3-1
以降のパートは、『倫理観、人生観、価値感』が現代の一般的な思考と異なっています。用法要領を守って正しく摂取をお願いします。
飛び出した先に、何かが居た。満身創痍と言えど、気配を感じ取れないなんてことは、あるわけがない。では、目の前に居る女は何なのか。
表情から読み取れる感情は皆無。同性から見ても見惚れる程に整っている分、人形めいている。その女まで後三メートル。どれだけ近寄ろうと、気配が感じ取れないのは何故だ。構うものか、と思考し、しかし水仙は本能的に脚を止めた。
止まれ、近づくな。
結果が予測出来ない以上、触れるべきではない。
目の前のコレは、得体が知れない。
「有難いな。衝突でもされたら、流石に死んでいたよ」
見れば対面の石動沙織も脚を止めていた。呆気に取られたような顔だが、徐々に憤ってゆくのが見える。言ってみれば、一目惚れの相手との逢瀬を楽しんでいたのに、水を差されたようなもの。無粋な横槍は、マナー違反だ。
「アレクシア、観客席に座っていてくださいと申し上げたはずですが」
殺気が納まる代わりに台頭してきたのは怒気。アレクシアと呼ばれた女性に詰めよりながら、沙織は遠くの暗闇を指差していた。目を凝らせば、慌てたように動き出した男たちの影が数人分見える。
「用があるから出てきた。私も出迎えると言っただろう? ―――ほら、まだ私は主賓に挨拶すらしていない」
アクレシアは詰め寄る沙織の迫力に気圧される事も無く、無表情のまま大袈裟に肩を竦めてみせた。駆け寄ってくる男たちが水仙とアレクシアの間に入ろうとするが、手で制する。沙織もまた口を挟もうとするが、僅かの逡巡の後押し黙った。代わりに漏れだすのは大きな溜息。言っても無駄だと思ったらしい「勝手にしてください」と言い置いて背を向けてしまった。
そんな沙織の態度にも、アレクシアはひらひらと手を振るだけ。意にも介していない様子のまま、目の前に佇む少女に視線を向けた。
「キミが柳水仙だな。成程、猛獣だが、存外可愛らしい顔をしているじゃないか」
水仙に油断はなく、周囲を威嚇するように殺気は十二分に放たれている。しかし、アレクシアは気にも留めていない。屈強なボディガード達が尻込みする程の殺意が放たれる中、平然と水仙へと歩を進めてきた。
「そう警戒するな。少なくとも、私に敵意はないぞ。ああ、害意もない。単純に興味があるだけだ。少しばかり、話をしようじゃないか」
美しすぎる能面とでも言えばいいのか。一見すれば楽しげにも取れる口調だが、表情は全く動いていない。水仙は動く事も出来ぬまま、アレクシアが己の領土を侵すのを許した。動くな、とでも言われたかのように、水仙は一ミリも動かない。
「なあキミ。人殺しは罪だと思うか?」




