メイドって素晴らしいと思いませんか?
「センパイ……。な、何回目か覚えてますか?」
朝焼けに染まり始めた空を見上げながら息も絶え絶えなトモが口を開いた。
「もう……途中から数えてない……」
足腰に力が入らない俺たちは立つのもやっとだろう。
「どう……でした?」
トモが上目遣いでこちらの様子を伺ってくる。
「悪く……なかったぞ」
「それだけですか?」
「え、あー」
寝っ転がったままの姿勢で這いずるように近づいて来たトモから目線を外す。
「朝まで私が倒れるまでやったのに、なかなか良かった程度なんですね……」
「初日にしては良く出来た方だ!」
物凄い圧力でこちらを見つめてくるトモに叫んだ。
「なら褒めてくれます?」
「え?」
「センパイに褒めて欲しいです」
頭を撫でろということなのか、ずいっと頭頂部をこちらに見せてくるトモ。
「お、お疲れ様」
「それだけですか?」
トモに労いの言葉をかけると不満そうに膨れる。
「ありがとな。お前のおかげで――かなり戦力が増えた」
女の子の頭を撫でるなんて恥ずかしさをこらえながら言葉を紡ぐ。
徹夜明けの朝日は眩しい。
「なにしてるのよ……」
宿の庭に顔を出したリアが呆れた声を出す。
「使い魔召喚しすぎた……」
「刻印付け過ぎました……」
大量にスキルを使うと魔力的なものがなくなって体調が悪くなるということを学んだ俺たちだった。
***
「全部で41匹か」
朝を迎えた食堂のテーブルで俺は眠たい目をこすりながらスマホで確認した数字を読み上げる。
「そんなに召喚したの……?」
昨晩だけで500ポイントは手に入れた。
いざという時の為に100ポイントは残しているが……。
「スライム7匹、ラピッドラビット4匹、グレイウルフ30匹だな」
スライム5匹は新しく、2匹はやられてしまった補充だ。
流石に犠牲なしでの戦いは難しい。
新しく召喚したグレイウルフはメスのツツ、トトをトモにあげて、残りは同じように班わけした。
計28匹で7班あるオスの方はA班、B班、C班、D班、E班、F班、G班と名付けた。
最初のほうまではちゃんと名付けてたんだ。ガガ、ググ、ゲゲ、ゴゴってな感じに。
だけど流石に覚えきれないというか、個別に分ける必要を感じなくなってきた。
というわけでこれからは班ごとに分けることにする。
正直なこと言うともう見分けがつかない。
40匹以上のグレイウルフを見分けろっていうのが不可能な話だ。
全員集めて狼プールなんてやってみたいですねってトモが言うくらいには召喚したからな。
「凄いわね……」
「トモの能力のおかげでグレイウルフ1匹の戦闘力が150を超えてるからな。並みの兵士より強いはずだ」
「もうしばらくはスキルを使いたくありません」
未だに疲れが取れないのか、トモが机に突っ伏す。
俺よりも疲労が激しいな。
「夜までは寝るんでしょ?」
確かめるように問いかけてきたリアに俺は頷く。
「ああ。奴らも派手なことはしないはずだ。たぶん出入り口を固めて家探しするくらいだと思う」
収入源であり食料を確保できる街を壊すなんてことはしないだろうし。
「起きたら……いくの?」
「行く。その為の戦力確保だ」
決戦は今夜。
「でも……大丈夫ですかね?」
「上手くいくさ。計算上の戦力差はない」
「いえ、そっちもですけど、私が言いたいのはお昼に襲われないかってことです」
トモが宿の正面入り口に当たる木製の門を見つめた。
「安心しろ。その為にラピッドラビットの数は増やしたし、奴らの捜査は領主の屋敷周辺から始まったからな。壁際に近いここならすぐには来ないさ」
日が昇ってから、グレイウルフ達には身を隠して情報収集に回ってもらっている。
奴らはすでに仲間が倒されていることを知って、近くの民家を調べ始めていた。
予想よりも反応が早い。
「それにな、これからさらに優秀なボディーガードをつけるつもりだ」
「ボディーガード?」
不思議そうに声を出すトモの前に、俺の意思に従ったテテ、ツツ、トトが前に出る。
「この子達ですか?」
「ああ。せっかくだし白ポイントを割り振ろうと思うんだ」
「……また女の子を増やすんですか?」
なぜか怒り気味にジト目になるトモ。
「こ、こいつらはなぜかトモに懐いてるしちょうど良いかなって。きっとグレイウルフが元だからフラフィーみたいに襲われることはないだろうし、言うこともちゃんと聞くはずだ」
俺は負けじと説得を試みる。
「はぁ……。好きにしてください。オスのグレイウルフは外に出ちゃってますし、これ以上ラピッドラビットを人化させられるよりはマシですから……」
「だ、だろ!?」
トモが諦めたようにため息をついた。
眠たげにまぶたを擦ってるのを見るに、疲れで思考力が落ちてて、他のことはどうでも良いから寝たいってだけかもしれないけど。
「ちょうど250ポイントくらいあるし、80ポイントを3人に使う感じで良いかな?」
「良いんじゃないですか?」
なんかトモの受け答えが投げやり気味になり始めた。
「次は何するつもりなの?」
そういえばリアにはポイントのこと話してなかったな。
「見てからのお楽しみだ」
俺はそう言ってテテに白のポイントを振った。
そういえば一度に大量のポイントを振ったことはなかったなと思い、80ポイントを一度に投入する。
テテが光に包まれた。
いつもよりも魔力の迸りが激しい気がする。
「ちょっと! なによこれ!」
リアが驚きの声をあげてる間に、光がだんだんと収まってきた。
光に包まれたシルエットが四足獣から二本足に。全体的に犬っぽい細さが人間味のある太ましさに。
尻尾と耳はそのまま大きくなり、体長も予想以上に大きくなる始める。
「おっ、お?」
凛と伸ばされた背に、主張するかのような胸がたゆんと揺れた。
光を反射するタペータムのある瞳が朝日を取り込み輝いている。
「改めましてお父様、お母様。長女のテテで御座います。この私が身の回り一切を謹んでお引き受け致しましょう」
トモよりも背の高い灰色の髪をした女性が裸の姿で華麗にお辞儀した。