正座の辛さはやってみないと分からない。
拝啓。
お父さん、お母さん。
異世界に飛ばされ早くも十日が経とうとしています。
お二人は元気にやっていますか。
生前は大変お世話になりました。
僕は元気にやっています。
美少女2人に対して床に土下座していることを除けば……。
「センパイ」
「は、はい」
制服を着なおしたトモがベッドに腰掛けながら俺を呼んだ。
「センパイはリアに言いましたよね?」
「な、なにを?」
「今更言い逃れはできませんよ。こっちには本人もいるんですから」
トモがリアを見ると、トモの着ていた外套を羽織っているリアは流れるように口開いた。
「ケイは私に俺のものになれって言ったのよ」
「だそうですよ、センパイ?」
ベッドに座る2人に見下ろされながら、俺は懸命に弁解する。
「だからっ! それは俺の仲間になれって意味で!」
「私にはそう聞こえなかったわよ! は、初めてだったのにっ! 別に期待してたとかじゃないから! あんたがトモと一緒なのは知ってたし!」
顔を真っ赤にして言葉をまくし立てるリア。
「そもそも部屋に呼ぶ必要なんてありませんよね……」
「それは食堂で俺の能力のこと言うのが憚られたから部屋にしようと思ったんだ!」
「それならそうと言葉を選んでください!」
「十分選んだだろ!」
「選んでません!」
「選んでないわよ!」
口を揃えて反論する2人。
やっぱりほんとは仲良しなんでしょ、君たち。
「俺が出会ってばかりの困ってる女の子に手を出すように見えるのか!?」
そんなゲス野郎に見られてるわけないだろ。
「毎日一緒に寝てるのに手を出そうとしないくせに幼女は襲おうとするロリコン野郎はどこの誰ですか……」
「女の子2人も侍らせてる人の言葉なんてそんなものよ」
ゲス野郎に見られてたわ……。
「俺はロリコンじゃねーし、トモもフラフィーも仲間ってだけでそんな関係じゃないからね!?」
俺は必死で2人に弁明する。
「フラフィーには手を出そうとしましたよね」
「あれはフラフィーから手を出してきたんだ! 知ってるだろ!」
「最低ね……」
「君たちやっぱ仲良いよね!?」
トモの言葉に援護射撃をするリア。
ダメだ。
どう足掻いても勝てる気がしない。
「そ、それよりもリアがこの部屋に来たってことは決意ができてるってことだろ」
俺は誤魔化すために話をそらそうとした。
「そ、それはっ」
「センパイ、またセクハラですか?」
なぜか赤くなって顔をそらしたリアと、ジト目でこちらを見つめてくるトモ。
「なんで!?」
「リアがこの部屋に来たのは仕方なくですよ。センパイのゲスい要求に応えないと街がなくなるかもしれないからなんです。別にセンパイに魅力があるからではないですよ。勘違いしないでください」
「体を捧げる決意じゃねーよ! 俺たちの仲間になる決意だよ!」
俺はそんな最低野郎ではないと言ったばかりなのにっ。
「……仲間ってどういうこと」
リアはリアで警戒した様子でこちらを窺ってくる。
「そのままだよ。この街の盗賊を倒す為にお前には色々働いてもらいたい」
俺はリアと対等に話し合うためにも、足を崩しながら答えた。
「センパイ、正座」
「……はい」
崩せなかった。
「それだけ?」
リアが足を組むながら問うと、外套の裾から太ももが覗き、奥が見えそうで見えないアングルが生まれる。
「……センパイ?」
「それだけじゃない!」
汚物を見るような目をしたトモの声に俺は慌てて目線を泳がせる。
「倒した後にもお前には色々やってもらいたいことがあるんだ。むしろ俺がお前を仲間に誘ったのはそっちがメインだ」
「色々って……」
リアは体を抱いて呟いた。
「別に体云々じゃないから! ……そうだな。やっぱ見せたほうが早いよな」
「いったいナニを見せるつもりですかセンパイ……」
「使い魔だよ!?」
未だに冗談を言うトモにアイテムボックスから魔石を一つ取り出してみせる。
冗談だよね、それ?
「それ……魔石よね?」
「ああ。お前にはこれを集めて欲しいんだ」
「はぁ……」
あまり理解ができないのかリアは曖昧な返事をした。
そんなリアを納得させる為に、俺は魔石を握った右手を前に突き出しスキル名を唱える。
「瞬足兎召喚」
揺れる火の灯りだけが光源の中で魔法陣が幻想的に展開されていく。
「……魔法?」
リアは魔法陣から後ずさるように体を後ろに傾けた。
「俺は召喚師なんだ」
「召喚……師?」
聞いたことがないのか、リアが繰り返す。
「魔石を媒介に魔物を呼び出す。ここにいるフラフィーもテテも、俺が呼び出した使い魔だ」
「魔物を……そんな……御伽噺の魔法使いじゃないんだから……」
信じられない光景を目の当たりにしたリアがその現実を否定しようとするも、魔法陣が消えたその場所に現れた瞬足兎に言葉を飲み込む。
「これで奴らを倒す」
「本当に……倒せるの……?」
「それはお前の協力次第だ」
俺は新たに現れた瞬足兎に手を置いて、リアへと視線をぶつけた。
「センパイ……」
やっと俺がリアに変な気がないのを分かったのか、トモが真剣な声を出す。
「またセクハラですか?」
「だからちげーって!」
ダメだ。
どうにも今日は締まらない。
今年も気づけば一ヶ月が過ぎますね。