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敵の戦力は戦わずして減らすべきである。

 


「行ったか?」


 俺が呟くと、隣で同じように頭を低くしたツツが狼の耳を立てる。

 森の狩人であるグレイウルフの耳には俺には聞こえない音が聞こえるのか、あっちへこっちへ顔を動かす。


「全員奥へと走っておりますね。暫くしたら後続の追っ手が来ますので、今の内です」


「よし、行こう」


 俺たち3人は茂みを掻き分け獣道へと出た。


「奥へ逃すな!」


「囲むようにしろ!」


「ランタンの火を見逃すな!」


 森の奥から聞こえてくる盗賊達の声がまんまと森の奥へと迷い込んで行く。


 そう。俺が考えていた作戦がこれ。

 盗賊を森へと誘い込む誘導計画。


 まず盗賊を引き連れ森の中へと入る。

 フラフィーに盗ませて来たランタンの灯りを目印にさせ、俺たちを追いかけさせる。

 あとは森で待機していたグレイウルフにランタンを持たせ、森の奥へと走らせれば盗賊達は勝手に森の中へと進んでいく。

 俺たちはバレないように森の陰に潜めばいい。

 太陽は沈み、木々で死角も多く、隠れる場所には困らなかった。


 ツツが居れば外壁を越えられるし、比較的静かに街の中へも戻れるだろう。


 日が暮れるまで街の中で走り回っていたのは夜になって森の闇が濃くなるのを待っていたのと、街中の盗賊を集めるためだ。


 ツツに先導されるように森の中を歩き進む。

 馬鹿正直に北門に帰ることはしない。

 帰りはバレたらいけないのだ。


 盗賊が森へと俺たちを追いかけている間に敵の頭を倒すまでが作戦なのだから。


 俺は街に潜伏している全使い魔へと命令を送る。


 領主の屋敷へと集結せよ、と。


 トモ達は宿からは離れているらしい。リアやアルザさんも一緒だ。

 宿を出るときにひと悶着やらかしたらしいが、そのあとは街中の盗賊が北門に集まっているおかげで彼女たちは自由に動きやすいみたいだ。


 俺達は森の中を気配を消しながら移動し、外壁に一番近いところまで来る。


「お父様、お抱き致しますよ」


 ツツが笑顔で両手を前に出してきた。


 外壁を越えるのにツツに運んでもらわないといけない。


「…………」


 俺は差し出された手をじっと見つめる。


「どうかなさいましたか?」


 純真な瞳が俺を射抜く。


「いや……なんでもない」


 運んでもらわないといけないのは分かるけど、やはり嫌だ。

 俺はひねり出すように声を出した。


「では失礼します」


 ツツは軽々と男一人を持ち上げてしまう。

 熱いツツの体温が服越しに伝わって来る。っていうかツツの胸が俺のお腹の上に乗ってる。


「って別にお姫様抱っこじゃなくていいよね!」


 他に抱き方はいろいろあるはず……。

 

 あるよね?


「いえ、私はこちらのほうが嬉しいです」


「それ個人の感想じゃん!」


 おんぶとかでよくない!?


「マスター、うるさい」


「……はい」


 なぜかフラフィーに窘められる。


 結局おんぶでもお姫様抱っこでも情けないことには変わりないことに気づいて、俺は諦めた。


 辛い現実だ。


 空を見上げると、だいぶ雲がでていた。


 空ってこんなに遠かったけ。

 もっと近くにあるような気がしたんだけどな。


 俺がそんなことを考えながら空を眺めていると、月は顔を出したり隠れたりをしている空の下でフラフィーとツツはそんな影に隠れながら外壁へと近づいていく。


「敵、2人」


 外壁の下まで来るとフラフィーが指を二本立てて言った。

 そして一瞬で壁を駆け上がる。


「おい、お前今何か言っ――」


「何も言ってな――」


 外壁の上から人が倒れる音がしてきた。

 ツツがそれを聞いてから壁を登る。


 外壁は一直線に平らなわけではなく、一定間隔ごとに半円を描いて膨らんでいる。そこと壁を交互に蹴り、登っているのだ。


「思ったより人がいなかったな」


 俺たちが街中を逃げ回ってる時は外壁の見張りは各々がお互いに見える位置にいたんだけどな。


「あっち、たくさんいる」


 フラフィーが指差したのは北門のあたりだ。

 作戦は効果を発揮しているらしい。


「よし、見つかる前に早く行こう」


 俺がそう言うとツツが躊躇いなく地面へと飛び降りて、走り出す。


「静かなだな……」


 裏路地でツツに降ろしてもらって、そこからは先頭を走るフラフィーについていく。


 街中は静まり返って物音がせず、家々の窓は固く締められて明かり一つない。


「街の人、みんな隠れてる」


「盗賊は北門に集まっているようですね」


 まさかここまで作戦がうまくいくとは。


 先ほどまで大量の盗賊に追いかけられていた場所をフリーパスで歩くことに優越感を感じながら、俺は敵のボスがいるであろう領主の屋敷へと向かった。


 トモたちはすでに近くで待機している。

 俺たちと合流しやすい人気のない建物の中に隠れているらしい。


 屋敷の周辺には着々と使い魔も集まっている。


 俺が着く頃には準備は完全に整う。


「狩りの時間だ」


 顔を出した月明かりに、つり上がった口角が照らされた。



遅れました。明日からは通常通り朝投稿になるはずです。

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