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敵は前にいるだけではない。

 


 街に建てられた家とは違い、街の中心として建てられた領主の屋敷は石壁と鉄製の柵で囲まれていて、重々と行く手を阻もうとする正面入り口の門には2人の見張りがいた。


「ぐぽっ!」


「ごかぁ!」


 しかし、巨大な体躯を持った兵士2人は音もなく頭上から襲ってきた赤い液体に頭部を包まれて叫ぶ間もなく倒れる。

 頭につけていたヘルメットごと溶かされた彼らは、襲撃者を認識することもできずに呆気なく命を落としていた。


「セ、センパイ。堂々と正面から攻めてもいいんですか?」


 俺たちは屈強そうな屋敷の門を守っていた門番が死んだのを確認してから歩き出した。


 後ろを歩いているリアとアルザおばさんの隣で不安そうな声を出したトモだが、それでも渋々とついてきている。


「ここまできたら隠れる意味がないんだよ。中に入ったらどうせ見つかるんだし」


 街道から真っすぐ続く大きな通りに作られた屋敷の門をツツとトトが優雅に開く。その姿はこれから屋敷を襲う者の仕草というよりは、屋敷に帰ってきた主人を迎えるメイドのようだ。


「お前ら、殲滅開始」


 門が開いたと同時に俺は言い放った。


 それを合図に屋敷の周りに集まっていたグレイウルフたちが、屋敷の塀を越えて侵入していく。


 その総数――42体。


「なっ! ぐぎゃぁ!」


「どうしたっ! 犬っ!?」


「ぐあっ!」


「侵入者だ! 正面から――」


「狼だ! 狼が襲ってくるぞ!」


 盗賊共の混乱する声があちこちから上がってきた。

 お屋敷の庭にまで盗賊が寝泊まりしているのか、綺麗な芝の上で焚き火をしている後もあり、小奇麗なキャンプ場のみたいな印象がある。

 寝っ転がったり、数人で集まって炎を囲んでいた盗賊達にグレイウルフは容赦なく襲い掛かっていった。


 俺はそんな半狂乱な戦場を使い魔を通して理解していきながら、一歩一歩確かな足取りで真っすぐ屋敷へと歩いていく。


「ここまで隠れてきたのは街中にいる盗賊を集めないためだ。だけど、ここまで来たらもう関係ない。北門や街に散らばった盗賊が集まるには時間がかかる。携帯や無線機なんて連絡手段もあるわけじゃないしな」


 リア曰く、魔法の伝達手段なんて無いって話だしな。あったとしても国が独占するレベルらしい。


「ねぇ、ケータイってなに?」


「これだよ」


 リアの言葉に俺はスマホを取り出して見せてあげる。


「うおお――ぐあっ!」


 屋敷へと続く中庭を歩いていると、側面から盗賊が時折襲いかかってくるがツツやトトの蹴りで吹き飛ばされていく。


「なによそれ」


「ケータイだよ。携帯端末。同じものを持ってるやつとならどんなに離れてても会話ができたりするんだ」


 正面から襲いかかってくる敵はフラフィーのナイフで首を裂かれている。

 おかげで足元が血溜まりになっていた。


「魔法具……なの?」


「まあ、似たようなものかな?」


 ツツ、テテ、トトは盗賊団から奪った剣を装備させようとしたが、断られた。

 殴ったり蹴ったりのほうが性に合ってるらしい。


「やっぱり屋敷にはあまり盗賊は居ないみたいだ。庭は制圧完了した」


 使い魔たちの情報からそう結論付ける。

 倒した敵の数は24人。

 北門に敵を集めた効果だろうか。予想よりもずっと少ない。


 屋敷から敵が出てくるということもないし。


「中に隠れてるのか……?」


 しかし、先に侵入させたスライムの情報では屋敷の中に敵は50人ほど居るはずだ。

 そのうち20人ほどが怪我人で戦闘には介入できないことを考えると、何人かは外の様子を見てもいいはずだが。


 俺は半数のグレイウルフを屋敷の周りから囲むように窓から中に突撃させる。


 それぞれ違う部屋などに突入したグレイウルフ達がやられるということもなく、窓周辺の室内情報が使い魔から集まってきた。やはり敵はいない。


 もしかして作戦がバレていて屋敷から逃げたのか。と、深読みしそうになる。


「マスター、敵いる」


 そんな時、屋敷の正面玄関までやってきた俺たちにフラフィーが告げた。


 街の家々とは違い、3階建ての屋敷は半分程が石造りでできている。

 目の前にそびえる重圧な両扉についている獅子のノッカーはあまり使われた形跡がない。そしてフラフィーはこの先に敵が潜んでいると言っている。


「罠かもな」


 扉を開けたら弓を放ってくるとか。魔法って可能性もあるけど。そういえばこの世界でまだ魔法を使っている一般人を見たことないかも。魔法具があるはずだから存在はすると思うんだけど。

 ……後でリアに聞けばいいか。まずは盗賊だ。


 窓に敵が映るということもなかったから、1箇所に集まって迎撃準備をしている?


 早くないか?


 確かに屋敷の前からは隠れずに攻めたが、それでもまだ10分も経っていない。

 そんな早い時間で対応できるはず……。


 だがここで怖気付いてる暇もない。


「扉から離れよう。ツツ、トト」


「「畏まりました、お父様」」


 俺が下がりながら名前を呼ぶと、ツツとトトが優雅に前へと出る。


 俺たちが玄関から十分に離れたのを確認して、ツツとトトが同時に扉を開いた。


「「っ!」」


 すると、屋敷の中から大量の矢が飛来する。

 ツツとトトが大量の矢に襲われるなんてこともなく、誰もいない庭に矢は落ちていく。


「突撃」


 俺は矢が収まったタイミングで待機させていたグレイウルフ3隊の計12匹を正面玄関へと送り込んだ。


「ぐあっ!」


「くそっ! 早く次の矢をっ!」


「馬鹿っ! ここまで来られたら剣で戦ったんぎゃ!」


 予想通りだったとはいえ、まさか反撃を受けるとは。

 前の盗賊団とはレベルが違うということか。


 俺たちは盗賊の悲鳴がいくらか収まってから中へと入る。


 屋敷の玄関は吹き抜けになっており、二階へと続く大階段の踊り場に弓兵が控えていたらしい。

 グレイウルフ達は弓兵を守るはずの剣士を無視して弓兵へと襲いかかったわけだ。


「ひぇっ」


「くそっ! 役立たずがっ!」


「奥へ逃げぐあっ!」


「後ろからあああっ!」


 弓兵が瞬く間にやられていくのを見た剣士達が慌てて逃げようとするも、今度は後ろからグレイウルフに襲われる。

 窓から侵入させていたグレイウルフたちだ。

 他に敵はいなかったらしく、着々と室内をこちらに向かって集合していた。


「これだけか?」


 たった20人。

 弓兵15人に剣士5人。


 いや、そんはずはない。


「よくきたな、イセカイジン」


 そう思った矢先、声がした。

 野太くも意思の強そうな声。


「思った以上の強さだったがここまでだ。お前には死んでもらうぜ!」


 二階から降りてきたのはフルメイルの剣士が10人。

 そして銀の鎧を纏った騎士。


「全隊集結せよ!」


 銀の騎士が右手を前に出して叫んだ。


 明かり窓から差し込んでいた月明かりが雲に隠れ、闇が濃くなる。


 俺は大きな見落としをしていたことを、ここにきて思い知った。



第二章、ラストスパートです。

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