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憧れの彼は、バレエダンサー  作者: 水田けいこ
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編入生は、バレエダンサー

放課後、下校途中の五月。


五月の下校途中には、劇場がある。


グリーンホール相模大野だ。


日々、数々のエンターテイメント作品が上演され、

数々のダンサー、アクターが名を連ねた場所だ。


とは言え、人生の陰を歩んできた五月にはあまり良い思い出がない。

あれは、幼稚園のお遊戯会のこと。

なぜか五月の通う幼稚園では、グリーンホールでお遊戯会の発表をするのだ。

そのお遊戯会の時、緊張しすぎた五月は足がガクガクになり、何もできずに立ち尽くして終わったのだ。五月にとってグリーンホールは苦い思い出の場所だ。

あの時、上手に踊ることができていたら、きっとこんな苦い思い出にはならなかったのだろう。


そう思いつつ、その場所を通りすぎようとしたその時。


「哲也!なぜこんな大切な時期に足を痛めたりしたのー!」


劇場の前にいる女性が声を荒げている。


・・・哲也?


今朝、隣の席になった王子さま系編入生も哲也くんっていったな・・・。


そう思いながら、五月が振り向くと、そこには編入生の有栖川 哲也がいた。

しかも、バレエダンサーのような服装だった。


その姿はまさに王子さまだった。


哲也は、ガウンのようなものを羽織ってはいたが、その下には眠れる森の美女のデジレ王子の衣装を着ていた。


哲也君はバレエダンサーなの?

足を痛めたって?

もしかして、私と今朝自転車でぶつかったから?


五月は困惑していた・・・。


五月はしばし、彼らのやり取りを見届けた。

女性はどうやら哲也のバレエの先生らしい。

哲也は前回の公演でも足の故障であえなくステージに立つことを断念し、やっと今回の公演での王子役を掴んだところだったことがわかった。

女性は哲也を残し、劇場の中へと戻って行った。


落ち込んだ哲也は大きなため息をついた。


そんな哲也を見ていた五月は、たまらなくなって彼に声をかけた。


「あの・・・。」


「あっ、・・・藤堂さんっだっけ。」


哲也は応えた。


「哲也くんって、バレエダンサー?」


五月が尋ねた。


「あぁ。今の話聞いてたのか?」


哲也は応えた。


「前に痛めた足、今朝チャリでぶつかって、またやっちまったみたいで・・・。

今日に始まったわけじゃないんだ・・・。

上手くいきかけると、この足が痛むんだよな。

左ひざの内側・・・。」


哲也は、五月に話した。

哲也は普段無口な方なのに、なぜか自分の体の痛みをスルスルと五月に話した。


「左ひざの内側・・・。」


五月は、哲也の痛みの部分に目を合わせた。


すると突然、大空から光の束が降り注いだ。

五月が今までに見たこともないような、キラキラした光の束が、哲也の左足に目掛けて無数に降り注いでいた。

五月は、見たことのない光の束に、身動きも出来なかった。

光は哲也の左足に降り注ぎ、やがてふんわりと世界に散らばっていった。


哲也もその光の存在に気付いたのか?

光が止んだ後、左足を動かして


「あれ?痛くない・・・?」


と、怪訝そうな顔で呟いた。


「何かしたのか???」


と、仏頂面で五月に尋ねる哲也。


こわい・・・。


五月には、哲也の顔もこわかったが、目の前に降り注いでいた光の束もこわかった。

五月には、何が何だかさっぱりわからなかった。


五月が何かしたわけでも何でもなかった。

ただ、五月は本気で哲也の足が治って欲しいと思っただけだった。その次の瞬間には大空から光の束が哲也の左足に降り注いでいたのだ。


「哲也ー。」


劇場の中から哲也を呼ぶ声が聞こえた。


「ごめん、俺行かなきゃ。」


哲也は五月にひと言かけ、足早に劇場へと戻って行った。




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