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君に出会うための物語

作者: 百花

痛い、痛い痛い痛い……いや、もう死んだ俺もう死んだわ俺の冒険終わったわ。

セーブもリロードもできないなら、致命傷を受ければすぐバットエンド。


もういいじゃないか。頑張った、頑張ったよ俺。

あーぁ、これが夢で、起きたら自分の部屋だったらいいのに。


何故俺がこんな目に……。



「しっかりしてください。

 きっと、きっと良くなりますから」



ひんやりとした何かが顔に押し当てられる。

意識が浮上し、俺は瞼をそっと開いた。



「意識が戻られたんですね……よかった」



そこには、ほっとした顔で微笑む女神がいた


女神は濡れた布で、もう一度俺の顔を拭ってくれた。

何か話したかったが、意識はすぐ熱に呑まれて俺は何もできなかった。






異世界ファンタジーものの話で、召喚、転移、または転生だとかそういう展開。

俺達はその中で、『異世界召喚』ものを経験した。


放課後、日直で日誌を書いていた俺は突然闇に飲み込まれ、気が付いたら複雑怪奇な模様の床に尻餅をついていた。

周囲には俺と同じように戸惑った顔した奴らがいて、鎧の集団が俺達を囲んでいた。その場には他にも人がたくさんいたし、身分の高そうなおっさんが色々説明していたが、一番印象深かったのは鎧の集団だった。怖かったし。

かくして、高校の敷地内にいた30人ほどが、勇者として召喚された。

基準は何なのか。召喚を行った国や教会は『女神に選ばれた』と言っていたが、本当かどうかはわからない。

そういう腹の探り合いができるほど、俺は利口じゃない。

ただ、彼らの言い分をそのまま飲み込むならば、この世界には魔王が存在していて、魔王が世界に災厄をばらまいている所為で、世界は滅亡に追い込まれているのだそうだ。

それが真実かどうかはおいておいて、大陸全土で災害級の異常事態は多発しているのは本当だった。


『女神に選ばれた勇者は与えられた恩恵を持ってして、災厄を鎮め、元凶である魔王を討て』


ざっくり言えば、これが表向きの理由。

正直に言えば、自分たちの世界のことなのだから自分たちで解決してほしい。切実に。

先日まで平和な世界で、怠惰に日常を貪っていた高校生に何を期待できるのか?いや、できまい。

しかしながら、呼び出されて帰してくれと言って帰してもらえるはずもなく、何も知らない世界に放り出されるわけにもいかず、結局役目を背負わされるはめに。

引き下がらずに帰りたいと主張した人もいたが、『送還の儀』の手段と魔法陣は失われてしまい不可能だと返された。魔王を倒した暁には、女神との対話が許可され、なんでも願いが叶うという。つまり、帰りたければ魔王を討てとのことだ。

色々と納得できない気持ちのまま、国と教会の支援の下、五つのグループに分かれて大陸に飛び回ることとなった。




そして、俺は弓道部の友人と、顔見知りの元クラスメイトとその幼馴染ちゃんの四人で行動することとなった。

RPG風に言えば、元クラスメイトは剣士、幼馴染ちゃんは僧侶、友人が弓使いで俺が魔法使い。……おい、今DTって言った奴は誰だ?確かに俺はDTで、魔法使い予備軍だが今はそれは関係ねぇだろ、ゴルァ!


それぞれの役割がハッキリとしたバランスのいいパーティだった。

問題があるとすれば女子が幼馴染ちゃん一人で、申し訳ないというか、不安そうだったことだろう。

しかし、それは段々と覆り男子の方が肩身狭くなっていった。


元クラスメイトはチーレム野郎だった。


行く先々の村、街、都で人々から災厄の情報を集め、時に人々の頼みを受け恐ろしい魔物と戦ったり、多くのトラブルに巻き込まれていった。

その度に、チーレム野郎は能力を開花させ、強く個性的な女子たちをGetしていった。

……戦力が増えるのは嬉しいのだが、個性的すぎて胃にダメージが来るのは気のせいか。

それでも、チーレム野郎を見捨てて友人と逃げ出さなかったのは、チーレム自身が普通に良い奴で、見捨てたら(今やなりふり構ってられない幼馴染ちゃんも含む)ピラニア系女子に喰われるのが見てわかっていたから。

