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零れた雫は心に落ちる。

 


「それ、どういうことだよ」


 俺は彼女に問うた。


「そのまんまの意味よ。1週間くらい前に、神聖国の勇者を名乗る奴に壁を破られたらしいわ」


 神聖国の勇者。


 うわー、めっちゃ心当たりあります。

 ランキング1位の人ですねごめんなさい俺たち日本の勇者が余計なことを。


「なんで勇者がそんなことするんですかね?」


 神聖国の勇者に心当たりがないらしいトモ。


「取り戻しにきたのよ」


 リアは飽き飽きしたといった感じで喋る。


「取り戻しに?」


「元々この土地は神聖国でね、ワイアード帝国がすっと昔に攻め落としたの。あなたたちも聞いたことくらいはない?」


「ないな」


「嘘でしょ……」


 信じられないものを見る目でこちらを眺めて来た。


「ど田舎で外の情報はあまり知らないで育ったんだ……」


「そう……」


 案外すんなり納得してくれた。


「その城塞都市とやらがなくなったってのは敵に占拠されたってことか?」


「その通りよ。城壁を破られたとなると遣わされていた辺境伯も真っ先に帝都へ逃げ帰ったわ。あれでも名の通った戦人の家紋だったのに。きっと民は捕虜か奴隷ね」


 辺境伯が真っ先に。


「それってまずくないか?」


「まずくないわけないでしょ」


「何がまずいの?」


 1人だけ話についてこれてないトモが首をかしげる。


「頭が逃げたら軍なんかは動けないだろ。統率のない軍隊なんて盗賊と変わらないぞ」


 トモに説明するとリアが驚いたようにこちらを見ていた。


「驚いたわ。一応田舎育ちでも考える頭はあったのね」


「失礼だなお前!」


 金髪引っ張るぞ。


「関心したのは確かよ」


「言い方ってもんがあるだろ……」


「どうでもいいわ。それよりも、あなたたちってお金が欲しくて旅をしているのよね?」


 リアが本題を切り出して来た。


「どういうことだ?」


 俺は彼女の目を見て聞き返す。


「城塞都市に行くってことは兵士にでもなるつもりだったんでしょ?」


「もしそうなら?」


 肯定も否定もせずに先を促す。


「……お願いが……あるの」


 リアが一瞬迷ったそぶりを見せるが、すぐに意を決して口を開いた。


「……聞くだけ聞こう」


 こんな見知らぬ旅人にお願いするくらいだから相当に切羽詰まってるのだろう。


 正直この類のお願いはめんどくさいこと請け合いなので承諾したくはない。


 しかしこの世界の情報が欲しいのも確かだ。


 だから話だけは聞いてみる。


「あなた、さっき言ったわよね。統率のない軍隊なんて盗賊と同じだって」


「ああ」


「それならまだ良かったわ。司令部が無くなった軍は神聖国の兵士から逃げるようにこちら側へ来たの。民を放り出してね」


「それで?」


「彼らは国から見捨てられた軍よ。お金もなければ蓄えもない。武器だけ揃ってるそんな奴らがそのあと何をするかなんて分かってるでしょ」


「この街に来たのか……」


「そうよ。あいつら……おと――。この街の領主を殺して支配料なんて払わせてくるのっ」


 リアが怒りに顔を歪めた。

 蒼い瞳の奥には憎しみの炎が揺れている。


 なんだかこの前までの俺のようだ。


「西の城塞都市ラルカスでも叛乱を起こしたらしくてね。今ではカゲフミなんて名乗ってるわ」


「そういえば、そんな風に名乗ってたな……」


 ほかにも何か言ってなかったけ?

 俺は門番3人組の言葉を思い出そうとするも、思い出すよりも先にリアが先を続けた。


「お願い。取り戻してほしいものがあるの」


 蒼い瞳の彼女は両手を祈るように重ね、助けを求めてきた。


「取り戻してほしいもの?」


「領主の館にある封蝋よ」


「封蝋?」


「ええ。どうしてもそれが必要なの」


 リアが強く自分の手を握り締める。


「でも、そんなことしたら占拠された城塞都市ってのから奴らの仲間が来ないか? 来なかったとしても手痛い報復を受けるのは目に見えている」


「分かってるわ。それでもあなたにお願いしてるの。あなたにはそれができる?」


「なんで俺たちなんだ? ついさっき会ったばかりの子供だぞ?」


「彼女の強さを知ってるからよ」


 リアがフラフィーを見た。

 門番3人を無傷で瞬殺した俺の使い魔を。


「報酬は?」


「金貨5枚」


 微妙だ。

 そもそもこの世界のお金にはあまり興味ない。


「可能かどうかでいえば可能だ……。敵の数によっては準備もいるが……。だけど、封蝋ってのを取り返したとして、その後どうするんだ?」


「帝都へと逃げるの。そして封蝋を持って、彼等をおさめるように陛下へお願いするわ」


「そんなことできるのか?」


「できる……」


 彼女は自信がないのか下を向いた。しかし、すぐに前を向いて言う。


「私は殺された領主の娘。アラーリア・アルゼッドなの」


「お嬢様だ……」


 今でずっと黙ってたトモが呟いた。

 やっぱ女の子はこういうのに弱いのかね?


「貴族だから陛下にお願いできると?」


 自分の身分を証明するためにきっと封蝋が必要なのだろう。


「ええ。してみせるわ。陛下だってミルから押し寄せてくる神聖国軍を無視はできないはず。そのためにも最初の砦になるこの街は守ろうとするはずよ。それにいくら盗賊とはいっても彼らは元軍隊。本国が動いてくれればどうにかなるかもしれないの」


 彼女の意思は強いようだ。


 しかし、この作戦うまく行く気がしない。


「一つ聞いていいか?」


「いいわよ」


「帝都って渓谷を越えた山迎えだよな?」


 北にいくと帝都方面だったのだろう。


「そうよ。正確には山を越えて行くつか街を渡らないとだけれど」


 余計に成功しない計画だな。


 俺が陛下ならこの街を捨てて渓谷や山に砦を作る。


 こんな廃れて貴族すら殺された街に兵を送ろうとは思わない。


「この街には兵を出して守るものがあるとは思えないんだが……」


「た、民がいるでしょっ!」


 民なら山の向こうにもいっぱいいる。

 むしろ山の向こう側の方が帝国民は多いだろう。


 うん、この計画はダメだ。


 リアは貴族の娘として頑張ろうとしているが、色々と足りてない。


 こんな計画に乗ったところで良いことはなさそうだ。

 そもそも報酬がいらないしな。


 断ろう。


 そう思った矢先。


「私はこの街が好きなの。春の雪解け祭も……秋の収穫祭も……」


 震えた声で目元を赤くしたリアが言葉をこぼした。


「お願いよ……。父さんの……」


 俺は心から願いを口にする女の子を初めて見た気する。


「父さんの愛したこの街を……救って」



都市奪還編スタートです。

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