやってくる。



「こ……のっ!」


 ウチは魔巧機化した右腕を銃へと換装し魔力を放つ。

 銃口から淡い魔力の光がほとばしり、銃の口径よりも大きな弾丸が木々を縫うように森を奔った。


 しかし、弾丸は獲物に当たることはなく、コケの生えた大木を穿つだけに終わる。


「っ!」


 ウチは当たらなかった悔しさを口にする余裕もなく、前を走る仲間たちに置いて行かれないように足を速めた。


 状況は悪くなる一方だった。


 いくら半獣人と言っても所詮は女子供。

 走り出したウチらを追いかけるように盗賊は現れ、挟み込むように左右に張り付かれている。


 盗賊を引きはがそうにも足手まといなウチがいるせいでそれも叶わず、倒そうにも一定の距離を開けられているせいで弾丸は命中しない。


 ここが森の中じゃなければ弾丸も当たったのかもしれないが、木々が邪魔をして敵の姿も見えないし、弾丸は立木に防がれる。

 


 どうにかして狂瀾を既倒に廻らせなければ。


 そもそも敵が攻撃してこない理由は?


 後ろも左右も抑えているのに攻めないということは……ウチらを誘導しようと――っ!


「このままじゃっ」


 逃げているつもりだったけど、敵に誘われていたとしたら最悪だ。

 正面から敵が待ち構えていたら今の戦力では到底太刀打ちできない。


 必死に頭を働かせていたが名案が思い浮かぶはずもなく、前方の光量が増え始めてきたことに気づく。


 木々の間隔が広がっていき、森が林に変わっていく。


 そのおかげで敵の姿が確認しやすくなったが、警戒してか距離を開かれた。


 この状況をチャンスと思えるほどウチは考えなしではない。


 これは敵がずっと狙っていたことなのだろう。


「……ど、どうしたの?」


 突然、前を走っていたみんなの足が止まり始めた。

 最初はちょっとづつスピードが落とされて、ついには完全にゼロとなる。


「お疲れ様」


 数十人単位の団体ですら固まって走れるほどに周りに木々がなくなった場所で、前から労いの言葉が投げかけられた。


 その声を聞いた瞬間に相手が誰だかを悟った。

 ウチは切れる息を無理やりに押し込んで村人たちの間を縫うように先頭に出る。


 夜明けの逆光に照らされていたのは銀色の鎧。


 その鈍い輝きは昨日見てからずっと忘れられずにいた存在。


「銀の騎士っ」


「もう顔を見たこともない相手に使えるのはやめたんだ。今は盗賊団しているだけで騎士なんて誇り高いお堅い役職じゃぁないよ」


 どこか間延びした眠たそうな声。


「僕は帰って眠りたいんだ。君たちも疲れているだろうし、あんまり抵抗せずにつかまってくれると助かるな」


 まるで近くのコンビニまでお使いにいかせるかのような気軽さでそんなことを頼み込んでくる銀の騎士に怒りが込み上げてきた。


「ふざけないでっ!」


 即座に換装した魔巧機銃で銀の騎士を撃つも、弾丸は彼に当たる直前に黒いモヤに滑るように流される。


「君だよねー。転生者って。イチヤ様がずっと探してるんだよね」


 敵の目の前だというのに銀の騎士はゆっくりとした動作で兜を脱いだ。


「安心して。誰も殺さないから」


 顔をあらわにしたのは想像よりも歳の若い青年。

 ウチよりも下か同じくらいだ。


「……どうせなら見逃してほしいかな」


「それはできない。特に君は手足をちぎってでも連れて来いと言われている」


 表情に張り付けたかのような笑みを浮かべる銀の騎士に一歩後ずさってしまう。


 ただ笑っているだけなのに、底知れぬ不気味さを感じたのだ。

 そんな不気味さを後押しするようにカラスの声が頭上から降り注ぐ。


「僕の名前はドゥビィ。今はカゲフミ三頭竜なんて肩書もあるけど仰々しくてあまり好きじゃないんだよね」


 友達の友達に自己紹介でもしているかのような彼に気を取られている間に、気づけば周りを盗賊に囲まれていた。


「僕らも君たちを殺したいとは思わない。やってもらいたいことがあるからね。素直につかまってくれないかな?」


「……嫌だと言ったら?」


 ウチの言葉に、背後に控えていた狙撃班の生き残り2人が戦闘態勢に入る。


「めんどくさいけど力ずくで捕まえさせてもらうよ」


 カラスがけたたましく泣き叫ぶ。


「悪いけど……って、うるさいなぁこのカラスたち」


 腰に差した剣を引き抜いたドゥビィが煩わしさを隠そうともせずに上を仰ぎ見た。


 それにつられて自分も数メートル上に存在する太い枝々に目を受けると驚きに体が強張ってしまう。


「な、なんだこれはっ!?」


 驚きの声を上げたのはドゥビィだった。

 ここで下手な演技をする理由も思いつかないし、彼が驚いているということは彼がやったことではないのだろう。


 頭上いっぱいの枝に止まっていたのはカラスの群れ。空いた隙間から見える空が遮られる程の数は1匹や2匹ではない。

 そこらかしこからカラスがこちらを見下ろしていた。


 それに大きい。

 翼を広げたら1メートル以上はあるであろう体躯をしている。


「君の仕業ー?」


 一度は驚きに表情を変えた彼だが、敵の将であるだけにさすがに冷静さを取り戻したのか、剣先を向けてきた。


「…………だとしたら?」


 ウチは迷った末にハッタリをかますことにする。


「関係ないね!」


 だが、そんな浅はかな考えをものともせずにドゥビィが腐葉土の折り重なった地面を踏みしめて走り出そうと――。



「これって修羅場ってやつかのー? 吾輩も混ぜてほしいのじゃー!」



 濡羽色に染まった天から一陣の白い閃光が差し込む。


 今までの鬼哭啾々とした空気をぶち壊すかのように明るすぎる笑顔で舞い降りた純白の翼を広げる少女はまるで――。



 ――まるで天使のようだった。



自分こういうキャラ好きなんです。

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