恋に恋する乙女よ踊れ。
「どうやってあいつらを倒すつもりなの?」
朝食時、リアがそう切り出してきた。
「まずはこっちの戦力を増やすところからだな」
俺は痺れた脚を揺らしながら答える。
「昨日みたいに?」
「ああ。そしたら使い魔で盗賊たちや領主の屋敷を偵察して情報収集だ」
「私に……何かできることはあるかしら?」
スプーンをテーブルに置いてから、こちらを真っ直ぐと見据えてリアは聞いてきた。
「今のところはないな」
「そう……」
少し残念そうにするリア。
やはり自分の街を取り戻すのにやれることはやりたいのだろう。
「魔石は確保できないんだろ?」
「ええ。魔石は冒険者ギルドが独占してるから市場には出回らないの」
「冒険者ギルドねぇ」
「この街に冒険者ギルドはないし、どうしようもないわね」
ネット小説やゲームなんかじゃよく聞く言葉だけど、独占やらなんやら聞くとやっぱ利権とかに塗れた場所なんだろうか。
「そもそも冒険者ギルドはなんで魔石を独占してるんだ?」
「冒険者ギルドは元々魔導国家ファーテリアの組合だったの。魔物を退治して魔石を集めるのが役割で、ファーテリアは集めた魔石を使って魔道具を作っているってわけ」
「それを今でも独占してるのか」
あれ、だとしたら他国に冒険者ギルドがあるのはなんでだ?
普通は魔石という資源が取られるわけで、許さないだろう。
「私たちの国にも冒険者ギルドがあるのはファーテリアとの条約でよ」
俺の内心で沸いた疑問に答えるようにリアが喋る。
リアって人に物を教えるのに向いてると思う。眼鏡とか似合うじゃないかな。
「条約?」
「ファーテリアは魔道具精製をできる唯一の国家でね、その製法は国家秘密なのよ。ファーテリアが魔法具精製に成功してから一時期は色々な国で魔道具を作ろうという試みはあったみたいだけど、魔法を国として研究しているのはファーテリアだけだったの」
「だからファーテリア以外に魔道具は作れないと?」
「そういうこと」
「冒険者ギルドがあるのは魔石を集める代わりに魔道具を買う権利を得るためか」
「あなた……意外と物分かりはいいのよね……」
なぜか呆れた顔をするリア。
なんだその目は……。
「お前だって色々知ってるだろ。ここでは常識だったりするのか?」
「私だって一応貴族の端くれよ……。勉強くらいしたわ」
ほんの少しだけすねたような顔をするリア。
「なるほど」
納得しながら喉を潤すためにリンゴ水を口に運ぶ。
「センパイ。ちょっといいですか?」
「なんか気になることでもあったか?」
「いえ。難しい話はそっちでやってください。気にしませんので」
具のあまりないスープにパンを浸しながらチビチビと食べているトモはなぜか素っ気ない。
「それよりも今日やることがないなら買い物しちゃダメですか?」
「買い物?」
女子の買い物って長くなるんだよな。と、一瞬否定しそうになるも、
「はい。フラフィーの服を買いたいです。自分のも……」
「あー、そうだな」
チラッとフラフィーを見るとなぜ自分が話題に上がっているのか分からないといった具合に首を傾げていた。
フラフィーってずっと裸外套なんだっけ。
朝になんで裸で寝てるんだと思ったけど、外套脱いだら肌着も下着もないからなんだ。
「そうだな……」
「なんで残念そうなんですかセンパイ」
「別にそんな顔してねーよ!」
前を向いてこっちに顔を見せないトモが言いがかりをつけてくる。
「でも街に出れるかな?」
「外套を被って裏道を行けば問題ないわ」
「店は? やってるのか?」
「表向きは閉まってたりするけど、多分大丈夫よ」
「そんなもんか」
街が盗賊に支配されてるのに堂々と店を開くわけないが、店を閉じっぱなしで食っていけるわけもないか。
「そうだ。フラフィー、お前は武器とか要らないのか?」
「武器?」
フラフィーが不思議そうにこちらを見上げた。
「ああ。ナイフとか剣とか。あると楽じゃないか?」
「よく分からない」
「元々兎だしなぁ……」
素速く動き回るならやはりナイフだろうか。
基本的にフラフィーの攻撃は殴る蹴るらしいけど、殺傷力に欠ける。
人間の姿をした今だと、噛み付いたり引っ掻くよりも武器を持った方が強いだろう。
盗賊団アジトから持ってきたナイフもあるけど刃こぼれしてたりするんだよな。
武器を買えるのなら新しいのを揃えたほうがいいだろう。
てか、個人的な考えを言わせてもらうと、あんな奴らの使っていた武器をフラフィーに使わせたくない。
「とりあえず武器屋もいけるか?」
「分かったわ」
お金が足りるか分からないが、多分問題ないだろう。
使い切っても困らないしな。
ちなみにこの国や他の国のお金もゴールドで交換できる。
偽札? 知らなんな。
「トモは他に何かあるか?」
「……ないです」
机から顔を上げずに答えるトモにほんの少しの違和感を感じた。
「トモ、さっきから様子がおかしいけど……どうかしたか?」
「え、あっいえ。なんでもないですよ。っ。ほんとです」
慌てて顔を上げてこちらを見るもすぐに目を逸らしてしまうトモ。
「……ほんとにか?」
それにして落ち込んでいる気がする。
さっきから下を向いてばかりだし。
「……センパイ。実は私、昨夜のこと……あんまり覚えてないんですよね」
俺が念を押して確認すると、トモが打ち明けてくれた。
「覚えてないって?」
「お酒のせいですかね。今も頭が少し痛いんです」
「二日酔いかよ……」
やっぱり昨日のトモは酔っ払っていたらしい。
あの発言も多分酔ったせいなんだろう。
酔ったことないからよくわからないけど。
「ちょっと……顔洗ってきますね!」
「ああ。井戸に落ちるなよ」
「……落ちませんよっ」
気分が悪いのかどこか元気のないトモが外にある井戸へと歩いて行った。
***
「はぁ……。絶対嘘だってバレてるよね……。一杯で酔うわけないし……。ああもう昨日の私なんであんなことしちゃったんだろっ。目が合わせられないよ……」