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仕訳人、始めました  作者: 伊乃
第三章『舞踏会、承ります』
41/67

2-4

 激突する。

 愚直なまでに直線を駆け、互いが互いの足先を蹴り潰さんばかりの勢いで踏み抜く。感じるのは鋼鉄の響き。考える事は、一緒ということか。

 ごん!とぶち当たる額と額。

 至近距離で見つめ合う殺意と殺意。

 互いの笑みは狂気に彩られた相対称。

 全くの同時に、両者の右手が閃く。

 正確に脇腹を抉る、拳と拳。

 威力に弾かれ、両者の距離が開いた。


「失礼、ソロパートを忘れていました」


 そこで初めて、シンメトリーの関係が崩れる。更に大きく後退した沙織の指の間には銀色の輝き。魔法の如く現れた八本のナイフが、精密射撃を開始した。


「あら寂しいわー。一人上手は卒業したいのに」


 ぼんやりとした言葉を連ねながらも、水仙の動きに淀みはない。沙織の肩が動いた瞬間、既に彼女は足を動かしていた。肩の動き、肘の動き、最後に手首の動き。射出された凶器が向かう先など、三点が簡単に教えてくれる。

 狙いは胴体中央、鳩尾付近。当て易い、狙いが反れてもダメージを与えられる場所へと銀光が走った。


「っと」


 右半身のまま、更に半歩右へずれる。ただそれだけの動きで、放たれた銀光は水仙の胸を掠めるように通過した。が、光は一条ではない。続けざまに右肩、左足太股、顔面と凶器が繰り出されてくる。水仙の動きを読んだ上での射撃。

 しかし、少女には当たらない。間断なく放たれる凶器を、寸単位の見切りでもって凌ぎ切る。踊る黒髪と舞い上がる落ち葉、そして水仙の移動が奏でる音は、さながら舞踏。動きを止めれば即座に終演を迎えるミュージカル。

 空気を切り裂く銀の光はしかし、止む気配はない。水仙の計算では既に十を超えていた。最初に見せた数を超えるナイフを何処に隠しているのか。暗器使いだということはわかる。が、これほどまでに隠しておけるものなのか。


「御上手です。――――が、綺麗に終えられますか?」


 称賛と共に、一拍の間が空いた。

 沙織が手を止めている。

 無尽蔵とも思えたナイフは、指の間にはいない。


(ストック切れ―――――っ!?)


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