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遍く星空を見上げ、俺は眠りにつく。

 


「すごい星だな」


 見上げた空には一面の星。

 覚えのない瞬きが空を飾る。


「ですねー」


 トモのどこかうっとりした声。


 お昼頃から歩き通しだった俺たちは夕暮れごろに寝床にする場所を決め、野宿へと移行した。


 椅子と机を出し、石を並べて簡易かまどを作り、火をつける。

 火は盗賊アジトのキッチンにあった火打ち石とそばにあった白い粉を使った。小さな火花が白い粉に着火すると途端に燃え上がるのだ。謎の異世界アイテム。便利である。

 アイテムボックスで名前を確認したら発火キノコの粉末というらしい。


「こんなの久しぶりだな」


 焚き火の中から発せられた爆ぜた音で俺は星空から顔を下すと呟いた。


 パチパチと焚き火特有の音が鳴る中で空を見上げたことなど親とキャンプに行った以来だ。

 あれもずっと昔のことであまり記憶もない。


 ご飯を食べ終わり、椅子に座ってまったりとした時間を過ごしているだけなのに、とても充実した気分だった。


 夜の空気が頬を撫でると、気持ちよく肌を冷やしてくれる。


「あとどのくらいでアルゼッドの街に着くんでしょうね」


「どうだろうな」


 明日かもしれないし、1週間後かもしれない。


「距離も聞いておけばよかったんです」


「俺も今、同じことを考えてた」


「盗賊アジトにいた馬に乗れたらよかったんですけどね」


「お前も俺も乗れないってなっただろ」


「そうですけどー。まさかこんなに歩くとは思わないじゃないですかー」


 椅子から足を伸ばしたトモが背もたれに深く背を預けと、トモの膝の上に人形よろしく座らされていたフラフィーの体が左右に揺れる。


「そんな近所のコンビニに行くわけじゃないんだから……」


 盗賊アジトに5匹いた馬は逃し、アイテムボックスに収容できない馬車はそのまま放置した。


 馬車を運転できればよかったのだが、あいにくとそんな知識はない。


「流石に一日中炎天下の中を歩くのは嫌ですよー」


 トモが未だに上半身を揺らしていたフラフィーを抱き寄せる。


「そう嘆くなって。多分だけど明日明後日には着くから」


「どうしてそんなこと言えるんですか?」


 背もたれからフラフィーを抱いたまま起き上がったトモがこちらに顔を向ける。


「お前が盗賊に捕まった日があるだろ?」


「ありますね……」


 嫌そうに肯定するトモ。


「あの日、盗賊たちは街へ捕まえた商人を売りに行ってたんだ」


「へー。そうなんですか」


 ピンと来てない様子のトモ。


「その商人を売りに行ってたのって日帰りだったんだよね。朝に出て、夕方にはお前を連れて戻って来てた」


「つまりどういうことですか?」


「つまり馬で半日もかからない距離だって事だよ。どのくらいの速さなのか知らないけど、奴隷の乗った馬車とか一緒だったんだから遠くはないはずだ」


「おー! センパイってやっぱ頭良いですね!」


「このくらい誰でも気づくもんだろ」


「いえいえ、少なくとも私は気づきませんでしたよ」


「それはお前だからな……」


 俺は呆れた声を出す。


「なっ! 今のどう言う意味ですか!」


「そのまんまの意味だ」


「うぐっ。反論できません」


「自覚あるのかよ!」


 俺はついツッコんでしまった。


「あははっ。センパイはそうやってくれるから好きです」


「っ!」


「あれー? センパイもしかして赤くなってます?」


 突然「好き」とか言い出したトモがニヤニヤとする。


「ちがっ! これは焚き火の明かりだ!」


「うふふ。そういうことにしといてあげます」


「ぐっ」


 余裕のある態度がなぜかムカつく。


「ふわぁー」


 そんな時、フラフィーが大きなあくびをした。


「あはは、こんなところは子供っぽいですね」


「フラフィーはもう大人」


 トモにそんなことを言われ、あくびを隠したフラフィーを見て口角が緩む。


「ははっ。そうだな。やる事もないし、とっとと寝るか」


「そ、そうですね」


「何かあったか?」


「べ、別に何もありませんよ」


「ふーん」


 なぜか慌て始めたトモを不思議に思いながら席を立つ。

 テーブルと椅子をアイテムボックスに仕舞い、同じ場所に木箱を並べ始めた。


 縦5列、横4列の計20個の並べられた木箱。

 その上に臭い方の毛布を敷き、さらに盗賊ボスが使っていたベッドセット一式を敷く。


 簡易ベッド完成だ。


 これは街道を歩いている時に思いついた方法で、我ながら悪くないと思う。


「おー! さすがセンパイですね!」


「俺も硬い地面で寝るのは嫌だからな」


「確かに私も初めてが硬い地面とかはちょっと……」


「もしかして野宿初めて?」


「へ? あ、はい! そうです……」


 なぜか目をそらすトモ。


「でも流石に水浴びくらいしたいなぁ」


「そうですね。私も臭――わないですよっ!」


 突然トモに背中を叩かれる。


「俺は何も言ってないだろ!」


 なぜ叩かれなければいけないんだ。


「フラフィーねる」


 そう言って最初にベッドに入ったのはフラフィーだった。


「じゃあ俺も……」


 俺は靴を脱いでベッドへと入り、真ん中を堂々と陣取っているフラフィーの隣へとねっころがった。


「あっ! センパイ!」


「どうかしたか?」


「センパイの隣をフラフィーちゃんにしたらナニするか分かったもんじゃないです!」


「ナニもしねーよ!」


「なので私が隣になります!」


 そっちの方が不味いのでは……。


 と、思いつつも口にはできないのが童貞心。

 またトモの隣で寝れるとなると全てを優先してしまう。


「ど、どうぞ」


 俺がよそよそしく言うと、


「ど、どうも」


 なぜかトモもよそよそしくなる。


 そんなトモはフラフィーを端に寄せて俺に背を向けて隣にねっころがった。


「お、襲ったりしないでくださいよ、センパイ」


「襲わねーよ」


「絶対ですからねっ」


「分かってるって」


「お、おやすみなさいセンパイ」


「おやすみ」


 そうして俺は遍く星空の下で目を閉じた。


 異世界に来て初めて、静かに眠りへと堕ちていく。


 これから具体的になにをするかなんてわからない。

 だけど、今なら何にだってなれる気がした。









「分かってないじゃないですか……」




第一章完結です。明日から第二章、お楽しみに!

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