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がちん、と爪先が石を蹴る。普通の靴であれば決して立てない音を立て、弾かれた小石は暗闇に吸い込まれていった。追い立てられた小石が跳ねる音はしない。そこは鬱蒼と繁る森の中だった。
「………舞踏会?ただの森だろこれー」
静寂の中にぽつりと漏れる声。まだ若く―――いや、幼いと評した方が的確かもしれない声だった。声からは疲れというよりは倦怠感が多分に含まれている。声音と年齢は必ずしも一致しないが、声の主は誰が見ようとも少女の姿をしていた。今宵の主賓、柳水仙その人である。
いかにも気だるげに、今にも閉じそうな瞳には一切の覇気はなく、しかし整った細面からは無気力というよりも寂寥感が色濃く見える。結ばれた口元は端が緩く持ち上げられているが、シニカルな笑みで飾られていた。
「くだらない、ああくだらない、くだらない。一句出来てもくだらない。パーティーはどうしたパーティーは」
少女は肩にかかった髪を乱雑に振り払う。漆黒の闇に埋もれるような黒髪は、滑らかな絹を思わせた。腰ほどまで流れる髪を鬱陶しげに振るい、彼女は自分の服を見下ろす。
ふくよかな胸の谷間を見せ付けるかのように胸元を大きく開けた黒いワイシャツに、アクセサリーとして使っているだろう深紅のネクタイが申し訳程度にだらりと下がっていた。更に下を見れば、濃紺のミニスカートから覗く足は太股の辺りまでソックスに覆われているが、明らかに木々の密集した地形を歩くような姿ではない。
「………途中で気付けよってかー」
ため息混じりに肩を竦め、枝と葉に蓋をされた空を見上げる。舞踏会に合わせ、割とオシャレな格好―――フォーマルとは当然言えないが―――をしてきているのに、この始末。これがホントの森ガールってか?乾いた笑いを浮かべつつ、苛立ち任せに手近にあった樹を蹴った。
ごきんっ!
やはり、樹は甲高い音を立てる。理由は彼女が身につけるブーツにあった。一見、ファーをあしらったどこにでもあるような物だが、その実、爪先から靴底までを鉄板でコーティングした特殊仕様になっている。鉄骨が降って来ても足が潰れる事はないと言われる耐久度を誇るそれを、少女は選んで履いてきた。いつも使用しているものとは別の、特別な安全靴である。
理由はある。非常に深い理由というやつだ。




