追想-1
昔々の記憶。
あるのはセピア色というか、白黒というか。
セピア色というほどほろ苦くない時点で、どうしようもない記憶なのかもしれない。
柳水仙という人間にしてみたら、面白おかしい過去なんてありえないけど。
いつもは見ない夢を、見た。
右肘の熱と鈍痛が普段とは違うモノを見せたがっているのだろう。
自身の力では覚醒出来そうにもないし、私はぼんやりとプロジェクターに映し出された光景を眺める事にした。
「水仙さん、こちらへいらっしゃい」
あれはまだ小さい頃。ちょうど物心がついた頃だろうか。長すぎる髪はポニーテールにしていた。溌剌とした笑顔を見せているというのが、自分で信じられない。
私は、生まれてすぐに捨てられたらしい。らしいというのも、はっきりとした事情を聞いていないからだ。私は孤児院で育ったが、小学校に上がるくらいまではそれが当然の事だろうと思っていた記憶がある。
孤児院の院長先生は優しかった、と思う。これも記憶にほとんど残っていないから仕方ない。それを証拠に、プロジェクターを通して見る院長はモザイクがかかったように判然としない。ただ、皺だらけだった手がよく頭を撫でてくれたことだけは覚えている。
「はーい!」
元気な返事で走り出す過去の私。何が嬉しいのか、何が楽しいのか。皆目見当もつかない。ただ呼ばれ、走ってゆくだけで面白いのか。視界から見切れた所で、ノイズが走る。
明滅するかのようにして映し出されたのは、教室だろうか。そこに居る私は恐らく小学校高学年。自分で言うのもアレだが、ロリ可愛い盛りではないだろうか。だが、あまり表情は明るくない。
思い出す。
ああ、しつこくちょっかいは出されていたっけ、と。
「親なしーやーいやーい!」
誰の言葉だったか覚えていないが、よくそんな言葉でからかわれた。父と母が居る事が普通だということに気付いた周囲は、両方が居ない私を攻撃したがった。子供らしいと言うか何と言うか、自分たちとは違うモノを見つければとかく差を付けたがる。
お前はボクたちの仲間じゃない。お前はワタシたちとは違う。
ガラスのハートな私は、そんな無邪気な邪気を受ければ傷ついていた。どうして両親はいないのか。周りの皆は捨て子だと言うが、本当にそうなのか。事情があるのかもしれない。―――とか、考えていたと思う。多分。
今思えばどうでもいいことだ。周囲と違う事は悪なのだと、どうして断じられるのか。世界はその作りからして平等ではない。貧富も、美醜も、何もかも不平等に作られている。それがどうして他人と同じでなければ悪なのか、今の私にはわからない。
自分の周りは黒一色。俯いて机を見つめ続ける小さな私に当たるスポットライト。それは徐々に細くなり、遂に消えた。