奴も悪い奴じゃないんだ。仲間は見捨てないし、俺も友人も何度も戦いの中助けてもらった。時には男同士スケベ話に花を咲かせたし、馬鹿もやった。ただ、その優しさが仇となり肉食系女子ホイホイとなっているのが問題なんだ。

それなら、早いところ相手を決めろよという話なのだが、そこは変に真面目なのか、優柔不断なのか、そんな簡単に決められないときた。

いや、決めろよ今や八人の女の子がお前を巡って争ってるんだぞ、中には好みの子が一人ぐらいいるだろ、むしろ早く決めてくれよ、毎回女の争いが起こる度に被害を抑える俺たちの身になってくれ、俺と友人の胃に穴あきそうなんだよ。

まぁ、ピラニア系女子が怖いのはわかるけど、さ……これ以上、ピラニア増やしたくないだろがよぉ……。

そんなこんなで、災厄よりもピラニア系女子が怖いと俺は胃薬を飲む。


俺、恋するなら肉食系女子じゃなくて、おしとやかな癒し系女子がいい。


何度も何度も、ピラニアに貞操を狙われているチーレム君を哀れみつつ、夜空に願った。




「卵スープ作ったんです。食欲はありますか?」


おずおずと赤茶色のポニーテールが可愛い女神は、俺にそう伺ってきた。

お盆に乗った器から湯気と共に、食欲を誘う香りがする。

もちろん、否はない。高鳴る気持ちを抑えて、お礼をいって美味しくいただいた。


およそ一週間前、俺は死にかけた。

災厄なんて関係ない、ピラニア同士の戦闘による被害で。

いつも通り、女子同士によるチーレムの取り合いで喧嘩から戦闘に発展した。

本当に仲悪いよな、女騎士と魔女って。そう思いつつ、周囲に被害が行かないように結界を張っていた矢先だった。

俺の後ろで女盗賊がチーレム君を押し倒していた。


その後のことは、お察しいただけよう。


不幸なことに、被害を抑えようとした俺が犠牲になり、他の仲間は幼馴染ちゃんの防御法術で事なき得た。

ちなみに、幼馴染ちゃんは後で泣きながら謝ってくれた。しょうがないよ、うん。人間出来ることに限りがあるんだから。

そして、女騎士と魔女からも謝罪はあったが、鍛え方が足りないとか魔法で躱すなり逃げるなりできたはずだなど、何故かダメ出しされた。お前等の辞書に罪悪感って言葉は無いのか。



「経過は順調。問題はありませんね。

 あと、三日で退院できますよ」




こういうのを塞翁が馬……というんだろうか?

重体になった俺は仲間からの回復術を施されたが、目を覚まさず苦しみ始め、診療所に担ぎ込まれた。

その先で、俺は診療所で看護師をしている彼女と出会えた。

ほんわかした空気だけど、世話好きで、よく笑う普通の女の子。それが俺の女神。


ただ寝込んだ原因がいまいち分からずに不明のままなのが、何か怖いのだが……異世界の奇病とかいわないよな?

友人曰く、日々の苦労で無理が祟ったのだろうとのこと。



「……退院した後でも、貴女に会いに来てもいいですか?」



顔が熱いのを自覚しつつ、働き者のかさついた手に触れて俺は言った。

脈打つ音が耳の横でうるさいくらいだ。


厄介な異世界召喚もの、厄介な仲間たち。

損な役回りばっかりだが、俺がこの世界に来たのは彼女に出会うためだったのだと、そう思う。








後に、彼女が魔王の配下を名乗る者に攫われ、ぶちキレて俺が限界突破してチートに目覚めるなど、この時は知る由もなかった。





軽いノリで書いてみました。

中にはこんな話もありではないかと。


ちなみに、チーレム君はチートハーレム系のお話の主人公です。

今作主人公は不憫で不幸体質です。上記のお話の中ではきっと、準主人公の地位を気づいているでしょう。

友人君は一緒に不幸を分け合ってますが、意外としたたかで、被害を神回避してる腹黒系だといいなって思ってます。

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