3-1
水仙はぼんやりと窓の外を眺めていた。春のうららかな日差しが暖かく少女を包み込んでいる。国道沿いの桜を見れば、風に煽られ花びらが美しく散っていた。
「…くぁ…」
自然とこみあげてきた欠伸を噛み殺す。今日も今日とて、世は事も無し。犬を連れた主婦らしき人も井戸端会議に花を咲かせる程度に平和である。
そんな平和な午後、水仙は珍しく授業を受けていた。単純に単位が足りないから授業に出ろ、と担任にきつく言われただけなのだが。退屈な授業は、何時出ようと退屈なままで、水仙としては土手で昼寝でもしていたいところだ。頬杖を突き、のっぺりとした口調の教師を流し見る。惰性で授業をやるくらいなら自習にすればいいのに。
私立鏡花大学付属高等学校。文字通り、大学付属の私立高校である。聡明、美麗、華麗、を教育理念として掲げる女子高だが、何のことはない。そこそこ頭が良いが、飛びぬけて良いわけでもない、そんな普通の学校。
水仙は、そんな普通の高校―――通称鏡高に在籍していた。自分で選んだわけではなく、親が勝手に選び、適当に受験したら合格したというだけで通っている。そこまで校則が厳しいわけでもなく、遅刻も早退もちょくちょくやる分にはあまり怒られない。流石私立、緩くていいわー、とは水仙の言である。
「―――では、柳。続きを読んで」
たまたま教師を眺めていたら、たまたま目が合った水仙は、見事に当てられた。頬杖をついていた姿勢から机に突っ伏すように顔を隠す。
「お断り申し上げそうろうべくー」
ひらひらと手を振り、拒否する。くすくすと教室に笑い声が漏れるが、教師は逃す気はないらしい。うだうだとお小言を言い始めたセンセを見るや、水仙は椅子から立ち上がった。
「お花を摘んでまいりまーす」
有無を言わさず、教室を横断し、脱出。ぺたぺたと上履きの音を立てながら、ゆっくりと廊下を歩く。どうやら追いかけてはこないらしい。やれやれ、と大袈裟に肩を竦め、無人の廊下を往く。
授業の真っ最中なだけあって、廊下は静寂に包まれている。罪悪感など欠片もなく、眠たい、などと思いながら目的地を模索した。やはり、ここは保健室か屋上かの二択だろう。とすると、天気から考えれば屋上か。うむ、と一つ頷き、屋上へと続く階段を上ってゆく。途中、担任の顔が出てきたが、今更面倒なので捨て置くことにした。
がちゃり、と音を立て、重たい扉を開く。突き抜けるような青空が水仙を迎えた。
「ういー」
爽やかな空気を胸一杯に補充し、寝床を探し始める。ぱっと見ても見つからず、日当たり良好な場所。思いつくのは一つしか存在せず、水仙は迷うことなく給水塔へと延びる梯子を上ってゆく。
「おや」