第4話 『お泊まり会 その二』
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アングレン卿に案内されて魔法師長の執務室に来たのは良いものの、王城はとても広くここまで来るのに十分以上もかかり、ルナとエリサはお疲れ気味だった。
しかし、逆に考えると十分歩くだけで魔法のプロフェッショナルと話せるのだ。ここまで嬉しいことはない。
アングレン卿はドアの前に立つと、静かにノックした。
「王国騎士団第三部隊副隊長ヘクトル=アングレンです。ロズベルク様、少々お時間をよろしいでしょうか?」
「……鍵は開いているわ。どうぞ」
「「「失礼します」」」
宮廷魔法師長の執務室の中は思っていたよりもずっと綺麗だった。もっと魔法書や魔法具がゴロゴロ転がっているかと思えば、意外と整頓されてある。
執務机には少し濃い目で青いロングの髪の若くて美しい女性が座っていた。
そういえばあのお披露目会の時、ロズベルク伯爵も出席なさっていたはずだが、どうも挨拶する機会が無かったな。
「アングレン卿に王子様とお姫様達はわかるけど、もう一人の子はもしかして噂のレイ君?」
「は、はい。初めまして、レイ=サラザールと申します」
噂とはなんだ。その言い方は気になるじゃないか。
良い方向の噂だったらいいんだが、もしやエリサの婚約者ってことでかもしれない。いや、それに間違いないだろう。もう王宮では広まっているのか。
「私はフィオナ=ロズベルク。宮廷魔法師長をやらせてもらっているわ。よろしくね」
どんな方かと思ったが、予想とは全然違って優しそうなお姉さんみたいなタイプだ。その、なんと言うか、ゆったりした服を着ているから胸元とか見えててより一層大人に見える。年齢からして、結構タイプだ。
彼女も今年で二十七、貴族として行き遅れに片足どころか腰までドップリ浸かっている年齢であるそうだ。キレイな人なのに…………
「でもしかし…………」
「…………?」
ロズベルク伯爵はゆっくりと椅子から立ち上がると、俺達の元に近付いてくる。
そして、俺の目の前に来た途端、急に抱き締められた。…………一体何事?
「ん~! 噂通りちっちゃくて可愛い! それに抱き心地もバッチリだわ!」
ロズベルク伯爵は俺の嫌いな香水の臭いがあまりせず、彼女自身の大人の女性の匂いが漂って来てクラクラする。
それに身体はとても柔らかく、思わず身を任せてしまう。胸も大きくて柔らかいなあ…………
…………やはり俺はロリコンじゃないな。心底良かった。
「あー! フィーだけズルい!」
「あ、あの、あのあの、フィオナさん、その、レイさまは私の婚約者なのですが…………」
脳死しているといつの間にか左腕をルナに引っ張られ、素敵な感触から剥がされてしまった。
それと同時に右腕はエリサに抱えられており、頬を膨らませている顔はなんとも可愛らしい。
嫉妬している…………のか? 五歳児が会って一週間の男に? まさか、慢心するのも大概にせい。
「ロズベルク伯爵、レイはエリサの婚約者でもあるので」
「ふふふ、確かにグレン君の言う通り、これ以上はお姫様達の反感を買ってしまうから止めておくわ。それで、今日はどうしたの?」
「は、はい。本日は陛下からロズベルク伯爵に挨拶するよう勧められましたので」
「へー。ふーん」
「………………あの、ロズベルク伯爵?」
ロズベルク伯爵は俺を離したものの、そのまま至近距離で俺をジロジロと観察している。何かとても興味をそそられたみたいに。
少し経って満足したらしく、また執務机に座った。
「ねえレイ君、私のお婿さんにならない?」
「へ――――――」
「だ、ダメですっ! レイさまは私だけのレイさまなんですっ!!」
イキナリ何を言い出すかと思えば、ロズベルク伯爵はとんでもない爆弾を落とした。そして、その爆弾に瞬時にエリサが反応する。
エリサってひょっとしてひょっとすると………………? いや、まさかな。
「それは冗談としてレイ君、あなたは凄く優秀な魔法使いになると思うわ。それも、私を抜くほどの」
「「「え?」」」
その場にいたロズベルク伯爵以外の全員が間抜けな声を上げる。
それを見たロズベルク伯爵は如何にも予想通りと言う顔をした。
「正確な事は八歳に受ける適性儀式の結果で分かるのだけれど、魔力量くらいは割と簡単に調べられるの」
「…………それで、僕の魔力量を調べたんですか?」
