第6話 『従者』
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「レイ、今日は大事な話があるんだ」
「……なんでしょう?」
誕生日を明日に控えた夜、珍しく父上が食後に真面目な顔で話し始めた。
魔族が現れてから、約一年が経過していた。
あの事件には箝口令が敷かれ、民衆に広まりパニックになることは免れたが、周辺諸国の上層部に大きな影響をもたらした。
しかし、あれから魔族の出現情報は一切入ってくることはなく、不気味な緊張が続いている。
そのせいか、軍事部のトップの父上の雰囲気も少しピリピリするようになった。
「明日でお前も七歳になる。その次の年には適正儀式も受けることになる。そのため、そろそろレイに従者をつけようと思うのだ」
「従者、ですか」
口には出せないけど、従者なんて堅苦しいものはいらない。でも、ワイズみたいに俺から見ても分かるような有能な人物は欲しい。
アホの子だったらいらないかなあ。
「そこで、だ。肝心のレイの従者候補なんだが、一つ大きな問題があるんだ」
「? なんでしょう」
「ランドルフ様、それは私から説明させて頂きます」
俺が疑問を浮かべていると、今まで母上の傍に控えていたリリアナさんが答えた。
「実は、レイ様の従者候補は私達の子供なのです」
「ん? それなら何も問題ないのでは?」
リリアナさんの夫はワイズだし、二人の子供ならきっと聡明で賢い子なのだろう。何か問題があるようには思えないのだが、俺と歳が離れていたりするのかな。
「それが…………娘なんです。うちの子は」
「そうなんですか?」
大きな問題なんて言うからもっと大変なことだと思っていたが、別にそんなことはなかった。性別が何か問題になるのか?
「レイ、普通従者というものは主と同姓の者がなるのだ。実際、グレン君達の従者も同姓ということになっている」
三人に従者なんていたんだ。最近会っていなかったが、そんなことになっているだなんて。明日会うのが益々楽しみだ。
「娘には四歳の頃から従者教育を施しております。歳もレイ様と同じであるゆえ、学校でも従えることができます」
「そうですね…………」
別に女の子だからって問題があるわけでもないし、そこについての問題はないな。
ただ、二人の子供であってもそう簡単に許可を出すことはできない。ここは見極めないと。
「一度会ってみても構いませんか? 相性の問題もあると思いますし」
「是非お願いします。エミリア、入ってきなさい」
「は、はいっ!」
部屋の外から聞こえてくる元気な声。少し上擦っているのがハッキリと分かる。エリサの時を思い出すなー。
食堂の扉が開くと、ドアから白と水色のエプロンドレスを着た可愛らしい女の子が入ってきた。
髪の色はエプロンドレスと同じ水色で、それが彼女をもっと幼くしている。
「初めまして! エミリアと申します!」
「…………」
顔を合わせて見ると、声を聞いた時よりも更に緊張しているようだ。顔を真っ赤にしてドレスの端を掴んでプルプルしている。
…………まあ、悪い子じゃなさそうだな。
「エミリィちゃん、久し振りね。私のこと覚えている?」
「ひゃ、ひゃい! もちろんです、奥様のことを忘れることなんてありません!」
母上は満足げに頷くと、エミリアに手招きをした。
エミリアは可愛らしく小首を傾げてから、母上の方に向かって行く。
そして、母上はエミリアを抱っこして膝の上に座らせた。
「ぴ、ぴいっ」
「ねえレイくん、エミリィは私の娘同然よ。悪い子じゃないし、どうかしら?」
母上はエミリアを膝の上に座らせたまま頭を撫でている。撫でられているエミリアも緊張しているが気持ち良さそうだ。
恐らく、ここでエミリアを断るとしてもまた別の従者候補が現れるのだろう。それなら、ワイズとリリアナさんの娘であるエミリアならまだ気も楽か。
別に第一印象でエミリアが嫌って訳じゃないし、母上も推しているから仕方ないか。
「分かりました。エミリアでお願いします」
俺がそう言った途端、未だに母上の膝にいたエミリアは華のようにパッと笑顔を浮かべた。どことなくエリサと似ている。
「エミリア、これからはレイの命令を一番に聞きなさい。私やセレスよりも、だ」
「畏まりました、旦那様!」
「それとレイ、明日の誕生日には義兄上やグレン君達、それにお祖父様もいらっしゃるからな」
「分かりました。それでは今日は失礼します、おやすみなさい父上、母上」
「「おやすみ、レイ」」
お祖父様と会うのは一年ぶりだ。前回の俺の誕生日に来てくれた。
お祖父様は父上の代わりにサラザール公爵領を統治している。父上曰く、お祖父様のお蔭で騎士団の仕事に専念できるらしい。元々公爵家当主だったので、腕は確かであり、領民にも慕われている。陛下の教育係にもなり、今の陛下の政治はお祖父様の政治に似ているとか。
なんにせよ、久し振りに会えるので楽しみだ。
自室に入ると、当たり前のようにエミリアも入ってきた。
読書をしようとしたが、エミリアがいるので集中できず仕方なく寝ようとする。
「エミリア、もういいから。今日はありがとう」
「い、いえ! レイ様のお召し替えも致します!」
「いや、必要ないから」
「…………」
俺が頑なにエミリアの申し出を断ると、泣くのを必死に耐えるように下を向いて俯いてしまった。と言うか、もしかして泣いてる!? ナンデ、ドウシテ!?
だって、この歳で自分で着替えられないって相当じゃないか? 俺の場合、精神年齢で考えると三十路のオッサンが小学生低学年に服を脱がせてもらうことになる。
犯罪だ。
「実は、っぐ、母様からお仕事できなかったらレイ様に捨てられてしまうって、えぐっ」
「………………」
厳しい母親だなあ。薄々気付いてはいたけど、リリアナさんは身内には厳しいらしい。幼い頃から教育させられて、遊んだこともないのかなあ。
俺はそんなエミリアをそっと抱き締めて頭を撫でた。
「ふぇ…………?」
「エミリィ、別にそんなことで俺は君を捨てたりしないから。さあ、今日は帰ってお休み」
「……………………はい」
エミリィは恥ずかしがっているのか顔を真っ赤にすると、一礼して部屋から飛び出して行った。
少しキザっぽかったかな。我ながら結構クサイ台詞を言っていたと思う。親しみを込めてあだ名で呼んだのも、抱き締めるのも流石に早かったか? まだ会って間もないし。
あー、考えると結構恥ずかしくなってきた! さっさと寝ちゃおう!
でも、泣いている姿が妹の一花にあまりにも似ていたから思わず抱き締めてしまった。