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怪物は夜に蠢き精を喰らう。

第二章開幕です。



「ん……?」


 ガサゴソと毛布の中で蠢く感覚に俺は目を覚ました。


 最初はまたトモが抱きついてきたのかと思ったが、足元から這い上がってくるかのような感覚でそれも違うと思い当たる。


 プニプニとした暖かい感触がゆっくりと毛布の下を移動してきた。


「マスター?」


 俺が誰何(すいか)するよりも早く、そのナニカが顔を出す。


「なんだ……フラフィーか……」


 俺はホッと安堵して緊張した胸に手を当てた。

 謎の魔物に襲われるかもしれないという恐怖が一瞬だが頭をよぎったから。


「マスター。マスター」


 俺のお腹に乗ったフラフィーが上半身を起こした。


 真っ白な肌に淡い月明かりが透き通るかのように煌めく。


「マスタぁー」


 幼い彼女の声は妙に艶かしく聞こえる。


 そう。白兎の幼女は産まれたままの姿だった。


「なっ!」


「マスター、逃げちゃダメ」


 慌てて起き上がろうとするとフラフィーに抑え込まれた。


 チカラつよっ!!


 細腕の幼女のどこにそんな力が眠っているのか全く見当もつかない謎の圧力で俺はベッドに張り付けられる。


「マスター、交尾。交尾、しよ?」


 フラフィーの目はなんだか闇色に染まっていた。

 頬はほんのりと上気し、唇は艶めいている。


 そう、まるで興奮しているかのように。


 一言で例えるならば――発情期?


 兎の特徴に年中発情期って言われているのってデマとかなんじゃなかったけ。


「マスタぁー」


「ちょちょちょフラフィー!?」


 俺が慌てて静かな声で名前を呼ぶもフラフィーは聞こえていない様子。


 ゆっくりと顔を近づけてきたフラフィーが俺の首筋を舐めた。


「うひゃっ」


 湿っぽく生暖かい舌が肌を這う。


 おかしいおかしいおかしいってこの状況!


 なんで俺、ペットに貞操襲われてるの!


「マスターの子種……欲しい」


 幼女が子種とか言わないで!


「フラフィー! フラフィーストップ!」


 俺はできるだけ小さな声で叫んだ。


 隣で眠るトモを起こすわけにはいかないからだ。

 この状況が俺の意図しないところであったとしても、どう見ても悪者は俺になる。


 冤罪だ! 俺は無罪だ!


 それを証明するためにも止めなければっ!


「マスター……嫌なの?」


 俺のほっぺから舌を離したフラフィーが問いかける。


「嫌とかじゃなくてさっ」


「なら問題ない」


 俺の言葉を最後まで聞かずに、フラフィーは肩をカプッと甘噛みしてきた。


 のし掛かってくる彼女の体重から燃えるような熱い体温を感じる。


「はぁ……はぁ……ますたぁー」


 息が荒くなり声がだんだんと蕩けてきたフラフィー。


 俺は必死に抵抗するもまったくもって抜け出せる気がしない。


 戦闘能力が10倍も違うってトモのことバカにしてたけど、よく考えると俺自身の戦闘能力もフラフィーの10分の1くらいなんだよね!


「ますたぁー。ますたぁー。ますたぁー」


 狂ったように俺を呼ぶフラフィーがだんだんと下へ降りていき、ズボンに手をかけた。


「フラフィーストップ! ほんとちょっと待って!」


 慌てて起き上がろうとするも片手で胸を押さえつけられただけで動けなくなる。


 なんで!?


 幼女強くない!?


「ますたぁー、すき。すき」


 万事休す。


 フラフィーがズボンのベルトに四苦八苦してくれているが、これも時間稼ぎにしかならない。


 どうにかしなければ。


 どうにかしなければ!


「ふ、フラフィー! ま、まずはキスからだ!」


 俺はとりあえず行為を先延ばしにしようとそんなことを口走る。


「センパイ……最低ですね」


 すると、真横から絶対零度の言葉が降り注いだ。


「ふぁ!?」


 突然放たれた殺意の波動に変な声を上げてしまう。


「声がして起きてみればこんな幼女にエッチなお願いを強要するなんて……」


 トモがあらぬ方向に勘違いしてる!


「違う! 違うんだ! ていうか助けて!」


「自分から手を出しておいて被害者面ですか!?」


「だから違うんだって! フラフィーがなんかおかしいんだよ!」


「そんな嘘通じるはず無いじゃないで――」


「ますたぁーますたぁーますたぁーますたぁー」


 怒り心頭なトモだったが、ベルトを外せずに苛立ち気味に俺を呼びまくるフラフィーを見て、言葉を途切る。


「ふ、フラフィー?」


「ますたぁーますたぁーますたぁー」


 トモの声も聞かずにフラフィーは一心不乱に俺のズボンを外そうとしていた。


「ど、どういうことよ!」


「俺にもわからねぇよ!」


 トモの問いかけに俺は叫ぶ。


「振り払いなさいよ!」


「チカラがすごい強いんだよ!」


「そんなわけないじゃない!」


 そういってトモはフラフィーの後ろに立ち、抱きかかえて持ち上げようとするがビクともしない。


「なによこれ……」


 ここにきてトモがようやく状況を理解したのはいいのだが、すでにレッドゾーン。


 フラフィーは焦れすぎたのかズボンを破こうとし始めた。


「フラフィーやめ! それだけは! 今のところこれが一張羅なんだから! やめろ!」


 俺は慌ててフラフィーを止めようと両手を彼女の肩に当てて押し返すも効果はない。

 トモも再び離そうとするがフラフィーの力には敵わない。


「ますたぁーますたぁーますたぁー」


 ズボンは裂ける音が聞こえてきそうなほどにまで引っ張られていた。


「うわあああやめろおおお!」


 俺は無我夢中で腕を伸ばすと右手がぬちょっと暖かいものに包まれる。


「まひゅたー?」


 それはフラフィーの口内だった。


「まひゅたー。んくっ。はふひゃー。まふはー」


 先ほどまでズボンを破こうとしていたフラフィーが突然俺の指を舐め始める。


「ど、どうしたの?」


「分からない……けど、興味がそれてくれた?」


 相変わらず俺の膝の上に乗ったままのフラフィーだが、貞操の危機は去った……のか?


 もしかしたら俺はとんでもない化け物を生んでしまったのかもしれない。


 夜空に浮かぶ月を見て、そんなことを思った。



開幕から飛ばしすぎとか言わないでください。

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