乙女は悩み、悶え苦しむ。
トモ視点です。
「なんなんですか、なんなんですか、なんなんですか」
私は無理やり仰向けにさせたテテのお腹をガシガシと撫で摩るけど、胸のモヤモヤが晴れることはない。
「そんなにちっちゃい子が好きなんですかっ」
撫でられて擽ったいのか、テテが2つの前脚で顔を隠すように自分の頭を掻く。
「私じゃダメなんですか……」
センパイがパーティーに誘ってくれたんじゃないですよ。
「……アホ」
私が呟いた罵倒の言葉は、宿の庭隅にある東屋の中で、誰に聞かれることもなく消えていった。
「トモはマスター、嫌いなの?」
いや、そういえば1人いたんだっけ。
隣で人形のように座っていたフラフィーが口にした言葉から、彼女の存在を思い出す。
彼女を呼んで欲しいと頼んだのは確かに私だ。
この世界に来てずっと寂しかった。
1人で森の中を彷徨って、何度も何度も眠れない夜を過ごして。
だから側で私の言葉を聞いてくれる人形が欲しかったんだ。
なのにそれが裏目になる。
私はいつもそうだ。
やることなすこと全部悪い方向に行ってしまう。
「……なんでそうなるのよ」
私は敬語の抜けた素の口調で悪態をついてから、フラフィーを抱き寄せる。
「そもそもなんなのよあんたは……。使い魔の癖にケイにばっかくっついて……。ケイもケイでフラフィーにばっかデレデレデレデレっ」
フラフィーの兎耳を付け根からモフると、膝の上に乗せた彼女が擽ったそうに身を震わせた。
「フラフィーはフラフィー」
私の言葉にフラフィーは不思議そうに返す。
「……そんなの知ってるわよ」
彼女が産まれたての子供のようなことも、純粋にペットが飼い主に懐くように、マスターであるケイに戯れているだけなのも。
それでも、それでもだ。
ケイが使い魔であるフラフィーのことをどう思うかとは別問題。
もしケイがフラフィーを気に入ってしまい、その……、そういう関係に……なったりしたら、私の立場がなくなってしまう。
ただでさえこの世界に身寄りなんてなくて、頼るものもない私がそんなことになったらどうなるかなんて分かってる。
また1人になるのは嫌だ。
私にはケイが必要なの。
ましてやあんな娘なんかにっ!
「なにが貴族の娘よっ。あからさまに金髪を見せびらかしてさっ」
いきなり出て来た癖に2人だけで難しい話をし始めるし。
「んー」
いつも抱き枕用の人形にそうしていたように、私がフラフィーを強く抱きしめると、彼女は苦しそうに声をあげた。
「ケイもケイよ」
彼女を助けて欲しいって言ったよ?
確かに言ったよ?
でもさ、追い詰められた彼女をいいことに体を求めるなんて……。
「……私が迫ると逃げる癖に」
手応えはあるのだ。
それっぽく攻めてみると恥ずかしがりながらも満更でもなさそうに笑ってくれていた。
なのにいくら経っても手を出そうとしない。
毎日無防備に隣で寝てるのに。
始めてケイと出逢った日の夜もそうだった。
盗賊から助けられたあの時。
パーティーに誘われたあの時。
私はこの世界で彼なしでは生きていけないのだと思った。
だから意を決して彼と同じ布団に入ったのだ。
せめて体が繋がれば私が捨てられることはないと思ったから。
なのに、なのにっ!
「なんで私よりも先に寝ちゃうのよっ」
側に寝っ転がったままのテテのお尻を撫でまくる。
「抱き枕もなくて私は全然眠れなかったのに……いつ手を出してくれるのかなって……ずっと待ってたのに……」
フラフィーの首元に顔を埋める。
お腹のあたりでフラフィーの尻尾が揺れる感触がした。
おっぱいだってこの中で一番大きいのに。
ケイが私の胸をちょくちょく見てることくらい知っているんだから。
「それなのになんであの子なのっ」
私にだってあんな強く求めてくれたことなんてないのに。
「私だってセンパイに認められたい」
私の腕の中で抱かれたフラフィーはまるで人形のように動かなかった。
それでも彼女は人形ではない。
彼に命を貰い、魂まで授かった。
「フラフィー、よく分からない」
「分からなくていいわよ」
「でも、マスターが好きだから好きって言うよ」
「獣と一緒にしないで……」
「フラフィー、マスターと交尾したい。マスター好きだから」
「……あなたは悩みなんてなさそうでいいわよね」
「難しいことよく分からない」
「私だって分からないわよ」
ケイがなにを考えているのか分からない。
彼は一体なにを考えているのだろうか。
そもそも彼女に手を出すつもりなら、なんで私たちの部屋でやろうとするのよ。
私に見せつける気なの?
私には手を出す価値もないってこと?
もうわけわかんない。
「はぁ……」
「くうぅ」
私がため息をつくと、巻き込まれたテテが深く息を吐いた。
「晩ご飯……どうやって顔合わせようかな」
どんなに悩んだって私はケイから離れることなんてできない。
1人では生きていけないのだから。
悩みのなさそうなフラフィーがほんの少しだけ羨ましく思えた。
むずかゆいです。