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プロローグ。

「よくぞここまで辿り着いたな。だがココが貴様の墓場だ!!!」

何度目かなんてもう忘れたお決まりのセリフを

僕は感情を込めて叫んだ。


大きな音を立てて崩れていく城の中、勇者と僕は対峙していた。


ここまでの間でしっかりと用意していた自慢の配下も

仕掛けていたトラップもすべて攻略して勇者はやってきた。


状況は僕の劣勢。ゲームで言うなら、HP残り一桁ってところだ。


『これで最後だ!貴様らの悪行はここで終わる!これで最後だ!』

ドコかの舞台俳優のように、腹の底から声を響かせながら勇者が叫んだ。


……いやなんで今、二回『これで最後だ』って言ったのよ?

もう少しカッコイイこと言えよ。。

心のなかでため息を付き、僕は勇者の姿をもう一度確認する。


代々続く王族の息子で、占術師さまの啓示により

この世界の希望の勇者と判明した選ばれし王子様。


まあ、ファミコン時代のRPGならドコにでもある勇者様ってわけだ。


意気揚々と大剣を片手で頭上へ翳してはいるが。

剣先が震えてふらふらしている。非常にみっともない。


みっともないといえばあの兜もだ。

豪華絢爛な装飾で、しっかりとした『伝説』もある兜だが

それに対して、どうにもこうにも勇者の頭が小さい。

さきほどこっちに向かって切り込んできた時も

兜がガクガク揺れていて、笑いを堪えるのが大変だったんだ。


こんなみっともない勇者に、今から僕は負けなければいけない。

それもお仕事だから仕方がない。

そろそろ締めの言葉を言わなきゃいけない時間だ。

息を吸い込み、役に成りきる。

できるだけ低い声で、僕は声を出す。

「フフフ…私を倒しても第二、第三の魔王が生まれる、、その時が貴様の」

『うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』


最後の言葉を無視して勇者が僕に斬りかかってきた。

弱々しい衝撃が僕の腕を伝っていく。


最期くらいは袈裟懸けにズバッと斬って貰いたかったけれど。

仕方ない、ここで終わっておくか。

最後に発光して消えておかないと。


奥歯に仕込んでいたスイッチを噛みしめると

僕の身体は真っ白な閃光を放った。

あまりの眩しさに目を閉じる。


魔王はここで死んだのだ。

明日からは勇者の冒険は伝説になるんだろう。


「勇者の剣により、魔王は二の腕を切られて消えました。」


めでたしめでたし。




目を開けると


いつもの空間に戻っていた。

真っ白な部屋のベッドの上。


お疲れ様。とキツネが缶コーヒーを僕の頬に当ててきた。

ひんやりとした感覚が頬から脳に伝わっていく


まだ少しだけ違和感の残る身体を無理やり起こし

僕はキツネに言葉を投げかけた


「あんな感じで、大丈夫だったのかな?」

「まぁ、大丈夫な方だと思うよ。クライアントも大喜びのようだし。」


キツネは部屋の隅を指さしながら答えた。


そこには金塊が無造作に置かれていた。

いわゆる金の延べ棒。ではなく岩のように大きな塊。

下品なほど光り輝いて、目を開けたばかりの僕には、

その光が少しだけキツく見えた。


「こっちで売れば、まあ数百万にはなるんじゃないかな。」

口にした額面に対してそれほど驚きも興奮もなく、キツネは自分のコーヒーを飲んだ。


こっち と言うのは僕らのいる普通の世界の話。

テレビがあって、携帯があって、ネットがあるこの世界の話。


「あっちの世界だと。。そうだな、、40万くらいの価値なのかな。多分。」


あっち はいわゆるファンタジーな世界。

魔法があって 魔族が居て 勇者がいることのある世界。


キツネはベッドの下の金庫から茶封筒を手にとり

話を続けた。

「それじゃあ、お給料の話をしようか。今回は日給4万円ってところでどうかな?」


今回は一週間ほど使ったから、28万円。

まあそれだけもらえるなら万々歳ってところだ。


僕らの仕事は

あっちの人たち専門の便利屋。


どういうわけかわからないけれど、

ここ数十年の間でいわゆる魔族の知能や道徳観が跳ね上がり

普通の人間と何も変わらないレベルに達したらしく


戦いを求めない魔王や、人間と共生を目指す魔族が現れた。


今までにない状況ができて、今までにないビジネスチャンスが発生した。

そこに目をつけたのがキツネってわけだ。


お仕事内容は大きく分けて3つ。


今回みたいに人間相手に魔王を演じてお金をもらう「魔王業」

人間と魔族の間に立って共存を目指す「調整業」

最後に、人間に狩られそうな魔族を守る事を目的とした「保護業」


まあ、細かく分けると

この3つが混ざった仕事とかもあるのだけど。


役者志望の僕にとっては演じることでお金をもらえる美味しい仕事だし

飛ばされた世界で食べる料理も楽しみだったりするし。


僕を飛ばすことで直接あっちの世界にいかない事になるキツネは

クライアントとの交渉に専念できる。


役割が分かれているから仕事が円滑に進む。


(時価)数百万のクライアントからの報酬に対して、僕の給料は多くても50万円に届かないけど

僕はそれほど気にしてない。


大金は身を滅ぼす。 って昔爺ちゃんから教わったんだ。


『そして早速で申し訳ないんだけど。』

キツネが飲み干したコーヒー缶を振りながら口を開いた


『次の仕事のお話が来たんだ。』



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