悪にも善にも都合はあるし立場もある。
「まだ黒髪は捕まらねーのか?」
「まだです、隊長!」
「だから隊長と呼ぶなって……まあいいか。で、あいつらはなにやってんだ?」
「各家々を巡り、潜伏した黒髪を捜索中ですが、この街の広さに人手が足りていません」
「半分は入り口と外壁を固めてるからな……。ちっ、この街の外壁がもうちっと高けりゃあな」
「あの高さですと簡単に超えられてしまいますからね。本来は獣や魔物避けの外壁ですし」
「どうやって殺されたかは分かったのか?」
「息が出来ずに窒息死した者と、首を噛み切られた者。一番多いのは刃物で頭部を落とされた者ですね」
「少なくとも敵は3人か? いや、たったそれだけの人数で30人もやれるわけ……」
「41人です」
「ちっ。多いな。こりゃ、イチヤ様が言ってたイセカイジンに間違いないぜ」
「イセカイジンですか……。本当にいるんですかね?」
「イチヤ様がいるって言ってんだからいるにきまってんだろ。俺はあの人の力をこの街の誰よりも知ってるからな。大いに信じてるぜ」
「それ、自分は後から入ったので知らないんですよ」
「人を率いるってのはな。腕っ節が強いだけじゃダメなんだよ」
「そう……ですね」
「あの人にはな……あるんだよ」
「ある……とは?」
「なんて言うんだろうな。カリスマ? 人を従えてならない力みたいなものがあるんだよ。あの人を見た瞬間、この人についていけばなんとかなるって不確かだが燃えるような希望を胸に抱いたもんさ」
「はぁ……」
「そしてそれだけじゃねぇ。イセカイジンってのはみんな不思議な力を使えんだ」
「力ですか?」
「イチヤ様の力。くくっ。まあいつか見せる時も来るはずだぜ」
「しかし、本当にこんなことをしていていいのかって気持ちはやっぱりあるんですよ」
「お前は真面目だなぁ」
「よく言われます」
「悪くはねぇがよ。俺たちは国に捨てられた軍だ。帰る場所がある奴はまだいいが、そんな場所がある奴はそもそも軍なんかに入らねー」
「そうですね」
「しっかし、今まで飯を食う為に守ってた奴らを飯を食う為に襲ってるんってんだから笑い話だぜ」
「街の人たちにはだいぶ嫌われてますからね」
「そりゃあそうだろう。無理やり押しかけて食い物をよこせって言って、拒否したらその首を跳ねる。好かれるはずがない」
「隠れた敵を探すのも、民家の門を壊し、無理やり押しかけてるのが現状です」
「あんま街のもんに喧嘩を売るような真似はしたくないんだがな。ここの貴族を殺しといてなんだけど」
「イチヤ様の命令もありますしね」
「ああ。街の娘には手を出すな、なんて言われてもよ。下の奴らを抑える俺の身にもなって欲しいぜ。屋敷にいた侍女共もくたばっちまったからなぁ」
「自分としては強姦なんてって思いますけどね」
「盗賊になった自覚が足りてねーぞ。お前はもう国の下につくお堅い軍じゃねーんだ。金も貰えねーんじゃ女も買えないんだぞ」
「じ、自分はそんなことしませんからっ」
「なんだ? テッド、お前さては童貞か?」
「わ、悪いですか!」
「悪い。ああ、大いに悪いね。軍人ってのもそうだが、盗賊にもなって童貞なんて未練増し増しでいざって時にやってけないぞ」
「童貞関係ないじゃないですか!」
「ある。これがあるんだなぁ……大いに」
「……本当ですか?」
「ああ。女はいいぞ。あのケツをまた撫でたい。それだけで戦場から生きて帰る理由になる」
「別に理由なんてなくても生きて帰ればいいじゃないですか」
「そう言う奴から死ぬのが戦場ってものなんだよ。先輩の言うことはちゃんと聞いとけ」
「はぁ……」
「よしっ。イセカイジンって奴らを捕まえ終えたらお前を男にしてやる」
「えっ!?」
「奴らにも伝えとけ。敵を捉え、この騒動を終えたら娼婦を呼ぶってな」
「い、いいんですか? 資金は最低限で抑えろってイチヤ様の命令でしたが」
「馬鹿っ。これも最低限の出費だぞ。下手に我慢させたら俺が殺されちまう」
「は、はぁ……。そういうもんですかね?」
「そういうもんなんだよ」
「しかし……」
「街の奴らには手ェ出してないんだ。このくらいは大いに許してもらおーぜ。それとも何か? テッド、お前は一生童貞のままでいいのか?」
「じ、自分はいつか結婚して……その……家庭を……」
「かーっ! そんなんで盗賊なんかになっちまったのかよ」
「誘ってきたのは隊長ですよ!」
「そりゃ、な。行くあてもなく食い倒れてた過去の部下がいたら救うのが大いなる俺ってもんだ」
「それは感謝してますけど……」
「ま、イチヤ様もただの盗賊で終わるつもりは毛頭ないと見える。まずは目の前の獲物を仕留めろ。そうすれば案外、お前の夢は叶うのかもしれないぜ」
「そう……でしょうか」
「イチヤ様が気にしていたイセカイジンってのを捉えたとなると、俺たちの株も上がるはずだ。そしたらまた力を貰える」
「力……。さっきも言ってましたね」
「この力を大いに振るう機会も近いかもしれねぇな」