悠長な事を言ってる暇もない。
「それで、街の様子はどうだった?」
夕暮れ時。
空には朱色の絵の具がぶちまけられ、影色の鳥が空を飛ぶ。
俺たちは夕食を食べながら本日得た情報を共有しあっていた。
「寂しかったです」
「みんな隠れてる」
フラフィーは無事に服を買えたらしく、素朴な可愛さへと変身した。
白い服の上から胸元の開いた青のワンピーススカートは彼女の幼さを引き立てている。耳を隠すためのワンピースと同じ青色のスカーフが似合っていた。
「そうね。どこの店も戸を閉めて、表通りには人っ子一人いないわ」
「俺もそんな感じだな」
こちらを見つめるテテにパンをちぎって食べさせながら答えた。
「センパイもグレイフルフを街に出してるんですよね?」
「ああ」
「盗賊はどのくらいでしたか?」
「まだ完璧じゃないけど、ざっと150人はいるな」
「……結構多いですね」
当初、最低数として想定していたカゲフミ全体の半分はほどだからな。
これはカゲフミ自体ももう少し評価を上げた方がいいかもしれない。
敵は思ってた以上に強敵だ。
「倒せる?」
リアがこちらを伺うように聞いてきた。
「倒せるかどうかじゃなくて、倒さないといけないんだよ」
これからこの街の盗賊どころかカゲフミ団に喧嘩を売って、その後神聖国軍まで相手にしようとしているのだから。
こんな雑魚に手間取っている暇はない。
「……そうよね」
リアが小さく頷く。
「それとセンパイ」
「ん?」
「あいつらは早めに倒した方がいいと思います」
「ああ。それは俺も考えていた」
あいつら、この街でやりたい放題なのだ。
酒場や食堂は奴らに荒らされ、秩序なんてあったもんじゃない。
これ以上野放しにしていたら、あいつらを退治した後に何も残らなくなる。
「それじゃあ……っ」
リアが期待に満ちた声をあげた。
「今夜から作戦を決行する」
俺はその瞳に答えるように言葉を形にする。
「作戦ってどんなのですか?」
「今日1日で考えた案だから上手くいくかは分からないけど、馬鹿正直に真正面から奴らに突撃するよりは何倍も成功率は上がると思う」
「具体的には?」
「まずは奴らの数を減らす。それが第一フェーズだ」
「減らすって……どうやってよ?」
夕食に全く手をつけなくなったリアが訪ねてくる。
「俺には優秀な狩猟部隊がいるんだ。しかも夜の狩りには実績付きのな」
盗賊団一つを丸々狩り尽くしたまであるからな。
闇に隠れて、姿を見せずに少しずつ奴らの数を削っていく。
数日もすれば奴らは警戒して何かしら行動を起こすはずだ。
俺たちが街に侵入しているのはバレている。
奴らの起こす行動だってある程度は予想がついていた。
「森のかわりに街で狩りをするだけさ」
すでにスライム団は街の外で待機中。グレイウルフ達は街の陰に潜んでいる。
闇が濃くなるとともに行動開始だ。
「なら……いいけど」
心配そうなリア。
「なにか気になることでもあるのか?」
「あるかないかで言えば……あるわ」
「情報は大事だ。何かあるなら教えてほしい」
ただでさえ今は情報が少ないんだ。
「あなたたちにはまだ話してなかったわよね。奴らが攻めてきた時のこと」
「聞いてないです」
トモがスープを口に運ぶ途中で俺よりも先に返事をする。
「奴ら、元々は城塞都市の軍なだけに強いのよ」
「だろうな」
それは理解している。
装備も悪くないし、最初に出会ったあの盗賊団より格上だろう。
「でもそれだけじゃないの」
「それだけじゃない?」
「ええ……」
「どういうことだよ」
俺が問いただすとリアは顔を歪めながら喋り出した。
「この街にも少なくとも軍はいたわ。父さんだって領主だもの」
そういえばこの時代の貴族はそれぞれが軍を持っていて、国だけが戦力じゃないのか。
「倒されたのか?」
「えぇ……。それもたった一晩でよ」
「この街の軍はどのくらいだったんだ?」
「200人は居たはずなのよ」
敵の数と同じくらいか。
それなのにたった一晩で街を落とすなんて異常だ。
守る側は基本的に有利なはず。
普通じゃありえない。
数は同じでこの力量さ。なにかあるのかもしれない。
「リアは奴らを見てないのか?」
「見てないわ。父さんは奴らが城門を突破した時点で私をここに逃がしたの」
「なるほど……」
その後、リアの父親がどうなったかは言うまでもない。
トモも何かをいう気にはならないのか、悲しそうにテテを撫でていた。
「これは……もう少し戦力を蓄えるべきか?」
敵の戦力を甘く見ていたかもしれない。
現在の俺の総戦力は予備の魔石を使っても6000を超えるかどうか。
それに比べて敵の戦力は戦闘力120の200人と想定しても24000だ。
戦力に四倍の差がある。
これじゃあ無傷で勝つなんて甘いどころか、勝つことすら怪しい。
「トモ……」
こうなれば作戦を変えよう。
「なんですか、センパイ」
スプーンを手にしたままこちらを向いたトモに俺は意を決して口を開いた。
「今夜は……寝かせないからな」
「ふぇっ!?」
地に落ちたスプーンが軽快な音を鳴らす。