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人体魔改造者は村を愛する。

第三章開幕です。

 


「なんなの! ふざけるんじゃないかな!」


 濃い闇から湧き上がるように現れた銀の騎士にウチは悪態を吐きながら自らの魔力を弾丸として撃ち出した。


 空気を切り裂いて魔力の弾丸は敵の兜へと命中するが、柔らかい音を発するだけに終わる。

 まるで闇を滑るかのようにこちらの攻撃が通り抜けたのだ。


 ウチのスキルで魔巧機(まこうき)化された村の狩人達も同じように魔力を弾丸として敵へ打ち込むが、銀の騎士は全く怯まない。


 今まで相手にして来た盗賊とは違う。


 あんな圧倒的な力はスキルでしかあり得ない。


 ずっと守って来た小さな村に敵が足を踏み入れる。


「ウチの村から……その汚い足を退けてっ!」




    ***




 ウチがこの世界に転生してからもう3週間が経とうとしている。


「ユイねぇおはよー!」


「ユイねぇ、俺も魔巧機化してくれよ!」


 朝日が完全に顔を出し切っていない白ばむ空の下を駆けてきた何人かの子供達は、村の中心にある井戸の側にいるウチの姿を見つけると元気に取り囲む。


「ダメかな。子供には危ない」


 ウチを親しんでくれる子供達の中でも最も活発な少年であるカラリの頭を人の手である左手で撫でながら私は微笑んだ。


「いつもそうやって誤魔化す! 俺だって早く森人になって狩りをしたいんだ!」


 森人とはこの村の狩人の名称で、村の後ろから大陸を二分するルバード山脈まで続く大森林へと入り、村では貴重なタンパク源を確保してくる者達のことである。

 大森林には強力な魔物が跋扈し、並大抵の者は殺されてしまう。

 そんな大森林へと赴き獲物を狩ってくる彼ら森人は、村の中では憧れと敬いの対象である。


「私もいつかユイねぇみたいにパパ達の脚を治せるようになる?」


「それも無理かなー」


 純粋な瞳をこちらに向けてきたのはムア。ボサッとした茶髪をおさげがポイントで引退した森人が父親の少女。

 彼女の父親はウチの最初の実験体であり、ウチのこの村での雇い主みたいな人。


 数日彷徨った森からやっと抜け出たウチを見つけたのは彼であり、それ以来ムアの家でお世話になっている。


「ユイねぇまたあれ見せてよ!」


「危ないからダメかなー」


「いいじゃんケチ!」


「そんなこと言ってないで、早く朝の手伝いしないとご飯もらえなくなるかも。蒔かぬ種は生えぬだぞ」


 私は人差し指を立てて子供達に仕事を思い出させると、彼らは慌てて井戸に桶を放り投げた。


「絶対俺も森人になるから、その時は最高にカッコイイ魔巧機をくれよな!」


 明日が明るい夢と希望に包まれていると信じて疑わない眩しい笑顔を見せるカラリの声を聞きながら、私は街の中心にある井戸から冷たい水を引っ張り上げる子供達を手伝う。


 魔巧機。


 生命に宿された魔力で動くカラクリの事をそう呼ぶらしい。


 私の魔巧機化された右腕は子供2人が重たそうに引っ張る桶を片手で易々と持ち上げた。


「……かっこいいな」


 控えめで静かな声だがカラリと同じように目を光らせてこちらを見ているのはアカム。

 細身ながらも目端の利く子で中々に利口な印象を持っている。

 日本にいたならば、きっと眼鏡をかけている事だろう。


「ありがとユイねぇ!」

「ありがとっ!」

「後でお母さんが作ったリアムのジャム持っていくね!」


「転ばないように気をつけて」


 子供には重たいであろう水桶を抱えたムアと他の女の子達が嬉しそうに手を振って歩いていくのを私は見送った。

 側では未だに興味津々な男の子達が井戸の水を持ち上げる私の右腕を眺めている。


 いつもと同じ緩やかな刻。

 長閑であるのに騒がしく、ゆっくりと流れているはずなのに気づけば通り過ぎていく時間。


 ウチは気づけば深い森の中にいて、訳も分からないままに謎のスマホとスキルを使い生き残り、この村にたどり着いた。


 小さな芋とトマトに似た野菜を栽培し、大森林から得た山菜と鳥の肉でその日を凌いでいる寂れた村。


 その名もリリアラ。


 世帯数は100も無く、子供は8人。

 若い手は少なく、殆どが40から50歳。この世界では年寄りに入る人達。


 そんな質素な村だが、私は結構気に入っていた。


 朝は村で飼われている家畜の餌を求める声で起き、昼は子供すらも汗水垂らし働いて、夜は家族で一つの鍋を囲む。


 これで本を読めたのなら文句なしなのだが、無い物をねだってもしょうがない。

 潮騒のように引いては押し寄せてくる人の営みの音はそれだけ心地よく耳に響く。


 井戸を囲む岩に魔巧機化された右腕が擦れ、独特な鋭い音が鳴った。

 ウチは右手をマジマジと眺める。

 一見したら人の手と同じだが、触ると冷たく押すと硬い。


 金属の(かいな)


 私は魔巧機師らしい。

 その力は生き物の体を魔力で動く魔巧機に変える。


 所得しているスキルは《魔巧機肢化》《変形機構・銃》《変形機構・剣》の三つ。


 《魔巧機肢化》は脚や腕の四肢を魔巧機化するスキル。


 私はそのスキルで自分の右腕をカラクリにして大森林の中をなんとか生き残った。

 片手で楽々と水の入った桶を持ち上げられる通り、この義手や義足は並の腕や脚よりも力強い。

 リリアラに着いてからは元森人の魔物に喰われ半分以上無くなった脚や、盗賊に襲われ斬られた腕を治してきた。


 そうしてこの力を認められ、ウチはこの村に居つくようになる。

 こういう村は本来余所者を受け入れない。この時代、基本的に余所者とは他処で罪を犯し、追い出された者が大半だからだ。

 それでもウチがこの村で家族のように暮らしていけるようになった切っ掛けは、やはりムアの父親のおかげだろう。


 元森人長。現魔巧機隊長。


 大森林での事故が多く死ぬ者も少なくなかった森人達だが、今は魔巧機化された腕と脚を持ち安定した食料を調達できるようになっている。


「センセー! ちょっと来てくれ!」


 噂をすればムアの父親であるドリノがウチを呼んだ。


「はーい! 今いくー!」


 子供の持っていた桶全部に水を入れ終え、自分の顔を洗っていた私はここから届くように大きな声で返事をする。


 この村での私の立ち位置は物知り以上医師以下の魔巧機師。

 前世の科学的世界の知識を活かし、村を良くするために働いている。


 付いたあだ名はセンセイ。


 嬉しいような嬉しくないような。


 呼ばれた場所へと赴くため湿っている地面を踏む。


 この村は好きだ。


 人々は慎ましやかなれど希望や活力を持って生きている。

 前世とは違って疲れた顔で自殺する者もいない。顔が見えないのをいい事に人を陥れようとする者もいない。


「先生は先生でも、私は教員の方だったんだけどな」


 今はもう遠い昔のように感じる、教壇に立って子供達に勉学を教えていた時代を思い出し、私は苦笑して歩き出した。




 名前:ユイカ

 種族:人間

 職業:魔巧機師

 所属:リリアラ村

 加護:

 字名:人体魔改造者

 称号:転生者


 戦闘:648

 資金:234ゴールド

 支配:0


 総合:1265




新キャラ登場です。

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