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勇者は胸の誓いを思い出す。

 


「フラフィー、喉乾いた」


 リアのこぼれ出た言葉によって訪れた静寂をフラフィーが破った。


「リア。何か飲み物はあるか?」


「……え、ええ。アルカ水とルルラ酒、どっちがいい?」


 赤くなった鼻をすすったリアが聞いてきた。


 未成年に酒を進めるなよ。

 フラフィーなんかまだ幼女だぞ。

 それに酔っ払ったりなんかしたらまた襲われるかもしれないじゃないか。


「アルカ水ってのを3つ頼む」


「分かったわ。銅貨6枚だから」


 リアが立ち上がって奥の部屋へと消えた。おそらくキッチンがあそこなのだろう。


 しかし考える時間ができたのは嬉しい。

 フラフィーの思わぬファインプレーだ。


「ねぇ、センパイ」


 横で話を聞いていたトモが口を開く。


「助けたいって言うんじゃないだろうな」


 俺は事前に銅貨を6枚出しながら応えた。


「だって……可哀想ですよ」


「可哀想ってだけで仲間を危険に晒したくない」


「それは……そうですけど」


 トモはフラフィーを見てから机に顔を伏した。


「そうですけど?」


 俺はあえて続きを促せる。

 こういうのはお互いの意見をしっかり最後まで聞いた方がいい。


「あの子の気持ち……なんとなくわかるんですよ」


「気持ちって?」


 俺の言葉にトモが顔を上げる。


「ほら、私って盗賊に……お、犯されそうに……なったじゃないですか……。たはは」


 あまり思い出したくないのか、笑みを浮かべて誤魔化し気味に言う。


「ああ」


「私はセンパイに助けられました。でも……朝起きた時とか、ふっと夜に目が覚めた時に……思うんですよ。もし……もしあの時にセンパイが助けてくれてなかったらって……」


「そんな自分が彼女に重なると?」


「……よく……わからないですけど……」


 机の上で重ね合わせた自分の指をトモはじっと見つめる。


 もし俺がギギを殺されたあの後、この力を使えることができなくて、復讐なんてできなかったとしたら。


 いや、そんなこといくら考えたって関係ない。


 リアの計画は分が悪すぎる。


 もし俺がこの街の盗賊を全部倒したとしてもラルカスからカゲフミがやってくる。しかもその後には神聖国軍が押し寄せてくるのだから。


 そんなのに勝てっこない。


 ただの人間が軍相手に勝てるはずないのだから。


 …………。


 あれ?


 カゲフミと名乗る盗賊団は元々城塞都市の兵だった。


 どのくらいの数がいるかは分からないが、十や百では足りないだろう。

 少なくとも300人。1000人以上いる可能性もある。


 なら神聖国軍は?


 他国に進行するほどの軍だ。

 一個大隊とかでは済まないと思う。


 一個連隊だとしても5000人。

 旅団や師団くらいまでくるとなると1万人は押し寄せてくるのではないだろうか?


 流石に多すぎか?

 いや、国落としに何万って軍を動かすのは当たり前なはず。


 いくらにせよ軍が来ることには変わりない。


 カゲフミ300、神聖国軍2000だとしよう。

 合計2300人。

 2300かけるの平均人間獲得ゴールド10だと23000。


 伝説級のドラゴンが2体呼べるぞ……。


 しかし、今の俺に奴らを倒す力はない。


 少なく見積もっても神聖国軍の総戦力が1兵士100のかける2000で20万ほどになる。


 ランキング1位の勇者だって勝てるか怪しい。


 だが準備期間があれば?


 敵が軍と分かっていれば対策も立てられる。

 こちらにはトモのチートもある。


 使い魔が300匹いればそれだけで俺の総戦力は20万近くにもなるんだ。



 ………………ふむ。



 案外戦えるのではないだろうか。


 カゲフミ300人を倒せば3000ゴールド手に入る。

 それを全部魔石に交換すれば300体の使い魔を呼び出せる計算だ。


 人間1人殺せば使い魔1匹。


 それに合わせて白のポイントまで手に入る。


 人化使い魔を増やすのはフラフィーのあの件を思い出すと躊躇うが、あれは瞬足兎だけの習性だと思う。

 他の種族にすればいいんだ。


 神聖国軍だって一度に全軍が来るわけではない。

 きっと先遣隊や施設団などが来て、その後、帝国進行のための本軍だ。


 一度思いついてしまえばそれが最良の作戦に思えてならない。


 これから魔物を倒して魔石とゴールド、ポイントを集めながら戦力を増やす。なんて漠然と考えていたが、あまり現実的ではないのもわかっていた。

 魔物が大量に湧く場所や、メタルなスライム的ボーナスモンスターを見つけられたら話しは別かもしれないが、現状で1日に手に入るゴールドはフラフィーを狩りに行かせても100だ。


 魔物だってゲームのように無限湧きするとは限らない。


 リソースは有限。


 俺たち転生者1000人はゴールドを奪い合っているのだ。


 躊躇っている余裕はない。


 転生者が全員いい奴とは限らないんだ。

 神聖国の勇者が現に城塞都市を破壊しているし。


 うん、決めた。


「トモ、やっぱり俺はリアの作戦には乗れない」


「そう……ですか……」


 名前を呼ばれて顔を上げたトモだが、寂しそうに唇を動かした。


「だがな……。奴らは倒す」


「え?」


 そうだ。


 そうだよ。


 そもそも大事なことを忘れていた。


 たとえカゲフミがギギを殺したあいつらとは別の盗賊団だとしても、結局は盗賊だ。


「盗賊だけは赦さねぇって俺は誓ったんだよ」


 盗賊だろうと軍だろうと糧にして、魔王にだってなってやる。



絶対悪い顔してますよこの主人公

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