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盗賊狩りは闇に潜む。

 


「ねぇ、あそぼ?」


 暗い路地から聞こえた幼い声に夜の街を彷徨っていた盗賊は足を止めた。


「はぁー、運がいいぜ」


 夜はすっかり更け、月が空に登っているも、木塀に囲まれた路地の中までその光が完全に届き切ることはない。

 そんな闇を背にした幼き少女に、盗賊は歩み寄る。


「お前も物好きだな……」


「俺はもっと胸のある生娘がいいぜ」


「はん、言ってろ。こちとらこの街に来てからずっと待てを喰らってんだ。このくらい楽しみがあってもいいだろうが」


「確かにっ」


 3人の盗賊達はお互いに冗談を言い合いながらも、夜の街を歩いていた少女を逃すことはないらしく、イヤらしい笑みを浮かべながら暗い路地へと入っていく。


「こっち」


 盗賊の手が少女に触れるよりも先に逃げられ、路地の奥へと進む少女を追いかけて盗賊は闇を掻き分ける。


「嬢ちゃん、この街の子かい?」


「お母さんに子供は外には出るなって教わらなかったのかな?」


 馬鹿にしたようになんの警戒もなく後ろをついてくる盗賊に少女は、いや、幼女は言った。


「フラフィーはもう大人」


 宵闇に注ぐ微かな月明かりに湾曲したの刃が鈍く反射する。


「ふへっ?」


 先頭にいた盗賊が間抜けな声を出した。


「ゴルザ?」


 後ろに居た盗賊が首を切られた盗賊の名を呼ぶも、返事の代わりに首だけが転がり落ちる。


「っ!」


 後ろ2人の盗賊が驚く隙もなく、幼女は躊躇いなくククリナイフを振った。


 周りが木塀に囲まれた路地はラピッドラビットの彼女にとっては最高の狩場だ。

 地を駆け、木々を跳ね、枝を渡る彼女達にとって、木塀は滑らない足場でしかない。


 悲鳴もなく、苦しむ暇も与えず、静かに幼女は獲物の首を刎ねた。


 闇夜に残るのは首なし死体と血だまりだけだ。


「もっと……あそぼっ」




      ***




「てめぇ! 待ちやがれ!」


 飯の匂いにつられてか、やって来た野良犬に足を噛まれた4人の盗賊達が路地裏へと走り込む。


「クソっ! この街の犬は人間に噛みつきやがるのか!」


「昨日までは居なかったのに、急に現れたと思ったらこれだっ!」


 罵倒をあげながら剣を抜く盗賊。

 彼らは馬鹿にして来た野良犬を生かすつもりはない毛頭ない。


「ぎゃははは! 野良犬に撒かれるに銅貨1枚賭けるぜ」


「俺はもう一度噛み付かれるに2枚だ」


 噛み付かれなかった盗賊たちの酒に酔った笑い声が表通りから聞こえてくる。


「くそッ! 絶対に殺してやる!」


 自分を馬鹿にする声を聞いてますます殺意を滾らせた盗賊が先の見通せない路地へと入った。


 先頭の盗賊はカンテラで先を照らすも、映るのは泥の地面と木でできた壁だけ。


「グルルルルッ」


 先の見えない暗闇から響く野良犬の呻き声に盗賊が身構える。


「しっかりと地面を照らしやがれっ」


「わーってるよ!」


 怒鳴り声が響きあう路地の中で、盗賊たちは前だけを一点に見つめていた。

 だから、頭上から飛び出して来た暗殺者には気づけない。


 声もなく最後尾の男が悶え出した。


 いや、声をあげられないのだ。


「っ! っ!」


 顔いっぱいに覆われたスライムで息も出来ずにもがき続ける盗賊は、前の2人が暴れる音に振り返った時には白目を向いていた。


「おい、ちょっとは静かに歩――ぷぺっ!」


「うえ――ごぽっ!」


「魔物っ!?」


 頭上から襲って来たスライムに2人がまんまと頭を包まれる中、1人だけ剣でスライムを斬り裂いた。


「どこ行きやがった!」


 目の前で倒れた仲間には目もくれず、カンテラの灯りでスライムを探し当てようと振り返った瞬間――、野良犬、いや、グレイウルフが音も無く駆け出した。


「剣じゃ斬っても効か――ぐあっ!」


 2匹のグレイウルフが首を、1匹が剣を、最後の1匹は肩を。

 確実に獲物を逃さないグレイウルフの連携に盗賊は為す術もなく事切れる。


「グルッ」


 リーダー格のグレイウルフが盗賊の匂いを嗅ぎ、全員死んでるのを確認してからその場を去っていく。


「おいおい、あいつらどこに行ったんだ?」


「ほんとに野良犬なんかに撒かれたんじゃねーよな?」


「野良犬に噛まれるくれー鈍臭いしな!」


「そりゃそうだ! ぎゃははは!」


 次の獲物は呑気に笑っていた。


 その笑いもすぐに消えることだろう。


 今宵は狩り人が狩られる夜。


 盗賊殺し(ロバーズ・キラー)は闇に潜んでいるのだから。




      ***




「千人隊長!」


「んあー? ……なんだ朝っぱらから」


「大変なんです! 隊長!」


「テッド。俺はもう隊長じゃねー。大いなる存在なんかじゃなく、ただの盗賊。ただのアマンだ。せめて兄貴にしろ」


「すみません隊長!」


「はぁ……。それで、何が大変なんだ」


「そ、それが……今しがた仲間の死体が路地から見つかったらしいんです」


「ふーん。街の奴らが叛逆でも起こしたのかね?」


「違います! 一人二人じゃないんですよ!」


「なに?」


「まだ確認中ですが、夜の見回り組は半分以上が帰って来てません」


「20人は居るぞ……?」


「最低でもそのくらいは……」


「敵は……?」


「分かりません!」


「分からないってことはないだろうが!」


「本当に分からないんです! 誰も姿を見たものはいません!」


「幽霊じゃあるめーし必ずいるはずだ! 門の警備と外壁の見張りを倍にしろ!」


「はっ!」


「……まだなんかあるのか?」


「そ、それが……」


「早く言えっ」


「先日、夕刻ごろに怪しい黒髪の男女の子連れが街に入って来たとの情報があります」


「子連れ?」


「はい。見張りをしていた3人を殴り飛ばし街の中に逃げ込んだと。その際、街に潜伏していた仲間が誘導したとか」


「なるほど……」


「どうしますか、隊長」


「どうもこうもねぇ。門と外壁の見張りを増やせ。ネズミ狩りだ」


「はっ!」


「もしかしたらイチヤ兄貴が言ってたイセカイジンかもしれねぇな。こりゃ大いに期待が持てるぜ」



ルビ、初めて使いました。大丈夫だったかな?

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