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言葉と想いはすれ違う。

 


「はい、アルカ水よ」


 リアがお盆を不慣れな手つきで運びながら戻ってくると、ゴトリと目の前に木製ジョッキを置いた。


 顔を洗って来たのか目元の赤みがいくらかなくなっている。

 いやに時間がかかってると思ったけど、きっとそのせいだろう。


「どうもな」


 俺は礼を言い、マジマジと木製ジョッキの中を覗く。

 薄暗くて分からないけど色はほとんど透明。少し黄色いかな?

 匂いは甘い香りだ。リンゴっぽい気もする。


 木製ジョッキは初めて見たが使い勝手としてはガラスのジョッキと変わらない。

 予想よりも量が多い気もするが、こんなもんなのか?


 一口飲んでみるとリンゴ水だった。


 水に絞ったリンゴを混ぜ込んでいるのだろう。


 ちろっとトモとフラフィーを見ると、トモは微妙な顔をしていて、フラフィーは耳を揺らしながらチビチビと飲んでいた。


 うん、あんまり美味しくない。


 フラフィーは気に入ったようだけど、日本で育った俺たちとしては中途半端だ。

 もっと薄めで香りだけリンゴだったり、濃い目にするならいっそリンゴジュースでいい。


「どうかしら?」


「え、ああ、普通……かな?」


「違うわ……。盗賊退治の件よ」


「そっちか」


 アルカ水の感想を聞かれたのかと思ったら、さっきの話の続きだったらしい。


「お前の作戦には乗れない」


 俺はきっぱりと言った。


「そう……」


 リアが俯きながら唇を噛み締める。


「ただ……盗賊は倒してやらないでもない」


「ほんとっ!?」


 ガタッとテーブルを鳴らしてリアが前を向いた。


「あ、ああ」


 お前、そんな顔もできるのか。

 無邪気な喜びを表現する彼女の笑顔は素直に可愛かった。


「……」


 無駄に大きな音を立ててトモがジョッキを机に叩き置く。


「……その代わり条件がある」


 俺はトモを気にせず先を続けた。


「じょ……条件?」


 突然彼女が戸惑った様子を見せる。


 この子、貴族向かないじゃないかな。

 表情が顔に出過ぎだ。


 だからこそ利用価値があるんだけどね。


「お前にもできることだ。いや、お前だからできることだな」


 条件というのは有り体に言えば、これから出来うる限りで俺に協力することだ。


 彼女は腐っても貴族。


 この国で女性が、しかも親が死に、財産まで残っているのか怪しい彼女が地位を引き継げるのかは知らないが、もし貴族になれたら儲けものだ。


 彼女の立場を利用して魔石を集めてもらう。


 他にも転生者の情報や世界情勢。

 魔物の生息地や発生状況。上手くやれば魔物討伐の報酬なんかまで俺が貰えるかも。


 俺が個人ではできないことを彼女を使って行うことができるだろう。


 貴族になれなかったとしても一市民として色々使うさ。

 この街で彼女を基点に情報や魔石を集めるくらいはできるだろうしな。


「わ、私だからって……」


 リアがなぜか俯いてしまう。そのせいで金糸の如き髪の毛が重なり表情が隠れてしまった。


「もし可能なら今日の夜に俺たちの部屋に来てくれ。お前の覚悟を見る」


 リアには俺の能力をバラすつもりだ。

 そのほうが話が早いし、魔石集めにも協力的になるはず。

 その為に部屋に呼ぶ。


「えっ、あの、い、いきなり?」


 俯いたままリアが聞いてくる。

 先ほどまでのリアとは違い、迷っているのか声が通らない。


「こういうのは早いほうがいいからな」


 作戦立案から俺の能力のことなども。

 行動は即実行がいい。


「そ、そういうものなのかしら……でも、そういうのってもっとゆっくりお互いを知ってからっていうか……」


 考えがまとまらないのか体をモジモジと動かすリア。


「本当のところを言うとこのままこの街を出ようと思っていたんだけどな……。お前がいるからやろうと思った」


 俺は嘘をついた。

 多分リアが居なくてもこの街の盗賊は倒した気がする。


「わ、私なんて……あ、あう」


 リアの頭が左右に振られる。


「自信を持て! お前は他人にはないものを持っている!」


 貴族という立場を!


「それを俺が認めた!」


 これから一生死ぬまで俺の為に働き続ける奴隷として!


「リア、俺のものになれ!」


 俺が熱い想いを伝えると、


「――っっっ!!」


 リアが顔を伏せたまま突然立ち上がり、走り去ってしまった。


「あれ?」


 なんで逃げるんだ……。


 完璧な説得なはずだったのに。


 何かまずいことでもしてしまっただろうか。


「なぁトモ」


 なぜリアが逃げたのかを聞こうとトモの名前を呼ぶが返事がない。


「トモ?」


 隣に座っているはずのトモへと向くと、怒った顔のトモがいた。


「センパイのロリコンっ」


「へっ!?」


 突然立ち上がったトモが全くもって心当たりのない罵倒を口にする。


「テテおいで! フラフィーもっ!」


「お、おい!」


 トモの今までにない威圧に驚いたのか、テテもフラフィーも怯えながら外へと歩き出したトモについていく。


「どういうことだよ……」


 俺の呟きは食堂に寂しく溶けていった。



ブックマーク200達成です!予定通り本日3話連続投稿とします!


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