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沙織の返答に、アレクシアは小さく首を傾げた。ガラスの如く透き通った瞳が真っ直ぐに沙織を射抜く。見た目変わらぬ石動沙織の心中を覗き見るかのような視線。唐突に、無色だったキャンパスに色が載る。
「結構、大いに結構。一目惚れかね石動沙織。恋する乙女の目だな? 面白いよ、ああ、今世紀一番の娯楽だ。女史の好きにしてくれたまえよ。私は特等席から逢瀬を見物出来れば文句はないさ」
絶対零度の瞳と鮮やかに咲き誇る笑顔。くつくつと楽しげに笑いながらも、瞳には一切の感情は見えない。沙織ですら滅多に見る事のないアレクシアの笑みは、百戦錬磨の石動沙織を持ってしても背筋が凍る程の威圧感を持っていた。
アレクシア・ド・ヴィルパンは驚くほど感情を表に出さない。笑顔など一年に一度あるかないかである。だからこそ、彼女が感情を動かすだけで驚愕というよりは畏怖に天秤が傾く。口では楽しいと語ろうが、瞳はそれとは正反対の色を浮かべているのだ。それこそが、アレクシアが『氷の華』と呼ばれる由縁だった。
一しきり笑ったアレクシアは、唐突に笑顔を消失させ、組んでいた腕を緩やかに解いた。その動きに胸元の紅いリボンがさらりと揺れる。
「しかし、そう簡単に招待出来るのか?」
沙織はアレクシアの問いかけに意識を取り戻す。知らず握り締めていた拳に嫌な汗をかいていたが、無視する事にした。改めて、アレクシアの問いに意識を向ける。
「―――ええ。メールの一通でも出せばすぐに喰いついてくるでしょう。恐らく、考えている事は一緒だと思いますから」
去り際のやり取りを思い返す。デートの承諾は得ている。こちらが時間と場所さえ指定すればすぐに再会出来るだろう。
つい、唇の端がつり上がってしまう。それに応えるかのように、手の痺れが取れてきた。一度、二度と感覚を確かめるように拳を握る。すぐに再戦というわけでもないが、早く路地裏の再開を実現したいものだ。




