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鉄の臭いに俺の何かが曲がりそうだ。

 


「盗賊が集まってやがる!」


 俺は叫んだ。


 ついさっきまでズズとゼゼを追いかけて森を走っていた盗賊も、北門に集められていた盗賊も、外壁の警備をしていた盗賊も、街の見回りをしていた盗賊も。

 街の至る所に配置していたラピッドラビットからの情報で、町中にいる盗賊全員がここに集まってきていることに気づく。


「くそっ! 魔法か!?」


 俺が銀の騎士を睨むと彼は大仰に両腕を広げながら答えた。


「魔法なんてお堅いもんじゃねぇ。俺たちカゲフミのリーダー、イチヤ様の力だ!」


 俺が見落としていたポイント。


 転生者が敵にいる可能性。


 なんでもっと早く気づかなかったんだ。

 イチヤなんてあからさまに日本人名なんだから、最初に意識しておくべきだった。


 俺が使い魔とどんなに離れていてもコミュニケーションが取れるように、人間同士を仲間に引き込みコミュニケーションを取れるようにするスキルを持った奴がいる可能性を。


 カゲフミ全員がイチヤって奴のスキルでコミュニケーションを取れるわけではないらしいが、あの銀の騎士は盗賊達へ命令を飛ばせる。


 でなければ奴の言葉を合図に集まってくるなんてありえない。


「……お前はその代理ってわけか?」


「この街をイチヤ様に変わって面倒見てるんだ」


 銀の騎士はまるで支配者のように踊り場からこちらを見下ろす。


「なら……お前を倒せばいいんだな」


「倒せるならな」


 冥暗の如き陰に覆われた銀の騎士の顔がひどく楽しそうに嗤う。


「やれっ!」


 俺の言葉を合図に使い魔が動き出した。


「殺せ!」


 それを見て銀の騎士が声を上げる。


 大階段を駆け下りてくるフルメイル剣士10人。

 2人ずつで列になって隙がない。


 俺はフルメイル2人に対してグレイウルフ4匹の班ごとで対応させる。


 正面から1匹で牽制し、もう1匹で背後を襲うように指示を出すが、フルメイル剣士達はお互いに背中を合わせてカバーをし合っていた。

 これでは奴らを倒すのは難しいだろう。


「おい銀色!」


「あっ?」


 俺の呼びかけに銀の騎士がこちらを睨む。


「隙だらけだ」


 俺が嗤うと同時に銀の騎士の背後から暗闇に溶け込んだ幼女が飛び出した。


 音も無く、陰も無く。


 草原の狩人が刃を振るった。


 フラフィーが手にした無骨なククリナイフが銀の騎士の首を捉える。


「やった!」


 背後からの一撃。

 開幕から狙っていた攻撃が成功したのを目の当たりにして俺はガッツポーズを取った。


「惜しかったなっ。大いに惜しかった!」


「んぎゅ!」


 フラフィーが大階段の踊り場から吹き飛ばされ、二階へ繋がる大階段に打ち付けられる。


「フラフィー!」


「……問題ない」


 俺の叫び声に答えるようにフラフィーは階段にぶつかった直後に跳ね上がって、再び闇に溶け込んだ。


「なかなかに速えじゃねぇか」


 銀の騎士が余裕の態度で鷹揚に剣を抜いた。


 なんだ今のは。

 フラフィーの剣は確実に奴の首を捉えたはずだ。


 俺が焦る中、フラフィーはもう一度攻撃を仕掛ける。


 銀の騎士の正面に姿を現した後、階段の手すりから生じる闇に紛れ、その後壁を利用した立体的な動きで背後を取り、ククリナイフを斬りつけた。


 狙ったのは銀の騎士の腕。

 鎧と籠手の小さな隙間。


 見事なフェイントを挟んだフラフィーの攻撃は銀の騎士の手首に寸分違わず命中するが、奴の手から血が吹き出ることも、ひるむ様子も無い。


 しかし今度はフラフィーも学んでいるのか、攻撃の後に動きを止めずにそのまま闇に紛れ込んだ。


「ちっ」


 苛立つ銀の騎士。


 フラフィーは銀の騎士へ攻撃が通じず、銀の騎士はフラフィーの速さについていけない。


 しかし状況は良く無い。


 このまま時間が経てば盗賊が集まってくる。

 数は100人以上。


 しかもグレイウルフ達は半数以上がフルメイル剣士と戦っている途中だ。


 こちらもこちらで苦戦している。


 そもそもグレイウルフではフルメイル剣士を殺せないのだ。

 全身を鎧に覆われてしまうと噛みつきも引っ掻きも効果がない。


 こんな乱戦ではヒートやフレイムが頭へと張り付くことも難しいだろう。

 それにあの練度なら張り付いた瞬間にもう片方の剣士に対処されそうだ。


 今までの盗賊とはレベルが違う。


「ぐあっ!」


 だが、こちらも戦力がグレイウルフだけということはない。

 鋼で出来た鎧が凹むほどの蹴りを受けたフルメイルの騎士が吹き飛び、壁にぶつかる。


 ツツが戦いに加わった。


 ツツが吹き飛ばし、壁に凭れるようにしてなんとか立っているフルメイル騎士にB班のグレイウルフ4匹が一斉に襲いかかった。


 その瞬間――、


「うがあああああ!」


 突然ツツの強烈な打撃を食らって立つのもやっとなはずの騎士が叫び、剣を横に薙ぎ払う。


「B班! くそっ! C班、カバーしろ!」


 瀕死のはずのフルメイル剣士の一撃はそれだけでグレイウルフを3匹纏めて斬り飛ばした。


 最初に刃を受けたグレイウルフは胴を半端ほどまで斬り裂かれ絶命。残りの2匹は剣の勢いに飛ばされただけで傷はなく着地する。


「気をつけろ! ボスだけじゃない! フルメイルの奴らもバフをつけられてる!」


 気づけば声を荒げて指示を出していた。

 頭で意識するだけでより正確に、より迅速に伝えることができるのに。


 クソッ。


 落ち着け。

 グレイウルフ達は戦士だ。

 戦うために生まれてきた。


 死ぬのを覚悟して戦っている。


 そんな彼らの死に一々動揺していたら召喚師として本末転倒だ。


「……センパイっ」


「危ないから下がってろ!」


 心配そうに俺の肩へと手を置いたトモに言葉を飛ばす。


 自分が招いたこの状況があまりにも最悪になりかけていると、自分でも分かっている。


 反省は後だ。

 今はこの状況をなんとかしなければ。


 俺は頭を落ち着けるために鼻から息を吸い込むと、錆びた鉄のような、熱く滾っていたはずの血潮が冷たく固まった臭いでむせ返りそうになった。



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