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仕訳人、始めました  作者: 伊乃
第一章『ヒトゴロシ、承ります』
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 近頃のネット社会の普及に伴い、アンダーグラウンドの世界では様々な話題が上るようになっていた。くだらないオカルトや猥談から始まり、果ては麻薬の密売、売春行為の斡旋、殺人の代行など、枚挙に暇がない。

 その中でも禁忌とされる話題があった。

 【仕訳】という単語である。

 昨今では政治家の発言や政策で頻繁にメディアに取り上げられるようになったが、ネット社会の裏側では随分と昔から囁かれていた言葉だ。

 一般的な意味としては、端的に表現するならば分類することや区分けすることを指す。しかし、知る者からするとまた一つ意味は違っていた。


 仕訳とは、生と死を分けること。


 ただ単純に、単一の事象を指した表現に過ぎないとも取れる。だが、彼らは知っているのだ。仕訳人と呼ばれる人々が居る事を。

 仕訳人はヒトを仕分ける権利を有している。生きるべきか、死すべきか、人類が定めた法を超え、ヒトの生死を区分けする。

 まるで死神のような存在と言えよう。実際に存在が許されるようなモノではない。完全に与太話の域を逸脱しない、ただの都市伝説と判断するだろう。

 しかし、しかし。

 火のない所に噂は立たないものである。

 仕訳人と接触した、と証言する者もあった。だがしかし、それを証明する物は何一つ残っていない。

 証言を記録として残した者は、残らず行方が知れなくなっていたのである。

 ただ一つ感じられる痕跡は、口外した者が消される事実。

 自作自演という話も当然あったが、記録された証言と行方不明者の報道時期が合致するという奇特性を無視するわけにもいかなかった。

 仕訳人の存在を探りたい、でも、もしかしたら消されるかもしれない、という葛藤。長らく続いた議論は、かくして都市伝説として今もアンダーグラウンドの世界には根付いていた。

 ―――――というのも、世界の裏側、その表面部分での話である。

 事実として、仕訳人は存在した。非合法組織として、社会の、世界の奥底に、確かに実在するのである。

 その仕事は、ネットの憶測の通り「命の仕訳」だった。

 内容としては、表向き晴らせぬ恨みを代理で晴らす復讐代行である。しかし、それはテレビドラマで描かれるような勧善懲悪ではない。

 クライアントも、クライアントが指定した相手も、平等に仕分けられるのである。

 生殺与奪の権利は仕訳人に存在し、クライアントは復讐の代行を依頼するだけで己の生死をも天秤で量られることになる。

 ヒトの生死は、金銭でどうとでもなるのが実情だ。いくらでも積める金があるのなら、仕分け人を雇うことなどない。傭兵でも、ゴロツキでも、足がつかないように上手く金を使えば事足りる。

 それでも、と言うのならば。

 己の命を差し出してでも請うのならば。

 仕訳人は平等に生死を裁く。

 クライアントの覚悟を代金として、依頼を遂行する。

 今夜も、ひっそりと仕訳が始まる。


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