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仕訳人、始めました  作者: 伊乃
第二章『面倒事、承ります』
25/67

3-4

 空気が破裂する音が響き渡る。両者の一撃は互角。矛と矛が交錯し、敵を誅する打撃は見事に相殺と相成った。

 拳と掌低を突き合わせたまま、歪んだ笑みが意思を語る。



 面白いじゃあ、ないか。



 同族と評するだけのことはある。

 ああ、確かに同族だ。

 狂おしい程に愛しく、憎たらしいまでに邪魔。

 ああ。

 コイツ(貴女)は、

 殺そう。

 自然と唇の端が持ち上がる。

 次の一瞬が、殺傷の時。


「―――――っと」


 しかし、その時は訪れなかった。至極あっさりと、両者は矛を引く。示し合わせたかのように踵を返し、歩き始めた。


「お楽しみは、次の機会に取っておくとしましょう」


 沙織は地面に転がっていたぬいぐるみを抱え、紙袋を掴む。背を向けたまま、一言だけ発して水仙とは逆の方向へと歩を進めた。


「デートの約束だねー。日程とか場所とか、お任せしますよ」


 古い友人と話すように気楽に言葉を返し、水仙もまた元の道を戻り始める。背を向けた瞬間にやられる、ということはない。直感ではあるが、彼女もそんな決着は認めないだろう。

 そういえば、ミセドに詠子と世里を置いたままだった事に今更気がつく。帰ったらありがたいお説教と抉り込むような毒舌が待っていることだろう。少しばかり気が重くなってきた水仙だった。

 空を見れば、夜の帳が落ちようとしている。未だ空間が軋むような、張り詰めた空気を持つ路地を抜け、最初の曲がり角へ。

 ざあ、と風が吹いた。

 街の喧騒が、返ってくる。



「おおう。柳じゃないか。何だ、美影のバイト終わりを待っていたのか。愛い奴め」



 路地と路地が交差する十字路で、四法院美影に遭遇。彼女の歩いてきた方向的に、先ほどまで死合っていた路地へと向かうルートだった。

 水仙は内心で安堵のため息を零す。

 気配に気付いて引かなければ、四法院美影を殺すことになっていた。


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