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楽しみにしていた未来と重なる今。

 


 青白い魔力の弾丸がこちらへ向かってくる盗賊の体へと突き刺さる。


 威力はかなりのもので、先頭にいた盗賊の体を吹き飛ばし、さらに後続にもダメージを与えていた。


 敵は一様に驚いた顔をして走り出していた脚が止まり出す。


 敵が驚いているのは魔力の弾丸のせいもあるだろうが、それだけではない。

 今までこの村の半獣人達は弓を使ってこなかったそうだ。だから彼らは今回も半獣人達は真正面から剣と爪と牙で攻めてくると思っていたのだろう。

 敵に中衛に控えている弓兵の数が多いのもそのせい。

 近接戦に持ち込もうとする半獣人達を弓矢で一方的に殺す算段だったはず。


「第二射撃って!」


 ウチの合図に魔力の再装填が終わった狙撃組が訓練通りに交互に足の止まった盗賊へと魔力弾を撃ち込む。


 派手な音はしないが、それゆえに静かに仲間が殺されていく光景は彼らにとっては最悪だっただろう。


「ーー! ーー! ーー!」


 魔力弾から身を守るために地に伏せていた盗賊達が、やられた先頭集団を指差しながら叫び始めた。

 距離があるのと彼らが動転しているのが相まって何を言っているのかはわからないが、大体の予想はつく。


 盗賊達が再度動き出す。

 魔力弾にはリチャージが必要なことに気づいたからだろう。

 本来リチャージに必要なのは10秒ほどだが、今回は一人一人の間隔を空けることで30秒ほどの時間を取っていた。


 狙いは2つ。


 1つ目は彼らにリチャージ時間を隠すため。


 そして2つ目が盗賊を動かすため。


 動き出した盗賊達は二手に分かれ村へと続く道を挟むように存在している森の中へと隠れ始めた。


 もう少し数を削れるかと思っていたが、こちらが想定していたよりも対応が早い。

 馬や馬車は森には入れないので捨てないといけないのだが、あとで回収できると慢心しているせいだろうか。


 村までの距離が近いことを彼らが知っているせいかもしれない。森の中を数百メートル進めばいいだけなのだから、馬は必要ない。馬車も村を占領した後に引いてくればいい。


 どちらにせよ好都合だ。


「森から顔を出した敵がいたらすぐさま撃って! 当たらなくてもいいから牽制になる!」


 こちらの目的は敵を森の中へ誘い込むこと。


 元々半獣人に狙撃なんてできないのだから。

 今回だって敵は直線だったのに倒した数は数人もいないだろう。


 今回の作戦は敵が弓矢を使えない場所で戦うことが最初の議題となった。

 前回は奴らが弓を使用したせいでこちらに何人かの犠牲が出ている。

 そこでウチが提案したのがこの作戦だ。


 敵を魔巧機銃で森へと誘い込み、森の中で仕留める。


 森は半獣人達にとってはホームグラウンドだ。森人ならば尚更に。


 元々猿も真っ青な立体的な動きを森の中ですることが可能な森人に、ウチが新しく取得した加速機構を使えるようになったのだから優位はこちらにあると言っても過言ではない。


 あとは狙撃組が敵が森から出ないように牽制しながら、狩猟組が森の中で盗賊を倒せばそれでこの戦いは終わる。


 森の中には森人特有の罠も仕掛けているらしい。


 想定よりも敵の数が少ないのが気になるが、少ないのなら問題はない。


 村の周りも見張りをさせているから敵が回り込んで来たとしても気づけるはずだ。


 大丈夫。


 今にでも森からドリノ達が帰ってくる。


 明日からはまたなんでもない日々が始まるんだ。


 うん。

 子供達に算数なんか教えるのもいいかもしれない。

 この世界の言葉は分からないから文字を教えることはできないけど、算数ならどの世界でも共通なはず。


