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これはこれで扱いずらい。



 上位ウルフとグレイウルフの模擬戦は上位ウルフの圧倒的勝利で終わった。


 次に上位ウルフ1匹対グレイウルフ2匹で戦わせてみると、勝敗は半々に分かれた。

 グレイウルフを3匹にしてみると今度はほとんど勝てなくなる。


「見てて」


 次にフラフィーの戦闘力を図ろうと思ったら、俺が何かを言う前にフラフィーが立ち上がった。


「怪我はさせるなよ」


「フラフィー、良い子だから大丈夫」


 誇らしげにそんな事を言ったフラフィーがグレイウルフの待つ場所まで歩く。


 グレイウルフから幾らか開けた距離でフラフィーが立ち止まると、それを合図にしたかのようにグレイウルフ2匹が動き出した。


 そこからは……まあ、予想通りというかなんと言うか。


 フラフィーをグレイウルフと戦わせてみると次元が違った。

 そもそもグレイウルフではフラフィーを見切れていないのだ。


 フラフィーのスピードがずば抜けているというのもあるが、戦力差としては20倍ほど。

 トップランカーの勇者が大人だとすると、フラフィーは子供、グレイウルフは赤ちゃんと言うべきか。


 赤ちゃんが子供に勝てるわけがない。


「フラフィーちゃん、遊んでますね」


「殴ったりできないから、その代わりに頭を触ったり、尻尾握ったりしてるもんな」


 あれはグレイウルフ達にとっては屈辱だろう。


「ボッチ種族の分際で家族を……許せません」


「夕食の量を減らしてしまいましょう、お姉様」


 横でテテとツツがなんか言ってるけど聞こえないふり。


「ご飯、少なくなるのはダメ」


「うおっ!?」


 ちょっと先でグレイウルフと戦っていたはずのフラフィーがツツの言葉を聞いてか、突然目の前に現れる。


 フラフィーは別段ツツの言葉に噛み付くことはなく、ただそれが言いたかっただけなのか、すぐに風となってグレイウルフ達の元へ戻った。


「フラフィー、もういいぞ」


 その姿を見て俺はフラフィーを呼び戻す。


 子供は子供でも鬼子だな、こいつは。

 たぶんグレイウルフが20匹いても捕まえるのは厳しいんじゃないかな。


「お父様、私も成長しとうございます」


 歩いて戻ってくるフラフィーを眺めていると、テテがそんな申し出をしてくる。


 多分、ポイントを振ればテテやツツなんかもあのくらい強くなれるのかもしれない。


 たしかに勇者に比べたら子供かもしれない。

 だが、子供が大人に勝つことができないなんてことはない。


 やり方次第だ。


 力で優った相手に勝つ方法が技術や作戦を積むこと。

 それは分かっているが、それが簡単にできるならこの世に強者は生まれない。

 本当に強い奴は技術や作戦にも長けているのだから。


「うーん、どうしたもんかなー」


「何か悩むことでもあるんですか?」


「たくさんあるぞ」


 足を伸ばして座っているトモが、グレイウルフを抱えた状態で、もふもふなお腹を撫でさすりながら俺の言葉を拾ってくれた。


「たくさんですか?」


 1分ほどお腹を撫で回されていたグレイウルフが解放されると、トモの横に並んでいた次のグレイウルフがトモの足元に座る。


 トモは何事なかったかのようにまたお腹を撫で始めた。


「お腹を撫でられるために並ぶグレイウルフほどじゃないけどな……」


 行列のできる撫で屋さん。

 狼が列をなして並ぶって光景は異様を通り越して童話的だ。


 子供が見たら喜ぶんだろうな。


 それとグレイウルフに混じって並んでいるテテとツツはなにしてるのかな?


「お母様に撫でてもらう機会を逃すわけには行きません」


「前に同じくです、お父様」


 テテとツツが揃って口を開いた。

 だから心を読むな。


「1匹撫で始めたらみんなしてお願いしてくるんだもん」


 苦笑しながらも撫でるのをやめないトモ。

 案外この状況を気に入ってるのかもしれない。


「それで、考えてることってなんですか?」


「とりあえずはゴールドとポイントの使い道だな」


 俺はスマホを取り出しながら答える。


「今どのくらいあるんですか?」


「1500ゴールドくらいだな。ポイントは白が1000ちょいだ」


 自分のステータスを確認しながら答えると、トモがこちらを訝しむような目で見つめてきた。


「またメス使い魔を増やすつもりですか?」


「メス使い魔って言うな!」


 なんか如何わしくなっちゃうだろうが。


「でも事実じゃないですかー」


「そりゃそうだけど……」


 これまでメスの使い魔しか召喚してないから何も言い返せない。


「数を増やさないといけないのは分かってるんですよー。でも偶にはメス以外も人化しません?」


「別に下心があってメスだけを人化させたわけじゃないし……」


「なら次はオスでいいですよね?」


 笑顔を向けてくるトモと視線がぶつかる。


「おまえ……そんなにオスの使い魔が欲しいのか?」


 俺はつい、思ってしまった事を口にしてしまった。


「っ!」


 途端に顔を赤くしたトモ。


「なんでそうなるんですかっ!」


「きゃうん!」


 被害を受けたのはトモに背中を預けてお腹を見せていたグレイウルフ。


 理不尽な暴力が使い魔を襲う。


「私はただメスだけだとバランスが悪いって言いたいだけです」


「あ、ああ。分かったから尻尾を引っ張るのはやめてあげろ」


 嫌がるもお利口なグレイウルフは暴れようとはしない。甘んじて理不尽な暴力を受ける使い魔の鏡だった。


 お前には後で良い肉を食わせてやる……。

 そしてテテとツツはなんで羨ましそうな顔で見ているのかな?


「なら次はオスですからね……。これ以上増やされたら堪りませんっ」


「分かった。分かったって」


 トモを宥めてから俺は深く息を吐く。

 なんだか疲れた。


「お父様、お茶に致しますか?」


「頼むよ」


 気の利いたテテの問いかけに俺は頷いて答える。


「畏まりました。もうしばらくしたらトトが持って来ますので、少々お待ちを」


「お前がいけよ!」


 トトは忙しそうに書類の処理に追われてるリアの手伝い中だぞ。


「お父様。私はあと3つで念願が叶うのです。ここを離れろなんて酷な事を仰らないでください」


「前に同じくです」


 テテとツツが断固としてトモに撫でられる姿勢を取る。


「はぁ……」


 俺がため息をつくと、ちょうど隣まで歩いてきたフラフィーが隣に座った。


「マスター、お疲れ?」


「いいや。ただちょっとな。使い魔がお前みたいに聞き分けが良いと楽なんだけどって思っただけだ」


 俺は何気なくフラフィーの頭を撫でる。

 雪毛の耳が心地よい。


「フラフィーは良い子だから、もっと撫でて」


 自慢げな顔で気持ちよさそうに頭を擦り寄せてくるフラフィー。


「お、お父様……」


 気づけば横でワナワナと震えるテテとツツがいた。


「美味しい紅茶が飲みたい気分だから誰か見立ての良い子が入れてくれたら、きっとお礼に頭でも撫でてあげるんだけどなぁ」


 俺が棒読みでそんな事を言うと、


「「しばしお待ちを!」」


 テテとツツが声を揃えて走り出す。


「こう言うところは姉妹っぽいよなぁ……」


 揃って走り去っていく二つの背中を眺めていると、トモが俺には聞こえないほどの声量で何か呟いていた。


「センパイのナデナデ……」



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