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「それだけならば、大した脅威とは言えないのでは? 超長距離の狙撃や地点爆破などに比べれば、排除し易くも思えるが」
緩いウェーブのかかった長い髪を指先で払いながら、アレクシアは口を挟む事にした。石動沙織の言には信頼も信用もしている。だが、単純に強いだけの者が十重二十重に組まれた防御柵を突破して目的に辿りつけるものだろうか。
数は暴力である。一つ一つは吹けば飛んでゆくような存在でも、数が揃えば強固な武装として機能するものだ。数百の人間を一対一で破り続ける事は可能――限りなく不可能に近い荒技ではあるが――としても、一度にそれらを相手にするのは不可能と言える。
「狙撃も爆破も、ポイントさえ割り出してしまえばフォローは可能です。幸い、こちらには“数だけは”ありますから」
そんなありきたりな手段は除外して良いと断言する。柳水仙はそこまで器用でもないだろうし、姦計に頼るタイプではない。未だ痺れの残る手の感触を確かめるように、沙織は己の右手を見下ろした。
「しかし、数が我々にはあることを柳水仙とやらも認識しているだろう? 遮二無二中央突破を選択するような阿呆でもあるまい」
ピンポイントの暗殺が不可能ならばどうするというのか。道をこじ開けるか、一瞬の間隙を突くかしか、方法はないはずだが。正確な人数がわかっていて、かつそれを突破出来る計算をしていようとも、わざわざ危険を冒すような暗殺者は存在しない。
「それが選択肢の一つであるなら良いですが。まあ、それはそれとして、柳水仙を端的に評しましょうか。
ええ、アレは狂人ですよ、アレクシア」
柳水仙の人物評価をしながら、沙織は自嘲するような笑みを浮かべた。正面突破という馬鹿げた選択肢を良しとするような少女の発想が、何となく理解出来てしまう。
策など女々しいとばかりに正面から捩じ伏せる。
嵐の如く暴力を撒き散らし、殺戮の限りを尽くす。
殺すと決めたからには、無理を承知で貫き通す。
一種異常な一貫性と言える。同族と認識した以上、己もまた狂人なのだろうとは思う。しかし、柳水仙の頭のネジは抜けきっているとしか考えられない。沙織は労力と報酬が見合っていないことはやろうと思わないのだから。
「狂人、か。どうにも、極上のシリアルキラーを想像してしまうな。だが、成程。そういうことならば、突飛な発想であっても許容せざるを得ないか」




