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長い夜の始まりはロマンチックとは程遠い。

 


 リリアラ村に住む半獣人は身体能力が人間よりも高い。見た目も獣っぽいところが多く、手足も毛で覆われていたりする。

 1番の特徴はやはり耳と尻尾。犬がベースの獣人である彼らは、元々大森林に住んでいたことからも分かるように森の中での戦闘に秀でている。


 目の前で戦う森人数人の戦いを眺めれば身体能力が人間よりも優れているのは一目見ただけでわかる。


 まずは脚力。


 圧倒的な瞬発力で木々を跳ね回ることが出来る彼らにとって、森の柱は邪魔になり得ない。

 体操選手ばりにクルクルと回りながら地面を転げ回って戦うのは手足が魔巧機化しても変わらないらしい。


 次に聴覚。


 草木が邪魔になる森の中では視覚を当てにはできないらしい。

 獣人は音の位置までしっかりわかるらしく、後ろからの攻撃まで見えているかのようにちゃんと避けている。


 最後に髭。


 ウチには分からない感覚なのだが、彼ら獣人は空気の流れを感じることができるとか。

 森の中は特に空気が固まっているので、小さな揺らぎで獲物を見つけることもできるらしい。


 そんな彼らが群れで狩りを行っても獲物が毎回獲れるわけはなく、それどころか逆に大型獣の餌にされることもある。


 音を出さず静かに。

 その場に留まらず走り。

 獲物を捕らえたら帰る。


 これが彼らの大原則らしい。


 まずは死なないこと。

 そうしなければ生きる事も出来ない。


 厳しい自然の中で培ってきた生きる為のルールなのだろう。


 では、そのような人間とは違う利点も兼ね備えた彼らをさらに強くする為にはどうしたらいいかを考えた。


 ウチが最初に取得したスキルは《魔巧機肢化》だ。

 今思うと、半獣人の先鋭である森人がチームで入っても死んでしまう大森林からこれだけで生きて出てこられたのは奇跡だと思う。


 次に《変形機構・銃》。

 これは魔巧機化した腕や脚を銃に変形させるスキルだ。

 見通しの悪い森で狩りをする為か、弓がないこの村では重宝すると2番目に取得したスキルであるのだが、結論としてはあまり役に立っていない。


 獣人は飛び道具を扱うのが苦手だったのだ。


 それでも銃は銃なので使い勝手はいい。

 大森林の魔物を一撃で殺せるなんてことはないが、牽制には十分だし、ダメージも与えられる。


 これのおかげで今までは犠牲を出さなくてはいけない魔物とも安全に戦えるようになったとは言ってた。


 だが獣人の力を最も引き出せたのは《変形機構・剣》である。


 これは魔巧機化した腕や脚を文字通り剣に変形する機構を組み込むスキルなのだが、剣は魔巧機と同じ素材だ。

 圧倒的硬度を誇る魔巧機の金属は、極薄の刃になると折れない欠けないの名刀に変わった。


 そんな名刀を長さや重さまである程度自由に変形させながら扱えるようになった半獣人達は、今まで刃の通らなかった獣相手に苦戦しなくなる。

 元々身体能力は高く索敵能力も備えていたことから、そこに攻撃力が出されれば強くなるのは必然だった。


 だからこそウチはどんなスキルを取るか迷った。


 近接の攻撃力としてはすでに剣を手にしている。

 遠距離は不得意なれど銃がある。


 スキルには感知系の機構を増やすスキルも有ったが、すでに彼らが持っているものを付け足してもあまり強くはならないだろう。


 結局考えた末に出した結論が《加速機構・脚》だった。


 使用制限はあるが、加速機構を獲得すれば半獣人特有の瞬発力が比較的上昇する。

 そんな考えでこのスキルを選んだ。


「センセイ。この脚で奴らに勝てるのか?」


「勝たなくちゃいけない」


「ははっ。たしかに」


 隣で一緒に仲間達の戦闘訓練を眺めるドリノは楽しそうに笑った。


「怖くない?」


 ウチはなんでそんな風に笑っていられるか不思議で問いかける。


「こえーさ。戦いなんかやめて家で子供とじゃれ合っていてぇよ」


 そんな弱音を吐いているのに、顔は満面の笑みだった。


「でもな、結局は誰かが何なきゃなんねぇんだ。失敗したら家族が死ぬかもしれないこれを。なら……俺がやるしかねぇ」


「よく……分からないかな」


 すぐそばで何度も魔巧機を使っては感覚を確かめている村人達を再度眺めるも、やはりピンとこない。


 今だに逃げた方が良いとウチは思っている。


 もっと良い土地はたくさんあるはずなんだ。


 ここにこだわる必要はない。


 先祖代々ここに暮らしてきたからここに居たいと言われたらそれまでだが、そんな事のために家族が死ぬなんて嫌だ。

 ウチなら耐えられない。


「ダハハハ! センセイも子供を持ったら分かるだろうさ! どうだい、この機会だし村の若ぇの何人か引っ掛けてみんのはよ!」


 ウチの内心を透かしたかのようにドリノが声を張り上げてそんな事を言った。

 そこまでは良かったのだが、その言葉に一瞬なりとも反応した若い連中が何人かいたことに関しては知らぬ存ぜぬを通させてもらう。


「遠慮……しておくかな」


 この村の人々って案外性関係がおっ広げだったりする。

 家の壁は薄い板だけに、夜になるとアレな声がそこら中から聞こえてきたり。


 ウチもウチでこの村の若い子からしたら珍しいのか何度も声をかけられた。


 別に心に決めた相手がいるとかそんなことはないのだが、口説き文句が「俺の子供を作ってくれ」ってのはどうなのかと思う。


 確かに明日にも命があるか分からない場所に住んでいるのだから、子供を作ることは大事なのだが、それを分かったからと言って自分がやれるかと言われればノーだ。


 もっとロマンチックにとまでは言わないが、せめて普通に恋愛をしてからがいい。


「もったいねぇなぁ! センセイは胸がない分しっかりアプローチしねぇといけねぇぜ!」


「セクハラ……」


 ウチは彼らに言っても通じないであろうモラルを訴える言葉を呟きながら胸を隠す。

 人並みより平らなだけだ。

 決して珍しいわけではない。ウチと同じくらい真っ平らな女性だって……見た事……ないかも……。

 そ、それでも探せばいるっ!

 確かに小さいけども無いわけじゃない!

 寄せても谷間は出来ないけど、触ったらそこそこ大きいってもうこんなこと考えてたんじゃないっ!


「作戦は大丈夫?」


「ああ。奴らにも叩き込んだ。それで出来ねぇ奴は死ぬだけだ」


 厳しくも見えるが、この村に言って出来ない者を救う余裕はない。


 いつかはそんな状況だってよくできるはずだ。


 まずは奴らを追い返さないと。


 太陽は半分以上も森に隠れ始めている。

 そろそろ夜の時間。


「やってきた! 奴らが西側からやってくる!」


 見張りの叫び声を聞いた村の戦士達はすぐさま動き出した。


 長い夜になりそうかな。



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