面会。
跳ね橋の手前で待つこと数十分。
『連絡付いたよ。改めて跳ね橋から中に入ってほしいそうだ。』
キツネが声をかけてきたのは
もう何回目かわからない自分自身との○☓ゲームをちょうど終えたところだった。
改めて跳ね橋をゆっくり渡る。
クライアントとの初顔合わせ。挨拶が大事だ。
努めて明るく、努めて元気に。
作り慣れた笑顔を顔に貼り付け、背筋を伸ばして歩く。
「お待たせしてごめんなさい、こちらへどうぞ。」
声が聞こえた先を見ると一人の女性が立っていた。
真っ黒な髪を腰まで伸ばした女性。
長袖でスカート部分がくるぶしまで隠れた真っ黒なワンピースに身を包んでいる。
ドコかの図書館で詩集でも読んでいそうな佇まい。
この人が『魔王』?とてもそうは見えない。
「はじめまして、『キツネ』のエージェントとしてまいりました。よろしくお願いいたします」
とりあえず自分の身分を声にだして伝える。
「よろしくお願いします。わたしはこの城に住む『夢魔』の長。メメと呼んでください。」
女性は頭を深々と下げながら応えた。
「驚かれたでしょう?最近はいつもこうなんです。」
庭に寝転ぶモンク達に目を向けながら言葉を続ける。
「いつも?」
「そう、いつもです。今日でもう42日目です。毎日必ずここに来ます。
だからもう今日は相手をするのをやめようかとしばらく部屋に篭っていたのですが。。」
「跳ね橋をおろして侵入してきた、ってことですか。」
「そのようですね。中からしか操作できないはずですのに。」
っていうことは、元々誰かしらが内部に侵入していたか
中に居る仲間の中に『内通者』が居るってことになるんじゃ。
「ここでお話するのも難ですから、城の中へどうぞ。」
「あ、でも。」
「何でしょうか?」
「この男たちはどうしましょう?このまま放って置くのもどうかと。」
「ああ、そうですね。では少しだけ失礼して。」
メメと名乗った女性が指を天にかざし何かを唱えると
急に男たちが立ち上がる。
思わず身構え、麻酔銃に手をかける。
「ご心配なく、わたしの魔法です。」
ニッコリと微笑みながらメメは続ける。
「さあ、皆さん。お出口はあちらです。お寺に戻って寝床についたら、先程までのことはすべて忘れましょう。」
テレビの催眠術師が言うように。ゆっくりはっきりとモンク達に声をかけ、
天にかざしていた指先を パチン とならした。
それを合図にするようにモンクの集団は眠ったまま歩き出した。
「ご挨拶代わりになるかわかりませんが。これが私達の『特技』です。
今回のお話。是非、協力をおねがいしますね。」
最後の一人が城の外へ出た瞬間
大きな音をたてて跳ね橋が上がっていった。