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戦争とは戦う前の平和にこそ意義がある。

 


「センパーイ。やばくないですかー?」


 トモの緩みきった声が耳に届いた。

 主語の抜けた言葉なのに彼女が何を伝えたいのかはよく分かる。


「やべーな」


「ちょっと暑いですけど、それすらもやばいです」


 俺たちは庭に大量に寝っ転がったグレイウルフに囲まれるようにして座っていた。

 総数40匹を超えるグレイウルフにだ。


 それはもう毛皮の集まりとしか言いようがない。


 暑い。

 ただでさえ人間よりも体温が高い犬が寄ってたかって集まって来たらそりゃ暑くなる。


 でも、そんなのがどうでもよくなるくらい気持ちがいい。


「これは……やべーな」


 完全なる語彙力の喪失。


 適当に手を伸ばすと腕の全てがグレイウルフの毛に包まれて、手のひらには柔らかいグレイウルフのお腹が触れる。


「現実じゃ嫌がったりして逃げちゃう子多いですもんね」


 大型犬だろうと、頭を置かれたり足を置かれたり背を預けられたりなんて嫌だろうしな。


「お父様。こちらのお腹もお撫でしませんか?」


「しねーよ……」


 突然、そばにいたテテがメイド服の裾の長いスカートをたくし上げるようとするので慌てて辞めさせる。


「なぜでしょう。弟達はこんなに撫でられておりますのに」


「人化してるからに決まってるだろ!」


 俺はわざわざ言葉にして説明する。

 横からトモの厳しい視線が向いているのは見なくても分かった。


「そうですか…………。っ!」


 俺の言葉をしばし考えたテテは理解したとばかりに口を開く。


「つまりお父様は毛深い方が好みなのですね」


「なんでだよ!」


 予想が斜め上過ぎるどころか天高く舞い上がった。

 ほら、トモがなんか驚いた目で見てるじゃん!


「お前はもう立派な淑女なんだから気品とか慎ましさとかをだな……」


「お父様」


「なんだよ」


 テテがジッとこちらに目線を縫い付けて名前を呼んできた。


「それはつまり夜へのギャップを持たせるための準備……ということで宜しいでしょうか?」


「全然よろしくねーよ!」


 このメイドは俺の言葉の何を聞いていたんだ。


「気品や慎ましさを汚したいあたりですね」


「言ってないからね!?」


 ダメかもしれないこのメイド。


「冗談ですよ、お父様」


 クスクスと嬉しそうに笑うテテ。


 狼の考えることはよく分からん。


「テテお姉様は構って欲しいのですよ、お父様」


 俺の心に答えるようにツツが口を開く。


 勝手に人の心を読むなよ。今更だけど……。


「……田舎のおばあちゃんが飼っているダックスフンドを思い出した」


 人が大好きすぎて誰彼構わず構って構ってと遊んでくるんだ。


「私が愛しているのはお父様とお母様、それと家族だけですよ。人間なら誰でもいいなんて思いません」


「……だから心を読むなよ」


 俺は照れる顔を隠すように前を向いた。


 少し離れたところではズズとゼゼが他のグレイウルフ2匹と戦っていた。

 別に殺し合いをしているわけではなく、模擬戦的な感じでの戦力調査だ。


 ステータスに関してもうちょっと詳しく知っておきたいからな。


 今回の戦闘で調べているのは数度ほど成長させたグレイウルフとノーマルなグレイウルフの戦力差。


 戦況はズズとゼゼが圧倒的に有利だ。

 ホットブリーズグレイウルフであるズズの戦闘力は49。

 ダークグレイウルフであるゼゼの戦闘力は46。

 ノーマルなグレイウルフの平均戦闘力は約30。


 戦闘力にして約1.6倍の差がある事になる。


 戦いにおいて戦力差1.5倍以上をひっくり返すことはほぼ不可能だ。

 特殊な条件において敵より有利な何かを持っていないと、まずひっくり返らない。


 これは昨日の戦いからも学んだ。

 どんなに数を増やして俺の戦闘力の数値を上げようとも、所詮は小さな力の集まりでしかない。


 蟻は象すら殺せるかもしれないが、それにだって限度はある。


 体格差とはそういうものだ。


 象を殺すのに何千何万と仲間を犠牲になんて、できるわけがない。


 だからこそできるときに準備をしなければ。


「でもどうするかだよなぁ……」


 ランキングでトップクラスの勇者を確認すると戦闘力だけでも5000超えなんだ。

 職業が戦士や魔法使い系で、俺みたいに使い魔を使うタイプではないのは明白。


 一番強い個人の戦闘力が6000なんかは強すぎる。


 こちらで現状最強なフラフィーですら1000にも届かないのに。


 それでも絶望的には感じない。


 俺は少し浮かれた気分で総合力ランキングトップの名前を見た。




 ー総合力ランキング


 1位:ケイ

 2位:アキラ

 3位:ルナ

 4位:ソウジ

 ・・・

 ・・・




 そう、俺がトップなのである。


 俺自身は雑魚当然。

 街の兵隊にだって勝てないだろう。

 それでもトモのスキルと使い魔の数でブーストされた俺の総合力はこの世界の誰よりも強力なものになっていた。


 これがどんな影響を及ぼすかは分からない。


 トップになるということは目立つということだ。


 誰の目にも止まり、思わぬ策略にハマるかもしれない。


 上等だ。


 やってやるよ。


 魔王の俺に敵対したことを後悔させてやる。

 まずはイチヤとかいう奴だ。


 奴を倒す。




 名前:ケイ

 種族:人間

 職業:召喚師

 所属:

 加護:

 字名:最弱の魔王候補

 称号:転生者


 戦闘:18234

 資金:1543ゴールド

 支配:1248


 総合:24309




 戦闘力6000?

 雑魚だね。



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