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死んだ相棒は戻ってこない。



 暗い牢屋。

 冷たい石の壁に囲まれて、正面は鉄格子に塞がれている。

 あたりはほとんど真っ暗であまり物は見えない。


 むせ返る匂いに目が覚めた俺はそんな場所にいた。


 最悪だ……。


 自分で自分を殴りたくなる。


 盗賊に捕まりにいく馬鹿があるかよ……。


 牢屋の中はそこそこ広く、5人は入れるだろう。空気は淀んでいてここが地下なのを教えてくれる。


 遠くからは盗賊の笑い声が聞こえてきた。


 幸いなのは手足を縛られていないことと、スマホを呼び出せること。


 スマホの電源をつけると時刻は19:48となっていた。

 6時間以上寝ていたことになる。


 ステータスをまず見るも変化はない。

 使用分だけ減っている所持金は残り40ゴールド。戦闘力はそのままだが総合力は下がっていた。おそらく資金力が下がったからだろう。


「ギギ……」


 せっかく呼び出した仲間の名前を呟くも返事はない。

 当たり前だ。

 ギギは死んだのだから。


 本当にそうだろうか?


 俺はギギが斬られ吹き飛ばされるところしか見ていない。


 一縷の望みをかけてジョブのアイコンを押し、契約獣のメニューを開くと、そこにはギギの名前があった。


「っ!」


 嬉しさが込み上げてきたのもつかの間、名前が灰色になっていることに気づく。


 焦る気持ちを抑えながらゆっくりとギギの名前をタップすると、ギギのステータスが表示された。




 名前:ギギ

 種族:グレイウルフ

 属性:土

 所属:ケイ

 称号:召喚獣


 戦闘:31

 支配:0


 総合:54


 ー死亡。土魔魂3へと還元。




 やっぱり死んでいる。

 戦闘力は俺よりも高いのか。でも総合力は俺よりも低い。


「くそっ……」


 魔石を無駄にしたことも悔しいが、初めて召喚した使い魔をやすやす殺されたことに腹がたつ。


 どうせ捕まるならギギだけでも逃せばよかったんだ。


「あいつら絶対にゆるさねぇ……」


 ほんの少しの間だったがギギは確かに俺を慕ってくれていた。

 ギギを殺したのは盗賊だ。

 だけど俺でもある。


 俺の浅はかな考えがギギを殺した。


 次は絶対そんなことはさせない。


 そしてあいつらも許さない。


 ここまで届く盗賊たちの騒ぎ声を聞きながら、俺は胸に復讐を誓う。


 これからどうすれば奴らに復讐できる?


 残りのポイントを全部グレイウルフにしてもきっと勝てない。

 敵はおそらく10人前後。

 1人倒すのに1匹必要だとしても、少なくとも1匹か。

 それにあのボス格の男には3匹いても厳しいだろう。


 俺はこのままだと奴隷に売られてしまう。

 そうなれば復讐なんてきっとできなくなる。

 どこぞの誰かに「お帰りなさいませご主人様」なんて傅くなんて死んでもごめんだ。

 どうせなら奴隷に傅かれる方がいい。


 復讐するならばここにいるべきだ。


 俺の強みはモンスターを呼び出せること。


 俺は檻の中にいてもグレイウルフを使役できる。


 奴らは人を捕まえて奴隷にすると言っていた。つまり馬車や街を襲って金品や人を奪っているのだろう。


 戦力はいつだって欲しいはず。


 よし、決めた。

 俺は……恥辱を飲んで牙を研ぐ。




    ***




「起きろマヌケ」


 鉄格子が蹴られる音で目が醒める。

 最悪の朝。最悪の目覚め方だ。


 こんな犬面のブ男にマヌケ呼ばわりされて起こされる日が来るなんて。


「ほら、今日の飯だ」


 盗賊は黒いパンを鉄格子越しに投げてきた。

 汚い地面に落ちる前に慌てて受け取る。この野郎、地面に落とすつもりで投げたな。にやけ面をぶん殴りたい。

 パンは見るからに不味そうだ。

 それにこいつ、今日の飯って言ったぞ。

 一日これだけで過ごすのか?

 殺す気か?


「おい」


 俺はつい声を出してしまった。


「あぁ? なんだよ、文句あんのか?」


 盗賊が鉄格子に脚をかけて見下してきた。


 くそっ……。ダメだ、熱くなるな。


「いや、ありがとな」


「ちっ。意気地のねーやつだぜ」


 俺は腹が煮え繰り返る思いで感謝の言葉を口にする。


「その、話があるんだがいいか?」


「はなしぃ?」


 馬鹿にしたような口調でこちらを見る盗賊。


「魔石を持ってないか?」


「魔石? 何すんだそんなもん」


 訝しげな目でこちらを見てくる盗賊。


「召喚師って知ってるか?」


「召喚師? なんだそれ」


「おれは召喚師なんだ。魔石を糧に魔物を召喚できる」


「はっ。そんなお伽話みたいなこと信じられっかよ」


 盗賊が鼻で笑う。


「もし……できたら?」


「魔物がなんの役にたつってんだ」


「俺が召喚できるのはグレイウルフ。奴らは匂いを嗅ぎつけ、音を聞き分ける。遠吠えはお前らの声よりもよく響く」


「…………ふん」


「もしもお前らのそばにグレイウルフが仕えたならどうなるかわかるか?」


「……とっとと言えよ」


「人間の匂いを辿ることもできる。隠れている奴を見つけることもできる。近寄ってくる敵がいれば真っ先に気づけて、遠吠えでずっと遠くから知らせてくれる」


「はんっ。そんなうまい話があるか」


「そんなうまい話をお前がボスに持ち込んだとなると……どうなる?」


「…………」


 蔑みのこもっていた目が変わる。

 野心に目覚めてしまった目だ。


 釣れたな。


 俺は確信で笑みを浮かべないように気をつけながら続ける。


「まずは俺が1匹グレイウルフを呼び出す。それをお前が使役して活躍する。グレイウルフ1匹に負けるマヌケでもないだろ?」


 そう言ってパンを齧る。


「てめーは何が目的なんだ」


「奴隷だよ。奴隷になりたくない」


「ふんっ。盗賊の仲間になるってーのか?」


「信用できないのは分かってる。だから俺はこの檻の中でいい」


「ちっ」


 考える仕草を見せる盗賊。しかし、こいつがもう考えることはない。頭の中ではこのうまい話を逃そうとは思っていないのだから。


「それに……」


 俺はトドメとばかりに続ける。


「それに?」


 盗賊がおうむ返しに聞き返した。


「このパンはダメだな。不味い。もう少しまともな飯にして欲しいってのもある。せめてスープをつけてくれ。あと1日に2食はほしいところだ」


「奴隷候補が偉そうにすんな」


 盗賊は鉄格子を蹴って、去っていった。



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