3-2
「今日は交渉に来ただけです。そんなにやる気を出さないでください」
常人であれば心臓を握り潰されるような閉塞感の中、沙織は至ってフランクに口を開いた。場馴れしているのか、それとも何も感じていないのか。笑みすら浮かべ、魔女は言葉を口にする。
「単刀直入に申し上げます。今回貴女が受けた依頼、放棄していただけませんか? 勿論、それ相応の対価は支払いますので」
様子見も何もなく、いきなり本題から斬り込んだ。僅かに腰を落としていた水仙も、突然の申し出に気勢を殺がれた形になる。目の前の女の真意を測るように、観察を続行。しかし、沙織に変化はなく、表面上友好さをアピールするかのような笑みを張りつかせているだけ。
なるほど、今回の依頼はなかなかに厄介な事らしい。目の前の女はつい先日壊滅させた荒くれ者とは一線を画している。手の内を晒す事もなく、友好的に接するように見えてその実欠片も油断はない。何処を見ても隙はなく、こちらが動けば間違いなく即応してくるだろう。
水仙の瞼が僅かに持ち上がる。
状況はなんとなく理解した。
なるほど、なるほど。
いやはやなんとも。
「対価ってなんだろう。おねーさんの命かな?」
安い挑発。
そして、無造作に一歩、足を踏み出す。
「御冗談を。私は、貴女と同じように、金の生る木ですよ」
水仙が近づいてこようとも、沙織の意思は揺るがない。ぬいぐるみと紙袋を抱えながら、段々と距離を縮めてきている少女を見つめている。
「どうやって使えば、お金になるのかなー?」
既に間合いは五メートルを切った。がつ、がつ、と地面を削るような鈍い音を立てながら、水仙は臆する事も無く女との距離を詰める。
ついに、足が止まった。
「貴女と私は同族です。聞かずとも、自明かと」
至近距離で、視線が交差する。どちらが手を出しても、必中の間合い。底なし沼の如く、闇は深く、色濃く、路地を染め上げてゆく。
際限なく高まる緊張。
極限まで膨れ上がる殺意。
音の一切は皆無。
軋みと共に、鈍化し、遂には停滞する時間。
絶対零度の視線を交えたまま、両者は歪な笑みを浮かべた。
「―――あっは」




