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「ただいま戻りました。何か変わりは?」
鍵のかかっていないドアを開け、中に声をかけた。扉を閉め、鍵をかけてチェーンロックもしたところで、ようやく一息吐く。
明確な仕切りがあるわけでもない玄関でパンプスを脱ぎ捨て、備え付けのスリッパに履き替えた。スーツも脱いでしまいたかったが、まだ仕事は残っている。室内へと歩を進めながらサイドチェストにぬいぐるみを置き、中で待っていた人物に視線を向けた。
「お帰り。特には何もなかったが、石動女史が独断先行とは珍しい。何か思う事でも?」
銀糸を束ねたようなプラチナブロンドの髪を持つ碧眼の女性が口を開く。非の打ちようも無い完成された姿かたちの、美しい女性だった。ベッドサイドに行儀よく腰かける様は、身にまとっている立て襟のフリルブラウスと相まってフランス人形のよう。そこには、高貴な気品と静謐な美しさが共存していた。
「ええ。今回のヤマは、そう簡単なモノではないと判断しましたので」
沙織はジャケットを脱ぎながらきっぱりとした口調で答えた。美術品の如く美しく、しかし全く表情のない女性から視線を切り、木製の椅子に腰を下ろす。小さなテーブルの上に乱雑に置かれたままの資料を一つ一つ手に取って整理しながら、沙織は口を開いた。
「アレクシア、今回ばかりは専守防衛では分が悪い。実際に顔を合わせてみて、確信しました」
アレクシアと呼ばれた女性―――正確には、アレクシア・ド・ヴィルパンという―――は、感情のない無表情な面を僅かに傾げる。相槌を打つでもなく、疑問を口にするわけでもない。端正な顔立ちを欠片も崩すことなく、アレクシアは沙織の言葉を待った。
「彼女は―――柳水仙は、職業的殺人代行者として一流です。恐らく今まで相手をしてきた連中よりも頭一つ、いや、二つは抜きんでているでしょう。単純に、彼女単体での戦闘能力が異常に高い」
二つの資料の束により分け、机の面で資料を整えながら沙織は分析する。以前に行った推測も加味する必要があった。実際に対峙して初めてわかったこともある。諸々の情報を繋ぎ合わせ、一つの答えへと至る道を模索するべきだろう。




