表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ソラのキセキ  作者: 昴。
1/4

1.二人の出会い

 パキン。

「おー! ホームランだー!」

 丸い氷が頭上高く、白い建物へと飛んでいく。

「よっしゃ! トーヤナイス!」

 パン! と向こうがハイタッチをしあう。

 広い公園では、野球用のグラウンドで、十四人の少年が野球をしていた。

 正確に言うと、『魔法を使って』野球をしていた。

 風の魔法で球速を上げるのも、バットを固くするのも、自分の筋力を上げるのも、何でもありだ。もっとも、バットの肥大化、ボールの圧縮、人体への攻撃は禁止だが。

 春休みももう終盤。太陽の機嫌が良い今日は、少年たちのほとんどが、半袖になるなり袖をまくるなりしている。

「あー、打たれたか……」

「まあまあ、だいじょぶだいじょぶ、逆転できるって」

「……それより、ボール、病院の中に入っちゃったんだけど」

「え?」

「マジで?」

「どこらへん?」

「あの、二階の端っこの部屋のあたりだったと思うんだけど……」

 少年は、指差して言う。

「そこまで見てなかった」

「わからん」

「……はあ、わかった。僕がとってくるよ」

「俺も行こうか?」

「あ、なら僕も」

「いいよ、僕一人で」

「でも、さすがに一人だと……」

「大丈夫だって」

「……サンキュー、ソラ。悪いけど頼む」

 少年たちは、申し訳なさそうに言う。

「はいはい。帰り遅かったら、先帰ってていいよ」

「おう。わかった」

 そうして、彼は病院へ足を向けた。


   *   *   *


 魔法は、一般には知られていない。

木の葉を隠すなら森の中、人を隠すなら人の中。しかし、人が多い場所を避けるのは言うまでもなく、あまり人が少なすぎても逆に不自然だ。

だから都会からそれほど離れていないが、比較的田舎で人がそれなりにいる市に魔法使い養成学校が作られ、そこで少人数の学生が学んでいる。

 彼――空は、魔法使いの両親に、その学校に通わされた。

 しかし、人並みの魔力は持っているにも関わらず、魔法がなかなか使えなかった。

本人は、魔法自体を嫌っているわけではなく、むしろ魔法理論そのものは楽しそうに勉強している。かといって猛勉強をしたりすることはなく、筆記系の成績は真ん中あたりをさまよっている。

 いくつかの難易度が低い魔法はなんとか使うことができたが、複数の魔法を同時に行使したり、少し難易度が高い魔法になるとなかなかできない。

 理由は、理科――特に物理と化学が、致命的なまでに苦手な点だった。

 魔法は、科学の対極にあるのではなく、むしろ科学を基盤としている。

 科学的に証明されたことを手順を省略あるいは簡略化して詠唱などで行うのが魔法だ。

 つまり、科学理論の上に魔法理論が成り立っているのである。

 彼の科学のレベルは、学年の一般科目の理科の試験で、集中的に勉強してやっと赤点が回避できる、という程度だった。

 だが、魔法の勉強はできても、理科の勉強など、進んでやりたいことではなかった。

 結果、彼は初歩的――小学校レベルにプラスアルファがあるくらいの知識を使う魔法を、単発でしか使えない。

 一般科目の成績も人並みにはあったので、一般校への転校も考えたが、魔法知識を持つ者を転校させるのはまずい、という魔法委員会の判断により、今の学校でいる。年上、年下関係なく友達はそれなりにいたし、皆いい人だった。

 本人は、今の状態をよくは思わなくとも決して否定的にとらえず、気が向いては理科の勉強をしようと教科書をあけてはやる気をなくす。

 そんな日常を繰り返していた。


   *   *   *


 緊張するなぁ……。

 件の部屋の前で、僕は立ちすくんでいた。

 もし怖い人で、すっごい叱られたらどうしよう、だとか、医療器具壊しちゃったりしてたら、だとか、嫌な想像は消えてくれない。

 どのみち、ちゃんと謝らないと。

 意を決して、コンコン、と軽くノックをする。

「すいません、失礼します。この部屋にボール飛んできませんでしたか?」

 中に入ると、窓は運よくあけられていたらしく、無事だった。

 ベッドに座っていたのは、長い髪の少女だった。

「あ、これ、君の?」

「はい。ごめんなさい……」

「ううん、大丈夫だよ。でも、気をつけなきゃだめだよ? 機械なんかにあたると、死んじゃう人だっているんだから」

「はい……ごめんなさい」

 もう一度、謝罪の念を深くこめて頭を下げる。

「まあ結果的に大丈夫だったんだからそんな――あ、そうだ」

 少女は思いついたように切り出した。

「おわびに、っていうわけではないんだけど、一つお願い事していい?」

「うん、僕にできることならいくらでもやるよ」

「あなたの話を聞かせてよ」

「僕の……?」

「うん。私、小さいころからずっとここだから、学校とかよく知らないの。だから教えてくれると嬉しいなー、って」

 少しでも罪滅ぼしになるなら、と思い、了承する。

「でも、僕の話なんてたいして面白くないと思いますよ?」

「ううん、いいよ。聞かせて。あ、あと、敬語とか使わなくていいよ。私、敬語使われるのあまり得意じゃないの」

 少女は、顔を綻ばせた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