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仕訳人、始めました  作者: 伊乃
第二章『面倒事、承ります』
34/67

4-8(了)

「ああ、出迎えには私も出よう。石動女史を見る限り、私も柳水仙を生で見てみたいからな。モニター越しの特等席ではつまらんだろう?」


 沙織の僅か驚いた視線がベッドに向いた。滅多な事がない限り、アレクシア・ド・ヴィルパンという人物は動かない。今回の一件に関しては後詰めを頼む関係上事後報告だけというわけにもいかないが、アレクシアが直接現場に出向く必要はない。場合によっては彼女の身に危険が及ぶ可能性もある。好奇心だけで管理職が現場に遊びに来るというのは回避したいものだが―――

 止めようとも思ったが、諦めた。アレクシア・ド・ヴィルパンは意外に頑固なのだ。こうしたいと思ったら、自身の気が変わらない限りはその通りに実行する。面倒な事になってきた、と思いながら沙織は小さく嘆息した。


「好奇心が猫を殺すという言葉がありますけど」

「虎穴に入らずんば虎子を得ず、とも言うがね」

「…はぁ。まあ、あまり無茶をしないでくださいね」


 糠に釘というか暖簾に腕押しというか、忠告したところでアレクシアの気は変わらないらしい。勝手に乱入されて怪我をされるくらいなら、最初から配置を決めておいた方が無難なのかもしれない。沙織は頭痛の種がまた一つ増えた事を感じながら、一応上司にあたるアクレシアから視線を切った。


「まあ、上手くやりましょう」


 一度言い出したら聞かない人種はこれだから。この女に何を言っても無駄、と自分に言い聞かせ、沙織は机に向かう。場所の確保、人員の配置などやる事は山積している。計画に乗りはするものの、アレクシアが手伝ってくれるとも思えない。無責任に「頑張りたまえ」などと言いつつベッドに寝転がっている様を見れば良く分かる。現場にべったりの中間管理職は損な役回りしか出来ないのか。ストレスがマッハです。

 自然と漏れ出る溜息を吐きだしつつ、サイドチェストのぬいぐるみへと視線を投げた。

 ああ、癒される。


「ところで石動女史」

「何でしょう」

「意外に、少女趣味だな。ぬいぐるみを抱いて寝る乙女なのか?」

「………可愛いじゃないですか、タイガー…」


 やかましいわ。

 素で聞いてきたのかもしれないが、意地悪で言ってきた可能性も捨てきれない。本当に面倒な上司です、と心中で思いながら、机の上へと視線を戻す。

 赤面する沙織をからかうように、ぬいぐるみは愛くるしく笑っていた。


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