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勇者は修羅へと足を踏み入れた。

 


「…………」


 気まずい沈黙が食堂を包み込んでいる。

 乾いた木製食器が立てる音がやけに大きく感じた。


 同じテーブルではあるものの、反対側の一番遠くに座って距離を開けているトモを見ると、目をそらされる。


「な、なぁ。俺、なにかしたか?」


 リアに逃げられてから俺はずっと食堂に居た。


 途中でアルザさんに部屋に行ってもいいと言われたが、部屋の中にこんな状態のトモが来たら余計気まずくなるかもと思ってずっとここを離れられなかった。


「別に……センパイは何も悪くないですよ。わたしも除け者になんてなりませんから。…………無理やりにでも混ざりますっ」


 そう言ってトモは自分のスープを掬ったスプーンを口に運ぶ。

 まるで彼女の目は一大決心を決めたかのような、覚悟のある眼だった。


「……?」


 俺は隣に座るフラフィーに視線を送ると、フラフィーは兎耳をピクピクと動かしながら首をかしげた。


「なぁフラフィー。トモのやつどうしたんだ?」


 顔を近づけてそっと問いかけると、フラフィーが考える仕草をしてから口を開く。


「フラフィー、よく分からない」


 スープの皿を両手で持っているフラフィーだけがこの場でいつも通りだ。


「でも、トモはマスターと交――」


「フラフィー?」


「っ!」


 フラフィーの言葉をトモが名前を呼ぶことで遮った。

 それだけでフラフィーが口を噤んでしまう。


 な、何があったんだ。


 ますます訳がわからない。


「センパイ、スープのお代わりしていいですか?」


「は、はいっ」


 有無を言わせない迫力がそこにはある。


 俺は言われるがままに銀貨を1枚出してトモに渡す。

 夜ご飯は宿代に込みだが、食事のお代わりは有料だ。


 銀貨を受け取ってから席を立とうとする俺はトモに何とか声をかけた。


「と、トモっ。何か飲み物も頼めるか」


「いいですよ、センパイ」


 トモは案外あっさりと了承してからアルザおばさんのいるキッチンまで歩いて行く。

 ウェイターとか雇われ人などは居ないらしい。基本的にこの宿はアルザさんが1人で切り盛りしてるとか。

 俺たちの他にお客なんていないしね。


「しかし……どうしたんだほんと……」


 何度も考えたが答えが見つかることはなかった。


 リアをこの場で引き入れるのは最善の選択肢で、これから確実に必要になる存在だ。

 リアの立場は十分以上に役立つはず。


 トモだってリアを助けて欲しいと言っていたではないか。


 リアもリアだ。


 俺は変なことなど言ってない。


 そんなに悩むことだろうか。

 盗賊を倒したいのは彼女の願いなはず。

 倒したその後、俺たちに力を貸してくれるだけでいいのに。


 なぜ逃げるんだ。


 確かに能力のことをあそこで言いたくなかったから、ボカした言い回しになったかもしれない。

 それでも逃げるなんて思わなかった。

 少し考えてから頷いてくれるものだとばかり……。


「はい、センパイ」


 帰って来たトモがお盆からジョッキを渡してくる。


「お、おう。ありがとう」


「どういたしまして」


 トモが素っ気なく返事をして席に着く。


 持ち帰って来たお盆にはスープ皿ともう一つのジョッキが乗っていた。

 トモも飲み物を頼んだのだろう。


 そんな事を思いながらジョッキに口をつけると吹き出しそうになる。


「んっ! んぐっ! ぐほっ、ごほっ! こ、これ! 酒じゃないか!」


 口の中に広がったのはリンゴの薄い甘みではなく、苦いビールの味だった。


 なんとか飲み込んで叫ぶも、トモは無言で自分のエールを眺めている。


「なんでこっちにしたんだよ!」


 リンゴ水の方はどうなったんだ。


 なぜお酒の方を持って来た。


 エールには不純物が混ざってるのかザラザラとした感覚が口の中に残っている。

 日本で親戚に飲まされたことのあるビールとは違い、生温かく、変な雑味もすごい。


 小さいながらにこんな苦いものを飲むのかと当時は思っていたが、このエールの不味さはそれとは比較にならない。


 なんだこれは。


 そしてなぜトモはこれを持って来たんだ。


「んっ!」


 俺の問いかけに答えずに、ずっとエールを眺めていたトモが突然ジョッキを呷った。


「トモっ!」


 慌てて止めようとするも距離が遠かった。

 テーブルを回り込んでいる間にもゴクゴクと音が鳴るほどにエールを飲み干している。


「どうしたんだよ!」


 俺がジョッキに手が届いた時にはすでにあの量のクソ不味いエールを飲み干していた。


「酔いたいんですよっ」


 ジョッキを机に置いたトモが再度立ち上がる。


「ストップ! ストップ!」


「なんで止めるんですか!」


「お前こそなんで立ち上がるんだよ!」


「お代わりを貰いに行くに決まってるじゃないですか!」


「決まってねーよ!」


 俺は無理やりトモを座らせようとする。


「お前っ、ずっと変だぞ」


「私だって必死に考えたんです! でも、お酒でも飲まないとそんなの出来ないんですよっ!」


「何をだよ!」


「分かってるくせに!」


 俺たちの叫ぶ声にアルザさんがキッチンから顔を出した。


「とりあえず落ち着けって。冷静になれ」


「私は冷静です」


「冷静な奴はこんなことしない」


「冷静だからこんなことしないといけないんですっ」


 ダメだ。

 ここでいくら話しても平行線な気がして来た。


「一旦部屋に行こう。ここじゃマズいって」


 俺は場所を変えることにする。


「いいですよ。行きましょう、部屋に」


 トモは案外素直に聞き入れてくれた。

 なぜか目に決意が宿っていたけれど……。




     ***




 目の前からは一糸纏わぬ裸のトモに抱きつかれている。

 後ろでは肌の透けたベビードール的な服に身を包んだリアが涙目になっている。


 なんだこの状況。


 一体何がどうなっていた。



シュラバーは強力な結界魔法でーす。と、冗談はさておき本日三話目です!

みなさんのブクマ評価感謝!次の目標は400ぅ……ですかね。

これからも「底辺勇者」をよろしくお願いします!

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