前任者
まだ喉の奥に残る甘ったるい感覚。
ショッキングピンクの飲み物の香りが体に残った状態で
メメの後ろを追いながら大きな建物の中を突き進む。
「あの。。前任者のコトなのですが」
メメの背中に向けて声をかける。
「なんでしょう?」
こちらに向き直り、メメは立ち止まった。
聞きたいことはいくつか有った。
モンクの長であった前任者がなぜここにいるのか?
なぜ前任者が今の指導者にあらためて話を付けないのか?
そもそも「呼ぶ」って話だったのになぜ自分たちのほうが移動しているのか?
浮かんできた質問と、それに対する自分なりの推論が
頭のなかでくるくると回っていくような感覚に襲われた。
「前任者のことについて何か問題でもありまして?」
「問題……というか、疑問に思ったことなのですが。」
「疑問?」
「はい。疑問です。」
いくら自問自答しても答えが浮かばない。
そんな時はもう全部聞いたほうが早い。
こちらの世界の常識や理屈は
僕らの常識と理屈と折り合いがつかないこともあるからだ。
「モンクの前任者がここにいる理由と、なぜ本人が直接今の指導者に話をしないのか。という疑問です。」
「……なるほど。」
メメは一瞬視線を上にあげ
また僕の顔に視線を戻す。
「正確にお伝えできていなかったようで申し訳ありません。」
そのままペコリと頭を下げてメメは謝った。
「その辺りの話も含めて、あちらの部屋でお話させていただきますね。」
メメの手の先は廊下の突き当りの扉を指し示している。
そのままメメが部屋に向かって進んでいく。
扉の前に立つとメメが扉をノックした。
「お母様。メメです。調整役の方も一緒です。
中に入っても?」
……?
前任者って夢魔側の前任者の事だったのか?
しまった。モンク側の前任者っていうのは僕の勘違いだったのか。
「もちろん良いわよ。」
扉の奥から女性の声が聞こえた。
メメと左程変わらないくらいの若々しい声だ。
メメの手で扉が開かれ、中に歩みを進める。
真っ先に目に入ったのは
大きなベッドと、そこに横たわる老人。
呼吸はしているようだがひどく弱々しい。
そして老人の手を握りながら
ベッドの横に佇む女性が見えた。
声のイメージ同様、若い容姿をしている。
まあ、魔族なんて年齢不詳な姿をしているものが殆どなのだけれど。
ドラマで言うなら病院の個室で祖父の見舞いに来た孫
のような光景だ。
「ようこそおいでくださいました。私はムム。
メメの母です。」
『ま行多いなこの種族』
インカムから聞こえたキツネの声に
少しだけイラッとさせられた。