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「金銭では釣れそうにありません。信念とまでは言いませんが、一度決めた事を曲げる気はない模様です。正面から叩き潰すのがベストでしょう」
無機質な瞳を見返しながら、沙織は苦笑と共に大袈裟に肩を竦める。一騎当千とも言える狂戦士を正面から叩き潰すなど、あまり得策とは言えない。予想される被害は甚大であり、頭が痛い案件である。
しかし、そうか、と一言だけ返すアクレシアは尚も視線を切らない。続きがあるだろうことを、確信しているらしい。あまり期待されても胃が痛くなるのだが、沙織は深く長い溜息を吐き出しながら仕方なく口を開く。
「誘い出して、叩きましょうか。ただ、一つだけ我儘を言わせて頂きたい」
出来る事なら被害は最小限に。人的資源はそう簡単に替えが効くものでもないのだ。最大戦力を当てて、消耗した所を叩くというのがベストだろう。
――――なんて、建前に過ぎないことではあるけれど。
石動沙織は、柳水仙に惹かれていた。
対峙するだけで背筋が震える程の緊張感。
心臓を鷲掴みにして握り潰すかのような強圧的な殺意。
惚れ惚れする程に磨き抜かれた技。己と対等に相対出来る人物などそうそう居るわけもなく、しかしあの少女はその場所に在る。
個を消して数年、黙々と仕事をこなしてきた。会社の為、組織の為、国の為。とにかく個人を握りつぶしてその他大勢を優先してきた。だが、火が点いてしまった。一分一秒を追うごとに、灯火程度だったそれは燃え盛る炎へと姿を変えている。
彼女と闘いたい。技を競いたい。
それもあるだろう。
しかし本質は違う。
殺したい。
全身全霊を持って四肢を引き千切り、臓腑を抉り出して踏み躙りたい。
ああ、狂っている。
狂っているとも。
「一対一を所望します。後詰めだけお願いしたいと思いますが、如何か」




