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最悪なほどに終わってしまったこの状況。

 


「センパイは私のこと、どう思ってますか?」


 俺たちが部屋に戻るとトモがそう切り出してきた。


「どうって……悪くないパーティーメンバーだと思ってるよ」


「それだけですか?」


「それだけって……他にないだろ」


「そうですか……」


 俺の言葉を聞いたトモは俯いてから外套を脱いだ。


「トモ?」


 外套を外したトモはそれだに止まらず、今度はスカートに手をかける。


 ファスナーを降ろす音が聞こえるほどに周りは静かだった。


 音もなくスカートが地に落ちると視線が彼女の下半部に釘付けにされる。

 ポイントで交換した安っぽい下着はロウソクの灯りだけに照らされたこの部屋では圧倒的生々しさを感じた。

 ほんのりと赤みを帯びた太ももは惜しげも無く晒されていて、トモは恥ずかしそうに制服の裾を伸ばした後、下から制服のボタンを外し始める。


「お、おいっ! なにしてるんだよ!」


「服を脱いでるんです」


「そうじゃなくて! なんで服を脱ぐんだ!」


「最初は私がいいです」


「は?」


 俺の叫びにトモはよくわからないことを言う。


「センパイが望むのなら彼女を側に侍らしても構いません」


「侍らす?」


 余計訳がわからなくなってきた。


「ですが、彼女の後になるのは嫌なんです」


 制服を脱ぎ捨てたトモは完全な下着姿になる。


「わ、わかった。わかったから落ち着け」


「センパイは分かってません。私にはセンパイしか居ないんです。センパイに見捨てられたら私は……私は……」


「落ち着けって。俺が見捨てる訳ないだろ?」


「なら証拠をください!」


 トモがブラジャーを外した。

 白い淡白な布が取り払われることで、柔らかな果実が震える。


「んなっ」


 慌てて視線を逸らすと、


「目を逸らさないでください!」


 トモが俺の顔に触れ、無理やり前を向かせた。


「わ、私はそんなに魅力がありませんか?」


 トモが恥ずかしがりながらも真っ直ぐと俺の目を見て問いかける。


「いや、魅力とかそう言う問題じゃないだろっ」


 俺が一歩後ずさるとトモが一歩踏み込んできた。


「毎日一緒に寝てるのに手をださないなんてありえなくないですか!?」


「いやいやいや、お互いの同意もないのに手を出す訳ないだろっ!」


 トモの謎の怒りに反論する。


「私は良いと言っているんです! センパイがしたいならいつだってさせてあげられます!」


 生まれて初めて女の子から抱きつかれた。


 意図しなかった不意の事故などではなく、女の子の意思で抱きついてこられた経験なんてない。


 女の子特有の甘い香りが鼻をくすぐり、柔らかい感触が押し付けられた。


「と、トモ……」


 パニックになった頭でまともに考えることもできなくなった俺は、ゆっくりと肌の露出したトモの肩に手を載せようとした瞬間、


「……き、来たわよ」


 背中の扉が開いた。


「っ!」


 てっきり今日は来ないかと思っていたリアが扉を開けて入って来たのだ。


 抱きつかれたまま慌てて振り返ると、リアは足元だけを一点に見つめながら部屋の中に入ってきた。


 ちょっと待って!

 部屋に入ってくるなら部屋の状況くらい確認して入ってきて!


 俯いて下だけを見ているから部屋の状況がわからないのか、この状況がわかっているから下を向いているのかはわからないが、リアは小さな体を震わせながらも後ろ手で扉を閉める。


「り、リア?」


「か、勘違いしないで。あくまでもこの街の為だから……」


 相変わらず顔を上げないリアは自分を抱きしめるように肌色の透けるベビードールに隠された胸元に手を置く。


「……センパイ?」


「……ケイ?」


 2人に同時に名前を呼ばれた。


「ちょっと待って! これどういう状況!?」


 俺の叫びにリアが答える。


「ケイが夜の部屋に来いって言ったんでしょ……」


「確かに言ったけども!」


「う、生まれて初めてあんな事言われたから迷ったのよ。でも……盗賊を倒さないと、いつか私も捕まって盗賊にナニをされるかわからないもの……。それなら相手くらいは自分で選びたいわ」


 早口でまくし立てるリアの声は今にも泣き出しそうだった。


「何か勘違いしてないかな!?」


 俺は精一杯に叫ぶ。


「センパイ。盛り上がってるところ悪いですけど、先約は私ですよ」


「トモも先走るなって! 2人とも誤解してる!」


 俺の想いを伝えようとするも、声というのは不便ものだ。

 思った通りに伝わるなんて限らない。


「確かに金髪貴族娘に手を出したいなんて男の子の夢なのかもしれませんけど……。物事には順序や順番ってものがあると思うんですよ」


「そうだね! そんな物事の順序や順番をすっ飛ばしてクライマックスまでフライアウェイしてるのは誰かな!?」


「センパイがリアを夜の部屋に誘うのがいけないんです!」


「俺はリアをどうこうするつもりで誘ったわけじゃない!」


 瞬間、世界が固まった――気がした。


 トモとリアがお互い電流が走ったかのように震え、動かなくなったのだ。


 自分の心臓の音が早鐘のように鼓動する。


「センパイ……」


「ケイ……」


 2人が声を揃えて俺を呼んだ。


 君たち案外仲良くなれそうじゃない? なんて思考はきっと現実逃避なのだろう。


 男の感がひしひしと伝えていた。


 状況は最悪なほどにもう終わっているのだと。


「詳しく説明してください!」

「詳しく説明してっ!」



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