それで、俺の魔力量は普通の子供より多かったと。魔力量は魔法の練習だけじゃ上がりづらいらしく、元々の才能に依存するとか。
それが多いのなら、俺にとって好都合なのだが…………。
「そう。その結果……………………まだ魔力器官が発達していない現時点で既に、魔法師団団員の一人分は余裕であるわ」
□■□■□■□
ロズベルク伯爵の執務室を出て、ルーミリア家の皆様と一緒に昼食を頂いた後、庭で鬼ごっこしていた。
「姉さま速いです…………」
「意外とレイもたいしたことないわねー」
「確かに、女の子とは思えない速さだな」
「…………姉上はよく宰相とかに追いかけ回されているからな。慣れているのだろう」
昼食からずっと鬼ごっこをしているが、俺達はルナを一回も捕まえる事ができていなかった。
宰相に追いかけ回されるって、ルナは一体何をしているんだ。やんちゃとかそう言うレベルの話じゃないぞ。
結局、あまり身体の強くないエリサが疲れを訴えたので、王城にある湖の近くの東屋で休んでいた。
時間的にもおやつの時間であり、丁度良かったとも言えるだろう。
クッキーと紅茶を飲んで、貴族らしい優雅な休みをしていた。
しばらくのんびりしていると、両肩に衝撃が走った。ルナとエリサが疲れて眠ってしまったらしい。俺の肩を枕にして寝始めた。
今日は天気もいいからお昼寝にはピッタリだな。
向かいではグレンも小さくなって眠っていた。意外と可愛い寝顔である。
結局、鬼ごっこに集中できなかったな。
「ははは、王子様達は疲れて眠ってしまったみたいですね」
「そうですね」
アングレン卿と二人で少し緊張するが、平然を装う。子供と思われたくないし。と言うか、実際子供じゃないし! 子供じゃないし!
「レイ君も魔法の才能はあるみたいで良かったですね。流石団長の子供だ」
ヘクトルとさんとも、今日一日を通して仲良くなっていた。正直、四倍も歳が離れているのに敬語は嫌だったので気楽になった。
「レイ君は選択肢が多くていいねえ。宮廷魔法師に魔法師団、努力すれば騎士団にも入れるだろうし、何より公爵家の当主として領地の政治に専念するというのもある」
「それを言うならば、首席卒業者のヘクトルさんも引く手数多だったのでは?」
俺が何となく聞いてみた質問にヘクトルさんは両手を振ってため息を吐いた。
「僕は魔法の才能はそれほどじゃなかったんだよ。攻撃系魔法は今も苦手だ。それに、僕は平民の出だから」
この国の制度で、基本的に王宮に入るには爵位を持っていないと入れない。
平民が王宮に入るには、ヘクトルさんのように騎士団で功績を残して騎士爵位を貰うか、王宮の使用人になるか、王室御用達の豪商になるか、王に直々に裁かれる程の大罪人位しかない。
素性の分からない者を王宮に入れられる訳ない、と言うことだ。
「その才能と環境、心底羨ましいよ」
「ヘクトルさん………………」
俺もその気持ちは前世の記憶があるから分かる。
前世の俺は、兄貴達や出来た妹と自分を比べて勝手に劣等感を抱いていた。ヘクトルさんの気持ちも痛いほど分かる。
しかし、この世界では子供の俺は何も言うことは出来なかった。
暫く無言の状態が続いたが、暗くなり始めるのと同時に皆起きる。
俺の肩で寝ていたことを知ってエリサが顔を真っ赤にしていたのが凄く愛らしかった。
そうして皆で夕食を食べて風呂に入り、いよいよ寝ることになった。
皆で寝るのかと少し期待したが、男子と女子は違う部屋だった。
普段からルナとエリサは一緒に寝ているらしく、今日も一緒みたいだ。
俺はグレンと一緒に寝ることになったが、そのまますぐ寝るのもつまらないので、ルナとエリサの話とか、普段の陛下の話をしてもらっていた。
「レイ、そろそろ寝るか」
「そうだね、まだ明日もあるし」
――――――――コンコン。
ちょうど寝ようとしていたその時、寝室のドアが控え目にノックされた。メイドさんか何かだろうか。
グレンと一緒にドアを開けると、パジャマ姿のルナと、ルナの服の裾を掴んで離さない涙目のエリサの姿があった。暗くて怖いのかな。
「…………姉上、こんな時間にどうしたんです?」
グレンがため息を吐きながらルナを注意する。
しかし、本人は反省するどころか腰に手を当てて少し胸を張った。
「レイ、グレン、明日はこっそり城下町に行きましょ!」
「「…………え?」」
来週はテスト週間なので投稿頻度激減します。