 これからこの村はずっと大きく成長していくんだから。


 こんなところで負けたりはしない。


 早鐘のように鳴り響く心臓の音を聴きながらウチは暗闇が潜む森へと視線を向けた。


 ――その時。


 森の藪を揺らしながら、こちらへと向かってくる者がいた。

 周りにいた狙撃隊の若者達は私よりも早く気づいていたのか、ジッとその一点を見つめている。


 ただ魔巧機銃を向けてはいないことから恐らくは仲間なのかもしれない。


 そう思っていた矢先に、こちらへ向かってきていた者の顔が陽に照らされる。


「ドリノっ」


 照らし出された屈強な森人の名前を呼ぶと、ドリノは申し訳なさそうに苦笑したあと叫んだ。


「撤退しろ! 女子供を連れてこの村を捨てるんだ! 早く!」


「なっ……」


 何言ってるんだと怒鳴り返そうとしたが、その前に目に入ってきた彼の全身に言葉が詰まる。


 右腕が肩から無くなっていた。

 左脇腹は岩石がぶつかったかのように抉れて血が流れ出している。

 魔巧機化した右足もあり得ない角度にひん曲がっていて、なんだか壊れたオモチャのように見えた。


「すぐに奴らがくる! 今は俺たちが命がけで足止めしてるんだ! はやくいけっ!」


 血反吐を吐きながら命令を叫ぶ彼の表情は恐怖に支配されていた。


 先程は頼もしいくらいに自信満々で声を張り上げていた彼が、今では泣き叫ぶように命令を飛ばしている。


 その事実に若い半獣人達ですら命令をすぐに実行しようとしなかった。


「狙撃班は第二防衛線まで撤退! スキニー、避難組に逃走準備を進めさせて!」


「り、了解!」


 私が伝令役の男獣人に命令すると、伝令役は慌てながらも走り出す。

 それを見た狙撃班の半獣人達も慌てて動き出した。


「ドリノ!」


 こちらを見つめるだけで寄ってこようとしない彼の名前を呼ぶと、この村の森人隊長は軽快で人を安心させる見慣れた笑みを浮かべて、あっちへ行けと手でジェスチャーをする。


 まるで安心するかのように森の木に背中を預けて座り込んだ彼の姿を見て、ウチはグッと涙を堪えて村へと走った。


「事前に話し合った通りに必要なものだけを持ってすぐに森の中へ入れるようにして!」


 村を囲う塀よりも内側に最終ラインとして作っていた簡易バリケードに到着するなり指示を飛ばす。


 狙撃班の半数はバリケードで森を睨み、残り半数が逃走準備に向かう。


 まさか彼らが負けるはずがない。


 人の何倍もあるイノシシだって狩ってくる彼らが負けるなんてことがあれば、敵にはそれ以上の化け物がいる事になる。


 そんなの人間じゃない。


 悪魔や魔物の類だ。


 酷い怪我をしていたドリノの姿が脳裏をよぎる。

 あれは何かの悪い冗談であってくれと必死に心の中で願いながらいくらか距離のある森を眺め続けた。


 1分、2分と時間が過ぎてゆき、何分経ったかも分からなくなってきた頃、森の中から1人、姿を現す。


 銀の騎士。


 そう表現するしかない程に全身が銀色の鎧で包まれた敵がこちらへゆっくりと向かってくる。


「なんなの! ふざけるんじゃないかな!」


 ウチは仲間が森から帰ってこない憤りを魔力の弾として撃ち出した。

 今まで人を撃った事なんかないのに魔力弾は真っ直ぐと敵へと向かったが、弾丸が銀兜を避ける様に滑り背後の木を穿つ。


 ウチが撃ったのを合図に周りにいた狙撃班も銀の騎士を狙って魔力弾を撃ち出すが、魔力の弾丸が銀の騎士に触れそうになると闇のように昏いナニカに阻まれてダメージにならない。


 村を囲む塀を壊し銀の騎士が村に入ってきた。


「ウチの村から……その汚い脚を退けてっ!」



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