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激突する。
愚直なまでに直線を駆け、互いが互いの足先を蹴り潰さんばかりの勢いで踏み抜く。感じるのは鋼鉄の響き。考える事は、一緒ということか。
ごん!とぶち当たる額と額。
至近距離で見つめ合う殺意と殺意。
互いの笑みは狂気に彩られた相対称。
全くの同時に、両者の右手が閃く。
正確に脇腹を抉る、拳と拳。
威力に弾かれ、両者の距離が開いた。
「失礼、ソロパートを忘れていました」
そこで初めて、シンメトリーの関係が崩れる。更に大きく後退した沙織の指の間には銀色の輝き。魔法の如く現れた八本のナイフが、精密射撃を開始した。
「あら寂しいわー。一人上手は卒業したいのに」
ぼんやりとした言葉を連ねながらも、水仙の動きに淀みはない。沙織の肩が動いた瞬間、既に彼女は足を動かしていた。肩の動き、肘の動き、最後に手首の動き。射出された凶器が向かう先など、三点が簡単に教えてくれる。
狙いは胴体中央、鳩尾付近。当て易い、狙いが反れてもダメージを与えられる場所へと銀光が走った。
「っと」
右半身のまま、更に半歩右へずれる。ただそれだけの動きで、放たれた銀光は水仙の胸を掠めるように通過した。が、光は一条ではない。続けざまに右肩、左足太股、顔面と凶器が繰り出されてくる。水仙の動きを読んだ上での射撃。
しかし、少女には当たらない。間断なく放たれる凶器を、寸単位の見切りでもって凌ぎ切る。踊る黒髪と舞い上がる落ち葉、そして水仙の移動が奏でる音は、さながら舞踏。動きを止めれば即座に終演を迎えるミュージカル。
空気を切り裂く銀の光はしかし、止む気配はない。水仙の計算では既に十を超えていた。最初に見せた数を超えるナイフを何処に隠しているのか。暗器使いだということはわかる。が、これほどまでに隠しておけるものなのか。
「御上手です。――――が、綺麗に終えられますか?」
称賛と共に、一拍の間が空いた。
沙織が手を止めている。
無尽蔵とも思えたナイフは、指の間にはいない。
(ストック切れ―――――っ!?)